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2007年11月29日

◎税の滞納対策 工夫の余地はまだまだある

 富山県立山町に続いて加賀市が制定をめざしている、税の滞納者らに対する行政サービ スの制限条例は、納税を強く促す方法の一つである。税金だけでなく保育料や給食費、上下水道料金などの納付を怠る人が増えているため、県と市町村は連携を強めながら滞納対策に手を尽くしているが、民間事業者のノウハウの利用など滞納対策に工夫を凝らす余地はまだまだあると思われる。

 自治体の財政は厳しさを増す一方、三位一体改革による税源移譲で住民税の比重が高ま っている。このため税の収納率引き上げは自治体共通の重要課題であり、滞納対策にいろいろ知恵を絞っている。例えば、石川県や富山県は滞納整理強化策として、市町村に徴収業務をゆだねている個人県民税の直接徴収に乗り出したり、金沢市や小松市などは滞納整理の専門チームを設け、民間企業の元営業マンを嘱託採用してその能力を生かすといった具合である。

 税や公共料金の悪質な滞納者に対して、一部の行政サービスを受けられなくする厳しい 行政措置は、納税の公平性を保つ上でも否定されるものではなく、条例化は他の自治体でも検討されてよいだろう。

 滞納対策として、いろいろな方策が考えられるのは民間の活用策の面である。税の徴収 業務は「公権力の行使」であり、基本的に徴税吏員が行うことになっている。しかし、政府は規制改革の一環として、徴税の補助的業務や徴税関連業務でも公権力の行使に該当しないものについては、個人情報の保護に配慮しながら、積極的に民間へ開放する方針を決めている。

 石川、富山両県でも最近増えてきたコンビニエンスストアでの納付や、差し押さえ物件 のインターネット公売はその代表的な例である。大阪府堺市は徴税補助業務の民間委託をさらに推し進め、滞納者に対する電話催告業務を債権回収会社にゆだね、効果を上げている。

 また、行政の対応力強化のため、福井県鯖江市は別組織で行ってきた市税と水道料金、 市営住宅使用料などの収納、滞納整理業務を、機構改革で新設した収納課に一本化し、効率化を図っている。各自治体はこうした例も参考に効果的な滞納対策をさらに考えてもらいたい。

◎守屋前次官逮捕 防衛利権解体の突破口に

 守屋武昌前防衛事務次官の逮捕は、防衛省内部に官業癒着の構図が深く根を張っている 現実を改めて浮き彫りにした。この逮捕を機に、実態をつまびらかにし、当事者に責任を取らせるのは当然のことだが、それだけでは癒着の根を完全に絶つのは難しい。防衛省から防衛利権をそっくり引きはがす抜本的見直しをする時期に来ているのではないか。

 日本の防衛予算には、世界第二位の巨費が投じられているにもかかわらず、調達コスト が異常に高く、無駄が多いといわれる。たとえば今回の事件で名前が取りざたされている防衛専門商社が受注した空中警戒管制機は一機五百五十億円、多用途支援機は一機四十億円に達している。日本独自の仕様や国内でのライセンス生産が当たり前になっているため、どうしても割高になりがちで、防衛省の発注価格が適正なのかどうかも一般には分かりにくい。こうした特殊性と閉鎖性が防衛利権の温床になっているのは明らかだ。

 自衛隊が必要とする装備の種類や性能は、防衛省の要望を優先させるとしても、同省が 購入先を選び、価格交渉まで手掛ける必要があるとは思えない。しかるべき調達部門を外部に設け、防衛省と完全に切り離してしまえば、官業癒着の構造を断ち切り、調達コストを大幅に下げることも可能になるはずだ。

 守屋前次官は、防衛専門商社の元専務から夫婦ともども手厚い接待を受けていた。業者 によるゴルフや旅行への誘い、プレゼント攻勢などは、守屋前次官だけに限ったものだったのだろうか。装備調達に影響力を持つ防衛省の制服組にあの手この手で取り入ろうとする業者がほかにもいたと考える方が自然だろう。

 私たちは、これまで、防衛省から調達部門を切り離し、国営会社を設立する案を示して きた。民間の力を借りて兵器の性能比較や価格交渉を一元化して行い、選考から決定に至るプロセスをガラス張りにするのである。国防上、秘密にしておく必要のある部分は非公開にしたとしても、決定までの詳細な記録を残すようにすれば、外部からの干渉を排除できるはずだ。前大物次官の逮捕を、防衛利権解体の契機としなければならない。


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