■まだ、物権法シリーズつづくのだ。ごめん。まったく、なぜここまでこだわるのか。ひとつには、物権法が、改革開放以来、90年代初頭の姓資姓社論争以来の大路線論争を引き起こしているからだ。そして、物権法制定後もこの論争つづきそうだから。
■物権法、それは姓資姓社論争以来の大路線論争を引き起こした!
そして、社会主義民主(別名、鳥籠民主)の始まりなのだ!
■胡温政権の言動をみていると、政治制度改革にもいよいよ着手しようとしているようだ。物権法に代表される民法は、政治制度にも深くかかわる。正直、制度を変えないと、せっかく制定した法も、うまく運用できない。だから今後いくつかの制度改革、たとえば戸籍制度改革などをめぐって、この大論争はまた白熱する可能性がある。
■あ、おまちがいなく、政治制度改革(温首相は政治体制改革といっているけれど)とは、いわゆる政治改革ではありません。つまり民主主義に移行させるぞ、ということではなく、社会主義イデオロギーを維持しつつ行政システムを民主化にしていこう、ということだと思う。
■今回の全人代関連の報道でも、新聞によって「政治改革は先送り」と報じたり、「政治改革へ」と報じたり2種類の相反する報道があって、ネットでいろんな新聞を読まれる方は、ひょっとして混乱されるかもしれないが、ようするに政治制度は改革するが共産党中央独裁体制は維持、ということなのだ。
■つまり、社会主義イデオロギー(形骸化しているけれど)と民主的行政システムの接ぎ木。いや社会主義イデオロギーと民主的行政システムの「姦通」といった方がいいか。なぜなら社会主義イデオロギーと民主的システムは本来、「結婚」してはならない関係だから。これが温家宝くんの言うところの「社会主義民主」(別名「鳥籠民主」)。
■まあ、不倫関係でもラブラブで幸せなカップルはいるので、社会主義民主も結構うまく行くかもしれない。が、私は懸念がある。なぜかというと、社会主義イデオロギーと資本主義経済が「姦通」した「社会主義市場経済」(別名鳥籠市場経済)にはきわめて矛盾が多く、必ずしも「幸せなカップル」に見えないからだ。この状況を趙紫陽氏は「世界最悪の資本主義」と呼んだので、私もあえてこういいたい。「世界最悪の民主主義」。
■社会主義市場経済と社会主義民主、ともに矛盾のあるもの同士の組み合わせだから、意外にうまくいくのか?それとも、最悪に最悪が重なって最最悪の国家がうまれるのか?うまくいけば、古森記者が報道した米国の予測のように独裁はあと50年続く、ということになるが。
■なので物権法を詳報しようと思ったわけだが、結構、マニアックなテーマだったので、産経新聞本紙にはあまり載らかなかった。りそのうち、サンケイ・エクスプレスの「中国を読む」にでも書くかもしれない。
■さて、産経本紙ではボツになってしまった物権法起草グループ学者のインタビューをここで転載。これはビジネスアイには掲載されたが、ずいぶんはしょったので、全文をのせる。
■物権法起草グループ、江平・中国政法大学名誉教授(元学長)インタビュー
福島: 物権法制定の意義は?土地の事実上の私有化といってよいのか。
江平: 中国の土地に私有はない。それをいうなら使用権の私有化だ。農民の土地請負経営権(農地使用権)は30年変化なく、そのあとも剥奪(はくだつ)されない。これは永遠の土地使用権が保障されたことで、これを土地の私有化というなら、そのとおりだ。
福島: 使用権が永遠に私有できるなら、使用権を自由に譲渡してもいいはずだが、依然制限があり、全面開放へは慎重姿勢だ。何が問題なのか。
江平: 土地請負経営権、農村宅地使用権、これら二種類の権利譲渡で重要な前提条件は、抵当権(担保化)が保障されていること。それにはまず完全な流通、有償の譲渡が保障されねばならない。無償の譲渡ではダメだ。今のところ農民は土地請負経営権も宅地使用権も無償で取得している。
さらに農村の安定を考える必要がある。土地の用途を自由に変えることができない現行制度では農民は土地を抵当に銀行から金を借りても返せず、土地を失う可能性が高い。社会保障制度が不完全な現状で、農民が土地を失うことは危険すぎる。
(分かりにくい表現だが、つまり、今の農民は土地をタダで占有している。元値がタダのものを、流通、つまり売り買いするには、いろいろ問題がある、といいたいわけだ。元値がタダなものに、相場の値段は付けられないし、国の土地保護政策で、耕地を非農業に使うことはできないとなると、土地を担保に金をかりても、土地を活用して金を返すことは出来ない。結局、土地を銀行に差し押さえられて、流浪農民になってしまう。といいたい)
