月収15万円の博士たち〜『高学歴ワーキングプア』
水月昭道著(評:後藤次美)
光文社新書、700円(税別)
3時間47分
大学院に進学し、博士号まで取得したのに、大学教員の常勤ポストを得られる見通しはほとんどゼロで、企業の博士採用も消極的。収入は「非常勤講師とコンビニのバイトで月収15万円」(本書帯)という「高学歴ワーキングプア」な人々の窮状に対して、みなさんはどんな感想を持つだろうか。
最近、何かと取り上げられることの多い、非正規雇用の若年労働者に比べて、同情票は集まらないように私は思う。一般的な若年ワーキングプアは、平成不況のせいで正規の職にありつけなかった結果、低賃金の暮らしを余儀なくされている。対して「高学歴ワーキングプア」は、少なくとも大学院に進むだけの経済力はあったわけだし、「自分で選んだ道」でもある。
しかし、本書は、「高学歴ワーキングプア」が、ある政策の犠牲者たちであることを明らかにしている。その悪名高き政策こそ、文部省(当時)が90年代初頭に旗を振った「大学院重点化」だ。大義名分は「世界的水準の教育研究の推進」。国際的に見ると貧弱だった大学院を強化し、優秀な研究者や高度な専門性をもつ職業人を育成することを目的としていた。
もっとも、理念だけでは、大学は動かない。そこで文部省は、こんなニンジンをぶら下げた。
〈大学院重点化政策とは、単純化していえば、「大学院の教育課程や教育条件の改善・改革を行った大学には、予算を二五%増してあげましょう」という、文部省からのお達しでもあった〉
「入院」させれば予算が増える
このお達しによって、旧帝大から地方国公立大、有名私大、はては弱小私大までが、定員の確保、募集枠の拡大、大学院の設置といった形で、大学院生増産に飛びついた。その過程で起きたのが、非自発的な大学院進学者の急増だ。
すなわち「もともと大学院に進学する“つもりのなかった”人や、若年労働市場の異常な縮小により、“就職難で困っていた人”が、ずるずると大学院生になっていたということが起こり始めたのだ」。定員を確保するために、指導教官が学部生を一本釣りするようなケースも少なくなかった、とか。なんとも阿漕な話だ。
文部省の目論見は、ズバリ的中。1985年に約7万人だった大学院生は、2006年時で約26万人。少子化で経営難にあえぐ大学にとっても、大学院生たちは格好の金づるとなった。
かわいそうな「入院」患者はこうして激増したわけである。
本書には、沈没スレスレのノラ博士の暮らしぶりも具体的に紹介されている。「君は就職向きじゃない」と、教員に薦められるままに博士課程に進んでしまった地方私立単科大学の博士三年生。在学中に支払った学費は1000万円を超えているそうだ。
あるいは、10年以上かかってようやく博士号を取得したものの、職を得られずドロップアウトしてしまったパチプロ氏。就職浪人中の博士は、講義やゼミなどは受けないにもかかわらず、研究生として残るために、お金を払い続けないといけない。気がつけば30代も半ば、企業への再チャレンジもかなわない年齢だ。まさに八方塞がりである。