■今回エントリーは物権法論争の背景にある、理論、路線闘争を紹介しよう。ちょっと複雑なので、入り口程度。
■さまよえる中国、新自由主義VS新左派
■最近、物権法大論争に関する書籍「鞏献田旋風」なる書籍が出版された。物権法は違憲、とする鞏教授の主張から始まった論争実録。、中国財政経済出版社からでたこの旋風シリーズは実はこれで3冊目。「郎咸平旋風」「劉国光旋風」という本が05年、06年に出版されている。
■郎咸平氏は香港中文大教授で、04年から05年にかけて、国有企業の民営化が国有資産流出を引き起こし、大手家電メーカー・ハイアールなどの中国を代表するブランド企業までやり玉にあげ、大論争を巻き起こした人物。
■劉国光氏は社会科学院教授で05年に改革開放が弱者搾取の悲惨な現実をもたらしたと指摘し、「改革開放はマルクス思想の指導によらねばならない」と、大衆の共感を集め、やはり大論争を引き起こした人物。いずれも、この旋風シリーズのタイトルとなった学者はいずれも、鄧小平以来の改革開放政策の負の遺産を、社会主義原理に立ち返って解決すべしとの主張を掲げている。彼らに同調、支持する勢力を新左派、と呼んでいる。
■一方、これに対し、改革開放政策に政治イデオロギーが障害となっている、改革開放を堅持するには政治改革が必要、と改革路線を主張するのが新自由主義と呼ばれる勢力。その急先鋒が、保守派からは〝新西山会議〟と非難もされている「中国マクロ経済と改革に向かう座談会」(06年3月4日、北京杏林山荘)を主宰した高尚全・中国経済体制改革研究会会長ら。
■この会議では「中国は台湾の現在のモデルに学べ」「向かうべきは多党制だ」といったラジカルな意見が噴出。そのメモが香港メディアに流れて物議をかもし、あとで高氏が言い訳の論文を発表したくらいに、大きな論争を引き起こした。
■ちなみに西山会議派というのは1920年代の国民党右派を指す。毛沢東の反右派闘争(1957年)から半世紀、中国では右か左かの激しい理論闘争が再燃しているわけだ。
■この両者はともに現代中国が直面する行き詰まりと矛盾を認識しており、中国の現状が、社会主義と資本主義の悪い部分ばかりを集めていることを認めている。新西山会議での発言を借りると「社会主義政治・イデオロギーと資本主義的経済構造の姦通」らしい。そのいびつさが、①貧富の差拡大②農村の立ち後れ③官僚汚職・腐敗の拡大④環境汚染⑤社会の不安定化⑥思想、道徳の乱れ…などの原因だ、というわけだ。
■ただ、この解決策について、新左派は毛沢東主義回帰、人民公社の復活などを掲げ、改革開放にブレーキをかけよと主張。自由主義派は「改革開放は後戻りできない」とし、声高ではないが政治改革、つまり多党制、議会制を言い出している。
■主流派はどちら?というと、すでに動かしようのない市場化経済の現実から新自由主義と認識されている。
が、新西山会議で
①「党と議会、党と司法の関係を解決する時期にきている」
②「全人代は議会ではない。開かない方がいい」
③「憲法の規定する結社、デモ、信仰の自由といった基本的権利のいくつかは実現できない」
④「独立した司法体系がない。党の司法に対する干渉は強化されている」
⑤「農村の土地問題を解決するには、土地の私有化を実現しなければならない」
⑥「共産党が二派にわかれ、軍が国軍化することを望む(今は党の軍隊」
⑦「台湾の現在がモデルだが、我々は今中国がこの方向に進むべきだと思う」(以上、賀衛方・北京大学法学部教授の発言)
といった会議発言の中味がネット上で流出すると、保守派からわーっと反論がでて袋だたきになるのだった。
■これは現在の「基層党員の多くが保守派」(鞏教授)だから、らしい。さすがに毛沢東主義回帰、という極左は少ないだろうが、政治改革、民主化はつまるところ、党幹部らの既得権益に関わる問題なので、ラジカルな変化は望まないのだろう。
■さて胡錦濤政権の方向性は、新左派か、新自由主義か。社会主義和諧社会論を言葉どおりに受け取ると、左よりの中間型に見受けられる。つまり共産党の指導を最高位に置いた今の政治体制を維持しつつ、ちょっと左に引いたりしつつ、緩やかに改革開放の方向性を堅持していく、というやつだ。だから社会秩序を維持するのに法治ではなく、共産党の道徳観、八栄八恥(八つの誉れと八つの恥)なんてものを唱えだすわけだ。
■だが、私は党中央幹部の子弟と交流のある人から「胡錦濤氏は、自分の政権中にラジカルな政治改革を行わないとしても、次世代には期待している」と耳打ちされ、李克強・遼寧省党委書記ら、胡錦濤派の若い政治家40人余りによる民主化移行をテーマとした勉強会が月一程度の割合で開かれていると聞いたことがある。この勉強会も西山学派と呼ばれているらしい。
■こういう話が、本当かどうかは、確かめるすべは私にはない。ただ、保守派の抵抗をうけつつも
①今回の物権法制定
②戸籍法に真剣に取り組む方向性を示している
③インターネット規制強化、文革以来とも言われる発禁書の多さ、メディア・言論統制の厳しさのわりには、新西山会議でのラジカルな意見のネット流出や体制をめぐる論議がネット上で盛んなこと
④李大同氏や焦国標氏など民主派知識人が言論弾圧を受けつつも、意外なことで国外での出版や講演は容認されている事実
⑤胡錦濤のブレーン、兪可平党中央編訳局副局長インタビュー集「民主主義っていいもんだ」など、政治改革にむけた観測気球風の言論が出ていること
などをみると、やはり政治改革への布石なのかなあ、と思ったりする。
■胡錦濤同志の目指すところは、彼の密かに尊敬する胡耀邦同志の遺志を受け継ぐことにあるのか?だとしても、胡耀邦の徹はふむまいと心につよく決めていることも確かだろうけど。左に寄ると見せかけて右に回るのか、右に行きたいけれど左にひよるのか。政治局内の暗闘とも関係があり、どうなるかは予断は許さない。
■いずれにしろ、中国の体制矛盾はもうパンク寸前。中国よ、右にいくのか、左にいくのか、そろそろ正念場だぜ?と思いながら、次のエントリーでは、物権法制定による、中国経済への影響、日本企業など外資が受ける影響などを考察する。(まだ続くのかよっ)
★新西山会議発言の訳文などは、大先輩の中国ウォッチャー阿部治平氏の論文を参考にさせていただきました。
by nihonhanihon
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