福島: 広東省や北京市郊外の一部農村では農村宅地の売買を行っている。農民も都市民も農村宅地を買え、すでに土地の市場化ははじまっている。
江平: いわゆる長屋、集団住宅ごとの売買で、一戸ずつの売買はダメだ。中国は広く地方によって経済発展状況も違う。発展地域は農民の都市移動が多く、宅地を売らねばどうしようもない。金を有償で取得した所有権は自由に譲渡できるので、広東のケースでは農村宅地はすでに相当私有化されたといっていい。
しかし宅地の市場化には別の問題がある。例えばある農民は村長と昵懇で、より多くの宅地使用権が手に入るが、村長と関係のない人は宅地使用権がみとめてもらえなかったりする。だからまず宅地制度の完成、つまり一家にひとつの宅地をみとめ、親戚関係などを利用した職権乱用を禁止する。もしこの問題を解決しないと、農村宅地が権益の温床になる。だから、宅地、農地とも農村の土地使用権譲渡には、慎重にならざるを得ないのだ。
福島: しかし中国の土地は事実上開放に向かっていると。
江平: 全体的にいえば、土地開放に向かっている。都市の建設用地が優先して開放され、農村宅地、住宅はまだ慎重で、耕地は厳しいコントロールが必要ということだ。
福島: 物権法で貧富の差は拡大するという意見があるが。
江平: 関係ない。物権法はただ合法的財産を保護できるということにすぎない。ただ、物権法は人々に豊かになろうという気持ちを鼓舞するだろう。過去の価値観では豊かになることは悪いことだった。貧富の格差は、富の再分配で解決すべきだ。それには戸籍制度などを含むさらに深い改革が必要だ。
福島: 中国の社会主義市場経済との決別との意見もあるが。
江平: 物権法論争は、中国の路線の方向性をめぐる改革開放以降の第3次大論争といわれている。一回目は改革開放直後、次ぎに天安門事件後(の姓資姓社論争)。そして04年あたりから白熱している郎咸平から鞏献田ら保守派らの物権法を中心とした論争。
その焦点は今日まで改革開放をすすめた中国は社会主義なのか、資本主義なのか、ということだ。一部左翼は物権法は違憲というが、私はそうは思わない。また(同法は)自由派経済学者の言うような完全な自由も主張していない。物権法は中国の特色的部分と国際的な部分を相持ち、現状にあわせて適度に開放をすすめたにすぎない。経済の自由化、資本化を進めたというのではなく、さらに市場化させたといいたい。
福島: 現在の社会・経済矛盾は改革開放30年のツケという意見がある。
江平: それは事実だ。改革開放は金持ちに有利で、政府の権力者は金持ちと結託し自分たちの利益のことばかり考えてきた。その矛盾が、経済の改革開放に政治改革がついてこなかったためという意見には私も同意する。政治体制の停滞が深刻だと、社会との断絶が起こり、改革開放の継続に不利だ。しかし、政治体制改革には、意識上の理由のほか、さまざまな原因があり、大胆になれないのだ。
福島: 物権法は農民の土地強制収用問題は解決できるか?
江平: 現在起きている問題の重要な部分は、土地を収用したときの農民への補償が不十分であるということ。補償金額の高い低いは、物権法とはまた別の問題だ。農民は法院にいけば、その権利を保護される。農民の土地強制収用問題の概念が一体なになのか、私にはわからない。
福島: 中国の完全に独立していない司法制度で物権法はどれほど効力を発揮できるか。
江平: 司法の状況は各国で違う。中国の司法の独立が外国よりおとり、腐敗し法曹界の質が低いのは、中国が内在する最大級の矛盾だ。これは一歩一歩改善していくしかない。
福島: 物権法ができれば、経済はさらに市場化がすすみ、外資系企業の対中投資を促進することになる、という声もあるが。
江平: 物権法を過大評価しないほうがいい。物権法は外資系企業に中国投資を促進するだろうが、不完全だ。
江平(こう・へい)元中国政法大学学長。1930年、浙江省生まれ。民法、商法、特に土地関連法の専門家として物権法案起草グループに参加。著書に「中国大百科全集法学巻」「中国司法大辞典」など。
by nihonhanihon
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