流通革命のカリスマ中内氏が去り、西友、マクドナルドは米国本社の影響力が増大
2005年11月04日
ダイエー創業者中内功氏の流通科学大学での学園葬が、4000人の参列者を集めて盛大に営まれました(ダイエー創業者、故・中内氏の学園葬 4000人が参列)。本来であれば、創業者の葬儀は社葬を行うのが通例でしょう。ダイエーが社葬を見送った背景には、中内氏がすでに同社の全役職を退いていることや、産業再生機構の支援下で経営再建中という事情があったからです。
社葬を見送ったダイエー元経営陣の決定には、個人的には大いに疑問を感じます。晩年はともかくも、わが国の「流通革命」を牽引した中内氏の業績は、現在でも賞賛されるべきで、社葬として扱うのが相応しいと思います。さらに、すっぱりと社葬を挙行した方が、名実ともに「中内ダイエー」が終わったことを印象付ける効果があると思えます。社葬を選ばなかったことからは、逆に現経営陣がいまだに中内氏の亡霊に怯えているかのような、その自信のなさが透けて見えるように思えます。
学園葬に参列した業界トップの中には、「中内さんがいなければ、日本の流通業界は外資に牛耳られることになっていたであろう」との感慨を語る人もいました。そのダイエーも産業再生機構による再建途上にあり、また大手量販店の一角をなす西友も外資主導の梃入れの方向性が、はっきりとしてきました。情報源は、(西友再建、米ウォルマートが主導・新CEO派遣)です。
西友は2日、米ウォルマート・ストアーズ国際部門のエドワード・カレジェッスキー最高執行責任者(COO、45)を12月15日付で最高経営責任者(CEO)に迎えると発表した。取締役の過半をウォルマート出身者にする人事も内定した。ウォルマートが完全に経営を掌握することになり、同社の日本拠点として経営再建を急ぐ。
カレジェッスキー氏は2000年にウォルマート入りした。04年2月から国際部門COOとして、15カ国2400店で展開する海外事業を統括。同3月からは西友の取締役を兼務してきた。
渡辺紀征CEO(65)は12月15日付で取締役会議長に就く。7月に業績不振の責任を取ってCEOを退いた木内政雄取締役(61)は退任する。取締役会(11人)の構成もウォルマート出身者を5人から6人に増やし、同社主導を明確にする。今後は、これまでのような店舗の改装や品ぞろえをめぐる日米の意見の違いはなくなり、再建に向けた意思決定が速まるとみられる。
ウォルマート出身の現COOがCEOに昇格する今回の人事は、しごく順当に見えます。実は、現在西友の社外取締役を務めている日本マクドナルドホールディングの田泳幸CEOが、西友のCEOに就任するとの憶測も流れていました(業績不振のマクドナルド原田泳幸CEOを次期CEOの有力候補と考える会社)。
バリュー戦略導入による業績の低迷、古参社員の不満、店長の残業代支払い問題等を抱えているのマクドナルドを放り出して、他社に転身することはさすがに原田氏もできなかったのでしょう。
そのマクドナルドがバリュー戦略で低下した客単価の上昇を狙って投入したのが、戦略商品の「マックグラン」でした。しかし、マックグランも当初の目的を達することなく、市場からの退場が決定しました。情報源は、『マクドナルド、「マックグラン」販売中止――高級路線、定着せず』(2005年11月3日 日本経済新聞 朝刊 25面)です。
日本マクドナルドは主力商品の「マックグラン」の販売を中止した。2004年6月に登場したマックグランは肉の量を約80%増量し、風味を増した鳴り物入りの高級バーガーとして登場したが、モスフードサービスなど他社製品との差別化だけでなく、既存の自社製品での位置づけもあいまいになり、打ち切りとなった。
マックグランは肉の増量や専用のパンの使用など日本マクドナルドが業績不振から脱却するための切り札として投入。同時期にモスフードが最高価格1000円の匠味シリーズ、ロッテリアが「ホームメイド」を売り出すなどハンバーガーの高級化戦争といわれた。
だがその後、売り上げが低迷。同社が今年4月に100円マックを軸とした低価格戦略を打ち出すと300円台だったマックグランも200円台に値下げし、「ビッグマック」など同価格帯では原価率が高い販売効率の悪い商品になった。
同社では「売り上げが伸び悩み、定番メニューの刷新が必要となったため」(コミュニケーション部)と説明している。今後、先月末から期間限定で販売した「えびフィレオ」を代わりの定番商品とする方向で検討している。
一方、モスフードは匠味シリーズの拡充に動いているほか、ロッテリアは580円の「グリルドバーベキューバーガー」の取扱店舗数を増やす計画で、ハンバーガー業界の営業政策は二極化しつつある。
日本では低価格商品の代表と思われているファーストフードの分野でも、米国では高価格帯製品の投入が相次いでいます(『俺のハンバーグ山本』の記事からマクドナルドのマーケティング戦略を考える)。また日本国内でも、グルメバーガー専門店が繰り出す1000円以上もする高級品が、新たなマーケットを創造しています(100円マクドナルドを卒業したモテオヤジ御用達は、1000円超のグルメバーガー)。
こういったトレンド一人乗り遅れているのが、米国本社を含むマクドナルド・グループです。マックグランの当初300円という価格設定も、同業他社と比べてれば、いかにも中途半端な印象が拭えません。また、100円メニュー展開にあわせて、これを200円に値下げしたことも、マーケティング戦略上の失敗でしょう。これではマックグランが、単にボリュームが大きいだけで、素材は普通のハンバーガーと同じだというメッセージにしかなりません。
そもそもバリュー戦略への転換は、同様のプログラムが全世界で成功した実績から、米国本社主導で進められたものです。原田CEOは、日本マーケットの事情を無視してごり押しされたという説は否定していますが(バリュー戦略が失敗してもマクドナルド原田CEOが自信満々の姿を崩さない理由)。
今後も原田CEOは、米国本社の意向に沿ったバリュー戦略を継続していくつもりでしょうか? 一方、ウォルマート色が鮮明になった西友では、ウォールマートの代名詞でもあるEDLP(EveryDay Low Price)が、全面的に展開されることになるのでしょうか? マクドナルドと西友は、米国流のマーケティングを日本にそのまま適用することの成否を占う恰好の実験場となりそうです。
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