■前エントリーの続き。注)やっぱり、だらだら長いですよ。
■物権法賛成派の主張:
物権法は法治国家の基礎、時代は後戻りできねぇぜ!!
■前回は物権法についていきなり反論側の主張の解説から始めたが、胡錦濤政権が物権法制定を急ぐにのは当然と言えば当然なのだ。私有財産がいつ没収されるかわからない状況で、おちおち経済活動に専念などできない。そもそも、法治国家を目指しながら民法が完成していないなくて、いいんかい!ということである。
また、目下中国にとってもっとも頭の痛い、社会の安定につながる貧富格差、都市と農村の格差の問題を解決するにも、物権法は必要だ、と賛成派は考える。なぜなら、格差是正のための富の再分配に必要な税制(相続税や不動産税も含む)の完成には、私有財産の定義というものを明確にし、保護して初めて成り立つ。
ここで、賛成派、つまり物権法草案を起草した学者チームの王利明・中国人民大学法学院教授の論文要約を紹介しよう。やはり小難しいので赤字意訳を入れました。
■物権法の平等保護原則を試論する
■私が思うに物権法は平等原則保護の堅持、すなわち、我が国の基本経済制度を反映しつつ、我が国の基本国情を体現し法律であり、立法の正確な方向を堅持するだけでなく、協力なコントロール作用をもつ。
(物権法は、今の中国の国情からいうと必要なんだよ、物権法をつくることで法治国家がより進むんだ)
■平等原則とは、民法平等原則を物権法上で具体化したもので、公有、私有の財産を平等に保護するものだ。もし物権法がこの平等保護原則を法規したら、民法の基本原則に違反し、民事法律の基本属性から離脱することになる。(物権法っていうのは、早いはなしが、財産権はみんな平等ってこと。そもそも民法っていうのは、国も企業も個人も平等っていう原則でなりたっていて、それを否定しちゃ、民法はできないんだよ)
■ポイントは①物権主体の平等。物権の移譲についても、共同の規則、方式を遵守するべきだ。
たとえば、国有地の使用権において、建設用地使用権を設定する場合、当事者の一方は国家土地管理部門、もう一方は法人が公民であるが、その双方は必ず平等でなければならない。また、物権を行使するとき、他人の物権を損害してはならない。(物権法のキモはね、①物権の譲渡・売買は、国同士、企業同士、個人同士、国と企業、国と個人、企業と個人とどういうパターンであっても、共通のルールというか原則で、平等に行われるんだ。今の中国じゃ、権力とのコネで庶民から土地を強制収用したりしているけど、物権法ができたら、こういうこと阻止できんだよ)
②物権において衝突が発生した場合、この平等原則によって紛糾を解決する。たとえば国家と他の主体が紛糾すれば、法院(裁判所)に、その物権の帰属をはっきりさせることを請求できる。この法院への請求権も平等に与えられる。(物権をめぐる争いは、司法で民事裁判を行ってはっきりさせるんだ。物権法ができたら、土地収用の立ち退き補償額とかで開発業者と住人がもめたら、裁判所に民事訴訟を起こして、解決できるよ。)
③物権が侵害された場合、平等に保護される。公有財産と合法の私有財産は保護を受ける。公有財産だから保護を多く受ける、ということはない。(平等保護が原則だから、国側、企業側が有利ってことはないんだ)
■どうして平等原則の確立が必要なのか。
それは①物権法の平等原則が我が国の基本経済制度を正確に反映しているからである。憲法6条によれば、我が国は目下社会主義の初級段階で、公有を主体にしつつ、多様な所有制経済の共同発展が基本だ。憲法は国有経済が国民経済を主導するというが、同時に多様な所有制経済の発展も保護せねばならない。財産関係は主要な経済関係であり、各種財産権は法律上に体現されねばならない。法律を通し、多様な合法的財産権益を確認、保護することは経済基礎発展に必要だ。物権法は基本的財産法であり、基本経済制度の保護のための主要任務である。(物権法制定は社会主義決別を意味するってヤツがいるけどね、今の中国って、はっきりいって、すでに公有制主体じゃないだろ。今の経済体制を維持するには、物権法は絶対必要なんだ)
②また、物権法の平等保護原則が確立してはじめて、社会主義市場経済制度を保護でき、20年来の改革開放の成果を保護できるのだ。我が国は改革開放の実践を表明し、多様な所有制の平等保護と共同発展の方針を堅持し、最大限に社会主義公有制の潜在力を発掘できるのだ。物権法の充実は市場経済の本質的要求であり、市場経済秩序の基礎となる。市場経済条件のもと、財産権は民事が主体であり、財産権の平等保護の実施が市場経済が内在する法律上の要求を体現したものである。財産権を平等保護し、財産秩序と交易秩序を確立して、市場経済の発展を促進することが、最終的には公有制の発展にとっても有利なのである。(特色ある社会主義市場経済って、ややこしいこといっているけど、要するに市場経済だろ?市場経済を導入しているんだから、物権法は必要なの。それに、公有制ったて、個人が稼いで、税金おさめて、それで社会の公共財なんかも作るわけだから、個人が稼いだ財産を守ることが、公有制の発展にもつながるんだ)
③財産権の平等保護原則は、社会の富の増産も促進することになる。個人の社会の富を作り出す潜在力を解放することで、国家の総合力の基礎は高まる。もし私有財産権が十分に保護されなければ、人は生産投資への自信や創業のモチベーションを失う。平等保護こそ、人に富や財の創造を励まし、社会の富の増産と経済の繁栄を実現するものである。(だいたい、ばりばりの社会主義時代を思い出してみろよ、一生懸命はたらいても稼ぎが自分のものにならなかったら、働く気なんておこりゃしないだろ?物権法あれば、がんばって働こうって気になるだろ?社会や経済はそうやって発展するものなんだ)
④平等保護原則は、現代法治の基本精神である。そして社会主義的法治文明建設の助けともなる。市場経済の基礎を建設するのに有利なだけでなく、封建の残余と階級思想を排除する。平等保護は政府機関の職権乱用を抑制し、公民、法人の財産権の損害を防ぐという意味で、我が国に和諧社会建設に非常に必要だ。(はっきしいって、社会主義を掲げながら、市場経済やっている今って、権力者が庶民から搾取して、早い話が封建時代みたいなもんだぜ。物権法は平等保護原則だから、党や政府幹部の汚職を防ぎ、本当は今よりずっと平等社会を実現できるんだ。それこそ、胡錦濤同志のいうところの、和諧社会の実現だよ)
■論文はまだまだ続くのだが、疲れたので省略。
前回エントリーなども参考にして賛成派と反対派、ちょっと比べてみよう。
①物権法は社会主義に背いているからダメ?
