ニュース:政治 RSS feed
【正論】早稲田大学教授・榊原英資 「大連立」も停滞打破の選択肢
■公約の実現にこそ政治家の使命
≪次期衆院選までの限定でも≫
「大連立」を念頭に行われた福田康夫首相と小沢一郎民主党代表の首脳会談の評判が悪い。特に民主党および民主党支持者からは選挙公約違反だとか、選挙民への裏切り行為だという声が聞かれる。しかし、本当にそうだろうか。
もちろん、大連立といってもその具体的内容が詰まっていない段階なので、その評価は難しい。どのような政策協定が結ばれるのか、あるいは、衆院解散について何らかの条件がつけられるのかなどがポイントだが、内容によっては民主党支持者にとってもそれなりのプラスは期待できる。
まずは、この連立が次期選挙までということを明確にし、できれば解散の時期を明示する。そして政策協定を結び、自民党および民主党が参院選で示した公約にそったいくつかの法案をそれぞれの党の法案として成立させる。
法案を成立させるだけではなく、それぞれの党の重要法案を施行する行政府の長として両党が合意の上でそれぞれ大臣を送り込む。
たとえば、外務大臣、防衛大臣は自民党、厚生労働大臣と農林水産大臣は民主党といった具合だ。その上で、公約を実現し次期衆院選で有権者の判断を仰いだらよい。
テレビメディアに主導されるポピュリズム(人気先行)の時代、人々は白か黒かという一方的判断を好む傾向がある。自民党と民主党が「敵」として対決していた方がテレビ的には絵になるというわけだ。小泉純一郎元首相の政治がテレビメディアに評判がよかったのは彼が明確に味方と敵を峻別(しゅんべつ)し、同じ党の中でさえ敵を激しく攻撃したからであろう。
≪評論家と違う仕事の自覚を≫
しかし、参院で与党が過半数を失った状況では小泉流の劇場型政治はもはや通用しない。対決だけしていれば、法案もほとんど通らず予算の執行もままならなくなる。つまり、政治も行政も機能しなくなり、外交も内政も大きく停滞する可能性が高い。
政治家や行政官はメディアの評論家と違って口舌だけではその役割を果たせない。政策をつくりそれを実行してなんぼの世界である。そのためには時として根回しも「密談」も必要なことがある。なんでも「ズバッと」では政治も行政も動かないことが多い。
今まで、野党は1993年の8カ月を除いて政権についたことがない。メディアと同じようにかっこいい反対さえしていればよい側面があった。しかし、今や民主党は政権を獲得する可能性がある党になっており、現実政治の中に深く入っていかなくてはならない立場にある。
もちろん、選挙で示した基本的立場を変えるべきではないという議論は十分に説得的である。しかし、限定的連立と政策協定は手段であり、その手段を使って選挙公約の一部を実現させることは、立場を変えることではないし、むしろ、選挙民の要望にこたえることなのではないだろうか。
≪早期の解散が民意を反映か≫
日本のような議院内閣制でかつ第2院たる参院がかなりの権力を持つ政治システムのもとでは衆参のねじれは政治、行政の停滞をもたらす可能性は高い。しかもこのねじれは衆院で民主党などが多数を取らない限り、少なくとも3年、おそらく6年は続くことになる。
民主党が次期衆院選で多数を目指すことは当然だし、そのために限定的連立がいいのかは民主党にとっては難しい選択であろう。
特にテレビメディアやそれに影響されがちな選挙民が白か黒かを好む傾向が強いことを考えると、対決型を好む民主党の政治家が多いことも理解できる。
しかし、国政の停滞は国民にとって不幸である。民主党が当面限定的連立を選択しなかった状況ではできるだけ早く解散をするのが国全体のためには望ましいのであろう。しかし、そこで自民党が勝てばあい変わらず、ねじれは続く。
しかも、前回のように大勝する可能性が低いので、衆院の3分の2に与党が達しなくなり、ねじれはますますひどくなる。いずれにせよ難しい政治状況である。
自民党も民主党も全く新しい状況のなかに入ってきた訳だ。現状で考えられるのは次期衆院選で野党が多数をしめての政権交代、あるいは自民党、または民主党が比較第一党になっての政界再編、そして、自公が過半数をとっての大連立という3つ程のシナリオだがいずれにせよ、日本の政治が大きく変わる局面に入ってきたことだけは確かであろう。面白くなってきた。(さかきばら えいすけ)