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2007年8月30日(木)夜7時から、満員の会場で開催されました。
お二人は旧知の仲。
岡田さんが「この二人で喋ると、漫才みたいになる」と話す通り、控え室での打ち合せから講座終了まで、ずっと笑いが絶えない楽しい講座となりました。
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講義はまず平尾さんが、9月7日に開幕するラグビーW杯2007において、日本代表が戦う各試合の見通しを語りました。

平尾)予選リーグ1戦目はオーストラリア(9月8日)、2戦目はフィジー(12日)、3戦目はウェールズ(20日)、4戦目はカナダ(25日)。1、2戦と3、4戦目の間隔が短いことから、日本代表は1本目のチームと控えのチームとの2つに分けて対戦する予定。予想としては、「1、3戦目がかなり厳しい。2、4戦目がちょっと厳しい」というところ。4チームとも海外でプレーしている選手が多い。世界のフィールドに出て、常にトップレベルで戦っているプレーヤーが多い分、チーム力も高い。
「(日本代表ヘッドコーチの)カーワンさんが聞いてたら申し訳ないけど」と笑わせたうえで、冷静にチーム力を分析。「確かに『技術論を超えた気合論』も通用する。しかし、1発ならいけるが10発連続は難しい」として、対戦する4チームより世界ランキングの低い日本代表の試合は決して甘くない、と説明しました。
ここで「外国人監督と日本人監督に対する、メディアや世間の見方の違い」について、それぞれが日本代表監督としてW杯を戦ったときの楽しいエピソードを披露。

平尾)試合間隔が短いから、という理由はあるものの、「実力差が大きい強豪チームに控えのチームを対戦させ、それほど力の差が大きくないチームに1本目を対戦させる」というやり方は、日本人監督なら批判を受けるだろうが、カーワンだと「なるほど。いい戦術だ」となる(苦笑)。
岡田)僕が98年のW杯の監督のときの話。まだ対戦相手も決まっていないときに、「見通しは1勝1敗1分くらいかな」と言ったら、「最初から負けを計算に入れている。そんな気持ちだから勝てないんだ」とマスコミに激しく叩かれた。しかし、負けないっていうことは、優勝するっていうことになってしまう(笑)。何を言ってるんだ、と思ったが、同じことをジーコが言うと、みんな「そうだそうだ」って言うんだろうな(笑)。
平尾)僕が99年のW杯の監督のときも、負けたくはないが、現実を考えたときに「勝てます」とも言えない。そこで「全試合勝つ気で臨みます」と言った。その後、試合会場に行って、世界のマスコミ相手に同様に「全試合勝つ気で臨みます」と言ったら、外国の記者たちは笑いよるんです。「オマエ本気か」と。周りの記者と「アイツ、おかしいんちゃうか」と(笑)。
そしてお二人が考える「外国人監督必要論」に展開。

岡田)ホイッスルが鳴り、試合が始まって、「負けよう」と思うヤツ、「負けてもいい」と思うヤツなんて、一人もいない。ところが先ほどのように、「負けるつもり」云々の批判が起こる。日本はある意味で「空気」に左右される。これは戦争の時代と変わっていない。ここに外国人監督が合理的な考えを持ち込んでいる。そういう意味では、サッカーの日本代表監督は、まだまだ外国人でもいいのではないか、と思う。
平尾)僕もそう思う。進化の過程において、外国人監督との様々な接点は、よい機会なんだと思う。
岡田)しかし日本代表が一定のレベルに達したとき、そのときには外国人監督では勝てない。日本人監督でないと引き出せない部分がある。
さらに話は、日本人選手と外国人選手の違いへ。そしていよいよリーダーシップ論に入っていきます。

両者の違いは「闘争心と判断力」。とりわけ判断力は「教えられる」ものではなく、「身につける」もの。日本人は、言われたことはしっかりやるが、自分で考え、進めていく力がまだまだ必要、と日本人の問題点を指摘。ここで岡田さんが、選手の判断力を奪ってしまった、選手の将来性をつぶしてしまった事例を紹介し、リーダーの苦悩について、率直に語ります。
岡田)横浜マリノスの監督時代の話。攻撃時に一番よいのは、真ん中から攻めてそのままゴールすること。しかし相手もそれが怖いから、真ん中は固めている。それでも無理に攻めると、相手にボールを取られカウンターアタックで失点してしまう。実は試合全体の失点の30%がカウンターアタック。そのため、ボールを受けたら無理せずいったん外に蹴り出せ、と教えた。そうすると実際に失点が少なく勝ちが多くなる。選手はボールを受けた以上、ドリブルで攻め込みたいが、監督の指示に従って嫌々蹴り出していた。そのうち勝ち始めると、中も見ずに蹴り出すようになった。「あっ」と思った。嫌々のうちはいい、一番大事な真ん中を見ていれば。しかし、勝っているうちに方法論に染まってしまった。「俺はこいつを殺してしまったかもしれん」と思った。そうなることは最初からわかっていたが、監督としては勝ちたい。その近道を提示してしまって、最も大事なものを失わせてしまった。
平尾)サッカーに限らず、「少量のエネルギーで結果を出したい」と思うのは、人間の本能だと思う。しかし、それでは根っこの力、本当の力はつかない。いろんなものを克服していった中で身につけたことと、形だけ学んでそれができるようになったこととでは、意味合いが異なる。
岡田)教えられてわかったものと、自分で気づいたこととの違い。育つ/育たせるではなく、気付く/気付かせる、が大事だ。
平尾)「気付く」という意味では、ラグビーは一般の社会生活から学ぶものが非常に多い。人との関係性や、こういうときにこういうボールがほしいだろう、ということなど、圧倒的に日常生活から学んでいる。
そして岡田さん語録「育てるなんておこがましい」が登場。リーダーに求められる厳しさ、リーダーたるものの厳しさへと続きます。