物権法賛成派:中国の社会主義市場経済(公有制と私有制の併存)に合致している。公有、私有の平等保護原則は、個人・企業のやる気を促し経済発展を促進、社会を豊かにし社会の公共財の増産にもつながる。権力側の職権乱用、汚職を抑制し、一層調和のとれた社会(和諧社会)の実現につながる。
反対派:社会主義の基本原則(公有制を主体とする)に背いている。物権法により、国有資産が、金持ちや私営企業、ハゲタカ外資に食い荒らされ、私有化が進み、社会主義体制はくずれる。
②違憲?
賛成派:私有財産保護は憲法にもりこまれている。国家財産、個人の財産は神聖なものはともに神聖だ。マルクスも商品の交換について平等を唱えた。あらゆる財産について平等に保護されてこそ、商品交換が行え、市場経済が確立する。
反対派:社会主義的公共財産は神聖不可侵、という憲法12条に違反する。中国の現状における私有財産の多くが、全人民の共有財産である国有資産の詐取、占有であり、それらに保護を与える物権法は違憲。
③物権法は貧富の差を拡大する?
賛成派:物権法は財産分配法ではないが、分配された財産を確認するものだ。金持ちも貧乏人も合法に得た財産はすべて確認、保護されるべき。社会的財産をいかに分配するかは、税制法などで規定すればいい。弱者保護、労働権益保護は、社会保障法と労働法で規定するもので物権法の範疇ではない。
反対派:貧富は拡大し、両極分化、社会は不安定化する。貧富の差がますます拡大する中で平等を論じることは、乞食の一碗のメシと、少数の金持ちの高級車の平等を論じること、庶民のあばら屋と、高級別荘の保護を平等と論じることと同じ。これは労働の平等ではなく、資本の平等であり、資本主義とどこが違うのか。
④公有制を防衛できない?
賛成派:そんなことはない。個人の権利と国家の権利の関係上、前者は永遠に弱者だから、個人の権利を保護したところで、国家の権利保護の軽視にはならない。個人の権利が国家行政権力からの侵害を受ける事の方がありがちなのだ。改革開放以前、極左路線の影響で、単純に国家利益、集団利益の保護の保護を強調し、個人利益保護を軽視した。立法法治国家建設のプロセスで、物権法を含む民法は個人の権利保護を強調しなくてはならない。もちろん、個人の利益に合法性があり、公権の介入に違法性があるという2つの全体が必要だ。
反対派:広大な労働者、全人民にすれば、公有制と国家財産はそれぞれ個人の物権の最重要かつもっとも根本的な基礎保障と物質を体現したもの。国家と集団の物権がなければ、各個人の物権も実現しなくなる可能性がある。
■いかがです?どっちが説得力ありますかね?賛成派の主張は、時代の流れに沿った至極まっとうな意見だが、やはり、そうはうまくはいかんだろうよ、と思う点も多々ある。だって、中国に法治はない。司法の独立がないのだから、法治なんてありえない。そこで、物権法などつくると、権力側の人間の私有財産(つまりは人民から搾取した)ばかり保護することになる、と思う人もいるわけだ。実際、反対派の鞏献田教授は、法院が人民の財産権を保障するのはおかしい。国家が保障すべきだろう、と、民主主義の人間にとっては??なことをいっていた。
■つまり、この物権法の論争の根本は、中国の現状、および向かうべき体制をめぐる、路線、理論闘争なのだ。
中国の現状は社会主義市場経済か?ほとんど資本主義自由経済か?中国の向かうべきは清廉な指導者による人治か?民主主義法治か?そういうすごく根本的な問題が今、中国で問われなおそうとしている、
■ということで次回エントリーでは、今、党内を二分する大論争、新自由主義VS新左派の理論闘争、そして胡錦濤政権の路線について、考察してみたい。(つづくのだ)
by nihonhanihon
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