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2007年11月28日(水曜日)付

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韓国大統領選―10年の流れが変わるか

 韓国の大統領任期は5年、1期限りである。この10年は、かつて軍事独裁と戦った民主派の金大中氏と盧武鉉氏が政権を率いてきた。この流れが続くか、あるいは保守派へと政権交代するのか。

 きのう始まった大統領選の最大の焦点だ。来月19日の投票に向け、激しい選挙戦の火ぶたが切られた。北朝鮮への対応、国民の間に広がった亀裂の修復。経済の立て直し……と、争点は多い。隣の国としても無関心ではいられない。

 この10年、北朝鮮に対するいわゆる「太陽政策」を続けた結果、南北関係は飛躍的に進展した。いまや北朝鮮が生きていくうえで、韓国は欠かせない存在になった。それだけ北からの脅威は少なくなったと評価される半面、譲りすぎではないのかとの批判もある。この政策をそのまま続けるか、修正するか。

 盧武鉉時代に進められた「過去の見直し」政策が残した亀裂をどう修復するかも大きな関心を呼んでいる。

 大統領は、日本の植民地統治に協力した「親日派」を洗い出したり、金大中氏拉致事件など軍事政権時代の暗部を明らかにしたりもした。長年の体制派や既得権益に切り込む一方で、秩序が揺さぶられ、世代対立まで引き起こしている。

 経済では日本同様、勝ち組と負け組の格差問題に批判が集まる。

 10年前の通貨危機を大胆な構造改革で乗り越え、全体では急速な回復を果たした。だがその過程で、不動産が高騰し、若者たちの就職難が続く。非正規雇用の拡大も深刻になりつつある。

 そんな現実が背景にあるからだろう。多くの世論調査では、野党系への政権交代を望む声が優勢だ。

 大統領選にはこれまで最多の12人が立候補した。そのなかで野党ハンナラ党の李明博(イ・ミョンバク)氏(65)と同党を出て無所属で立った李会昌(イ・フェチャン)氏(72)、盧政権の流れをくむ民主新党の鄭東泳(チョン・ドンヨン)氏(54)の三つどもえの様相を見せている。

 社会の亀裂に対しては和解を訴え、格差是正を掲げる点で、主張に大きな違いはない。大企業の経営者出身の李明博氏は経済成長重視の色彩が濃く、鄭氏は庶民重視の姿勢を前面に出すといった肌合いの違いがある程度だ。

 明確に主張が分かれるのは北朝鮮に対する政策だ。対決ではなく融和を求める大枠では同じだが、野党系候補者は「太陽政策」を批判し、核問題の進展などで見返りをきっちり取るべきだとする。

 今のところリードが伝えられるのは李明博氏だ。だが、過去の株価操作事件など腐敗疑惑も多く指摘されており、関係者への検察の捜査も進行中だ。

 他の候補者や大統領府も巻き込むスキャンダルの暴露合戦が熱を帯びている。そのあおりで選挙戦でまともな政策論争がかすんでしまうようでは、国民の政治不信を深めるだけだろう。

 東アジアは大きく動いている。周辺の目も意識した建設的な論争を期待する。

中東和平会議―再開は歓迎するけれど

 行き詰まった中東和平に打開の道を探ろう――。ブッシュ米大統領の呼びかけで、イスラエルとパレスチナのほか、関係する40カ国以上が米国に集まった。こうした形での交渉は7年ぶりだ。

 残り任期がわずかとなったブッシュ氏が、在任中になんとか外交成果を生み出そうと調停に乗り出した。その思惑はともあれ、イラク戦争などのあおりで混迷してきたこの問題に向き合う決意は歓迎する。

 ただし、会議でパレスチナ側を代表するのは、アッバス議長が率いる主流派ファタハだけだ。自治区ガザを支配するイスラム過激派ハマスは招かれなかった。

 和平を拒否するハマスを相手にしないという米欧の考えも、理解できないわけではない。ハマスはイスラエルに対する武闘路線を放棄すべきだ。

 だが、ハマスは06年の議会選挙で過半数を占めた。パレスチナ世論の多数を代表すると言っていい。なのにこれを排除したままでは、会議でいくらイスラエルとの合意を作ったところで、実効性は疑わしい。

 パレスチナの分裂は今年6月、ハマスがガザからファタハを追い出したことが発端だ。米欧はアッバス議長支持を鮮明にし、ハマスに圧力をかける作戦に出た。イスラエルもガザを封鎖し、物資の搬入を厳しく制限している。

 その結果、孤立したガザでは人道危機が深まっている。病院では麻酔や抗がん剤などが底をつき、手術ができないまでに追い込まれている。これを放置して和平会議を進めるのは、あまりにもバランスを欠いていないか。

 ハマス系の慈善団体は、湾岸諸国などからの支援をもとにガザの人々の暮らしを支えている。むしろハマス支持は広がっている面もある。

 その一方で、暴力の連鎖は続く。ハマスはイスラエル領に向けてロケット弾の発射を繰り返す。イスラエル軍は自治区へ侵攻し、活動家の暗殺を続ける。

 国際社会は、まずガザの人道危機を終わらせるべきだ。次にハマスとファタハの内紛を収拾するよう促す。和平合意に実効性を持たせるには、こうした作業に早く手をつける必要がある。

 イスラエル側の足元も弱い。オルメルト首相が妥協すれば、連立している右派が政権から離脱する可能性がある。

 会議開始に先立って、ブッシュ大統領は「二つの民主国家が平和と安全のうちに共存するという目標をわれわれは共有する」と述べた。パレスチナ国家樹立への支持を確認するものだ。

 幸い、直接的な利害が絡むシリアやサウジアラビアも会議に参加した。米国は本気でイスラエルを説得すべきだ。

 ハマス指導部の中には、入植地の解体などを条件に「長期的停戦」に前向きな考え方もある。何らかの形でこうした穏健な主張を交渉の場に引き寄せる工夫もしてもらいたい。

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