「主治医」の表現を撤回/後期高齢者で厚労省

 2008年度から始まる75歳以上の後期高齢者医療の診療報酬について厚生労働省は11月28日、中央社会保険医療協議会(中医協)基本問題小委員会(会長=土田武史・早稲田大商学部教授)に対し、後期高齢者の健康状態や薬歴などを総合的に把握する医師を「主治医」と表現していたのを撤回した上で、主治医が受け取る医学管理料の算定要件について理解を求めたが、前回と同様に委員から反対意見や指摘が相次いだため継続審議となった。

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主治医の報酬は1カ月当たり包括

 後期高齢者を対象にした新しい医療制度について、厚労省は外来医療や在宅医療の中心に「主治医」を位置付け、診療報酬上で評価していく方針を示している。

 主治医を中心に地域の医療関係者が高齢者の情報を共有して相互の連携を進めながら、主治医が高齢者の健康状態を総合的に把握して継続的な医療を提供する制度を目指している。

 しかし、75歳以上の高齢者は複数の疾患を抱えていることが多いため、「高齢者を診る医師を1人の主治医に限定するとフリーアクセスを阻害する」という批判や、「情報の共有と連携は具体的なところが分からない」との指摘もある。

 このような批判などを受けて厚労省は、「主治医という名称は人それぞれでイメージが異なる」との理由から表現を改め、新たな名称に変更することを提案。「地域担当医」「高齢者総合担当医」「高齢者顧問医」「包括連携医」「地域後見医」の5つを例示し、委員などの意見を踏まえて次回以降の審議で決める(記事中では「主治医」と表記する)。

 また、厚労省は前回の同委員会で、後期高齢者の外来医療に新たな「医学管理料」を創設し、年間計画に基づいた継続的な診療や検査を行った場合に1カ月単位の包括点数を算定できるようにすることを提案している。
 この医学管理料を算定できる主治医は患者1人につき1人とし、原則として診療所の医師に限定する考えも示した。周辺に診療所がない地域では病院の勤務医も主治医として認める。

 前回、委員から「病院の医師が主治医になっている場合もあるので、200床未満の病院の医師も主治医として評価すべき」との意見が出たほか、「主治医は本来、患者が決めるもので、1人だけというのはあり得ない」と日本医師会が強く反対したため結論が出なかった。

 この日、厚労省は主治医が算定できる「新たな医学管理料」の要件として、@対象となる疾患、A年間診療計画書の作成、B包括される診療項目、C「お薬手帳」の確認義務、D主治医の研修――などを示したが、一連の方向性に対して日本医師会が反発した。

 鈴木満委員(日本医師会常任理事)は「1人の医師という点が私どもの主張と違う。がん、心疾患、糖尿病など、それぞれ専門の主治医がいるのに絞り込むので話がよじれてしまう。ぜひ再考いただきたい。これは次回に持ち越しだ」などと反対し、継続審議を求めた。

 これに対し、保険局の原徳壽医療課長は「それぞれの病気にそれぞれの主治医がいるのはかまわない。しかし、すべてのところでレントゲン撮影をする必要はない。患者の健康状態を総合的にチェックする医師は1人でお願いしたいという意味だ」と説明し、改めて理解を求めた。

 しかし、「新たな医学管理料」の算定要件となる「年間診療計画書」や「お薬手帳の義務化」などをめぐって他の委員からの指摘も相次いだため、土田会長は「次回に改めて検討したい」と打ち切り、次回以降に引き続き審議することになった。

■ 新たな医学管理料の算定要件
 1.対象疾患
 
主治医が算定できる新たな医学管理料の対象疾患について、厚労省は「継続的な医学管理が必要となるような慢性疾患」とし、この慢性疾患の中から悪性新生物(がん)などを除くほか、認知症と便秘症などを追加することを提案した。
 この提案について、委員から意見や質問は出なかった。

 2.年間診療計画書の作成
 
年間診療計画書の作成については、主治医が後期高齢者一人ひとりについて主治医が年間の治療や検査のスケジュールを立てた上で、同計画書に主治医名や連携医療機関名を記載して医療関係者間の情報共有に役立てることを提案した。
 これに対して、丸山誠委員(日本経団連医療改革部会長代理)は「年間計画書はすごい文書量になるので、電子化などを工夫してほしい」と求めた。



 3.包括される診療項目
 
前回、厚労省は主治医の報酬を1カ月単位の包括点数にすることを提案。今回は、包括評価する診療項目として「医学管理等」「検査」「処置」「画像診断」を挙げ、一定点数以上の検査は別途算定できることを提案した。
 この提案に対して、委員から意見や質問は出なかった。

 4.お薬手帳」の確認義務
 
重複投薬や重複検査を防止するため、診療の際に「お薬手帳」の確認を主治医に義務付けるほか、院内処方で薬剤を直接患者に渡す場合には「お薬手帳」に記載する。
 これに対して、竹嶋康弘委員(日本医師会副会長)は「義務付けと簡単に言うが、ペナルティを科すという意味か。方向性には反対しないが、現場のことを考えてほしい」と義務化に強く反対した。

 「義務化」という表現について、前田雅英委員(首都大学東京都市教養学部長)は「言葉の受け止め方によるだろう。義務には罰則からソフトなサンクションまで、いろいろな段階がある。必ずしもハードな義務ばかりとは限らない」と述べ、厚労省の提案に理解を求めたが、土田会長が「義務付けがどの程度の縛りなのか、もう一度整理してほしい」と求め、継続審議となった。

 5.主治医の研修
厚労省は、主治医になるためには講義(3日)と演習(1日)の受講を要件とすることを提案したが、審議時間の関係もあって委員から意見は出なかった。



更新:2007/11/28   キャリアブレイン

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