岡田)いつも言ってるが、「育ててやる」なんておこがましい、と思う。育たなかったら大変なことになる、という危機感を与え、決めるのは自分なんだ、自分にはねかえってくることなんだと気付かせるのがリーダーの役割だと思う。
監督になるときに、いつも言うことがある。「俺は11人しか使えない。使ってもらわないとやってられない、というなら出て行ってくれ。それがお互いのためだ。しかし、俺のことが大嫌いでも、向かってくるヤツの面倒は絶対に見る。見捨てない。1年経って1回も使わないかもしれないけど、上手くしてやる自信はある。しかし、ふてくされて向かってこないヤツは絶対に放り出す」。
「この監督だから、僕はやりません」と文句を言うヤツがいるが、「関係ないやないか」と思う。そもそも日本中の監督、教師、上司が、全員素晴らしい人であるわけがない。その中で今、やれることをやれ。
平尾)多くの選手を見てきたが、人のせいにする選手で伸びていく選手は少ない。消えていく。
岡田)「人を変える」なんて無理。人なんて変わらない。本人が「変わる」しかない。そのために危機感を与える。ガンバに居た大黒が、コンサドーレに1年間レンタル移籍してきた。ガンバに戻って活躍したときのインタビューで、大黒が「岡田さんのところに行って、考え方が変わった」と話したため、「何をやったのか」とマスコミが押し寄せてきた。そこで「何もやってない。ただ、1試合も使わなかった」と答えた(笑)。
平尾)いろんなタイプの選手がいる。それほど力がなくても試合に出してあげて、経験の場を与えることで、ちょっと自信をつけて自ら学んでいく選手も。最近は選手が繊細になって、こっちのほうが多くなってきたのではないか、と思う。
岡田)それは本物にならないのではないか、と思ってしまう。スランプになって、選手生命をなくすヤツがいる。スランプにあえいで、どん底まで落ちてくると、物欲しげな目でこっちを見る。教えてやることはいくらでもある。コーチも必死になって手を貸そうとする。しかし自分はコーチに「放っとけ」と言う。これまでの経験で、一度手を貸して、手を離したらまた落ちる。そして2度落ちたら、もう上がって来れない、と思う。放っておくと、10人のうち5人は自分で這い上がってくる。コーチには「今手を貸したら、あの人はいい人、とずっと言われるだろう。しかし、10人のうち10人全員が残らないことになる。一方で、手を貸さなかったら、ひどい人と言われるだろう。しかし5人は残る。どっちを取るかだ」と言う。
「俺は冷たい男かなぁ」と最後は笑わせる岡田さん。
そして話は、「リーダーシップに定石なし。結局は、それぞれの状況や相手に合わせた対応がベター」と、シチュエーショナルリーダーシップ(SL理論)で幕が下ります。

岡田)結局、チーム作りに正解はない。現場をしっかり見て、それに対応する、ということが必要なんだと思う。チームが負けているときに、過去に同様のことがあった、とノートを引っ張り出して、同じ対応をしたが、ほとんどがうまくいかない。今の現場を見なければいけない。手法ではなく、相手をしっかりと見なければ。
平尾)7連覇のときの神戸製鋼のことがよく引き合いに出されるが、あのときとはメンバーが違うので、参考にはならない。当時でさえ、他のチームが真似しても意味がなかったと思う。「監督を置かない」「練習は週6時間」なんて、弱くなる条件がそろっている。当時のメンバーに合っていた、ということにすぎない。
岡田)これからのリーダーって何だ、と言われると、これまでのように「俺が育てたんだ。教えたんだ」というような時代ではないと思う。
平尾)結局やるのはプレーヤー。そのプレーヤーに、思考力や問題解決力、想像力を注入するためには、理論じゃない。もっと人間的なコミュニケーションが必要だと思う。
岡田)指導者には自己満足的なところがある。しかしそこで完結しては先がない。ビジネスモデルもそうだが、勝っているときでも、ずっと同じではだめ。状況にフレキシブルに対応することが求められる。
受講生の方々から事前に「直接お聞きしたいことがある」「ぜひ写真を撮らせてほしい」という強いご要望をいただき、お二人にご相談したところ、快諾。1時間あまりの講義のあとに質疑応答と写真撮影タイムを設けました。
質疑では、「サントリー・清宮監督のことをどう思っているか」などの刺激的な質問に、無難な答えで済ませようとする平尾さんに代わって、両者をよく知る岡田さんがそれぞれの「本心」を答えたり、岡田さんが高校の後輩からOB総会の参加を求められたりなど、講義とはまた違った雰囲気のやりとりとなりました。
そして、写真撮影タイム。予想以上に多くの方がカメラを持って集まってくださり、講師も照れ笑い。
最後まで笑顔の絶えない講義となりました。


主催:神戸製鋼所、朝日カルチャーセンター(大阪)
協賛:朝日ウイークリー、J SPORTS
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