◇学校側「支払えない」/制度の説明自体なし/遺族同意なく市申請
独立行政法人「日本スポーツ振興センター」(東京都新宿区)が、自殺した生徒の遺族に災害共済給付金(見舞金)を支給する際、学校外での自殺については、給付の運用にばらつきがあることが毎日新聞の調べで分かった。給付金が支給された例がある一方で、申請前に遺族が学校側から「学校外なので支払えない」と説明されたり、制度自体が説明されないケースがある。あいまいな運用に遺族から批判の声が上がっている。【まとめ・高橋咲子、佐藤敬一】
同給付金は、学校での事故が原因で死亡したり、けがをした場合に遺族・生徒らに支給される。文部科学省令は支給対象を「学校の管理下において発生した事故に起因する死亡」としており、学校内での自殺にも支給されている。
昨年10月にいじめを苦に自殺した福岡県筑前町の中学2年、森啓祐君(当時13歳)の両親が今年3月、同センターに尋ねたところ、「自殺場所が自宅で学校管理下の外」と不支給の方針を伝えられ、制度上の問題が浮上した。毎日新聞は全国の主なケースを調べた。
97年に中学1年の前島優作君(当時13歳)が自殺したケースでは、父親の章良さん(52)=長野県須坂市=が当時の校長から「自宅で死亡しているため給付金は支払えない」と説明され、申請しなかった。前島さんは「学校は学校外の出来事にも対応できるのに、給付金が学校外の事案を対象としないのは、制度の不備」と指摘する。
99年に栃木県鹿沼市の中学3年の男子(当時15歳)が自宅で自殺した件で、両親は学校から制度があることを知らされなかった。同様のケースはほかに3件あった。
兵庫県龍野(現たつの)市の小学6年生、内海平君(当時11歳)が94年、自宅の裏山で自殺したケースでは自殺場所が「学校外」だったが、同センターが00年12月に給付を決定した。しかし、市が両親の同意なしに申請し民事訴訟で支払いを命じられた賠償金を補てんしようとしていたことが分かり問題となった。
また、昨年8月に愛媛県今治市の中学1年、堀本弘士君(当時12歳)が自宅から数キロの路上脇で自殺したケースで同センターが不支給と決め市教委が不服を申し立てていることが判明している。
センターは「ケース・バイ・ケースで総合的に判断する」と説明。「学校外」で支払われたケースについては「個別事例については答えられない」と話している。
◇基準の見直し求める要望書
森君の母美加さん(36)は5月25日に給付金支払いの基準の見直しを求める要望書を同センターに提出した。
森さんは「あいまいな運用をしているのはなるべく給付したくないからか、と思ってしまう。だれもが納得できる基準を整備してほしい」と話している。
毎日新聞 2007年6月3日 東京朝刊