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広島の母、娘2人死亡事件 死刑求刑の被告に無罪判決

2007年11月28日18時40分

 広島市西区の母親宅を保険金目的で放火し、母親と自分の娘2人を殺害したなどとして殺人、現住建造物等放火、詐欺などの罪に問われ、死刑を求刑されていた元会社員中村国治(くにはる)被告(37)=広島県東広島市=に対する判決公判が28日、広島地裁であった。細田啓介裁判長は「被告が現場にいた証拠はない。自白には不自然な変遷があり、信用性がない」として無罪を言い渡した。広島地検は控訴した。

 最高裁によると、1978年以降、一審の死刑求刑に対して無罪判決が出たのは3件目。細田裁判長は判決読み上げ後、「非常に疑わしい点があり、シロではなく灰色かもと思うが、クロと断言はできなかった。無罪とするのは、冤罪を防ぐための『疑わしきは被告人の利益に』という原則を厳格に適用したためだ」と異例の付言をした。

 中村被告は、01年1月17日午前3時過ぎ、母親で広島市西区己斐大迫1丁目の飲食店経営中村小夜子さん(当時53)の自宅で、小夜子さんの首を絞めて殺害。さらに、同3時半ごろ、屋内に灯油をまいて放火して全焼させ、2階で寝ていた中村被告の長女彩華さん(当時8)と次女ありすちゃん(当時6)を焼死させたうえ、3人の保険金をだまし取ったなどとして起訴された。

 中村被告は06年5月22日、別の詐欺事件で逮捕され、その後の勾留(こうりゅう)理由開示の法廷で、3人の殺害について「極刑を覚悟して自白した」と供述。公判では一転して殺人や現住建造物等放火などの罪状を否認したため、捜査段階の自白調書の任意性と信用性が主な争点になった。

 判決は、自白の任意性を認めた上で、犯行動機や犯行状況などについて詳細に検討。検察側が「母親らの死亡保険金を入手する目的だった」と主張した動機について、「借金苦などによる自殺願望から死刑志願を経て一転して保険金を得るという利欲的なものになるのは極めて不自然。保険の契約内容を事前に把握していた証拠もない」と述べ、自白調書で述べる放火状況を裏づける証拠がないことと併せ、「真実を語っているとは思えない」とした。

 さらに、詳細な供述内容は捜査官と共同で作成された疑いを排除できない▽捜査段階の自白には犯人しか知ることができず、捜査機関に知られていない事実について語った「秘密の暴露」がない――などの問題点を指摘。自白以外のすべての証拠を総合しても被告を犯人と認めることはできないと結論づけた。

 検察側は、中村被告が毎日のように弁護人と接見してアドバイスを受けながらも一貫して自白を維持しており、内容も詳細で自白の信用性は高いと主張していた。

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