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基地問題など

【基地問題】

<本土の米軍再編:1>横須賀

2007年02月19日

 神奈川県の横須賀基地が米空母の海外母港となって今年で34年。ここに08年夏、原子力空母が初めて配備される。ジョージ・ワシントン(満載排水量10万2千トン)だ。

 その受け入れ準備が急ピッチで進む。昨年末から基地の一画を切り崩して純水製造施設の建設に入り、その近くでは出力39メガワットのガス発電所の建設が始まった。入港後、原子炉を停止させると必要になる大量の電力と冷却水のためだ。

 米海軍が4代目の空母に原子力艦をあてると発表したのは05年10月末。在日米軍再編協議の中間報告が発表された時期とぴったり重なった。

 退役する空母キティホークの後継として、いつ米側が原子力艦の受け入れを求めるかが注目されていた。しかし、空母問題は再編協議とは切り離されており、日本の関係者は「唐突なタイミング」と驚いた。なぜこの時期だったのか。政府高官が明かす。

 「08年の配備を前提に、早くから米側と準備を進めていた。必要な作業を逆算すると05年が発表の限界。それがたまたま中間報告と重なった」

    ■

 05年に入ると、地元の横須賀市では配備反対の機運が盛り上がる。市民団体が集めた反対署名は50万人分に迫り、市議会も全会一致の反対決議などで意思表示した。

 政府は、カギを握るのは同年6月に就任した蒲谷亮一市長(62)ひとりと見ていた。小泉前首相の地元事務所から選挙支援を受け、3期務めた前市長の継承者でもある。

 蒲谷市長の心は揺れた。「市民の核に対する不安」を理由に反対したこともあるが、「米軍と政府でやってもらうわけにいかないのか」と漏らすこともあったという。

 政府が市長をマークしたのは、港湾管理の権限をもっているからだ。米国の保安基準では船体の大きな原子力空母の場合、横須賀港内の航路や岸壁の海底の泥を1・5メートル浚渫(しゅんせつ)する必要がある。その同意取り付けが最優先課題だった。「市長の同意を05年夏の概算要求に間に合わせ、06年度の防衛予算に盛り込みたかった」と高官は言う。

 日米両政府は、問題を「安全性」に絞り込む。米海軍や大使館は地元の市議や経済界幹部にも安全性をPRし、市長の包囲網を築いていった。

 とどめは麻生外相の役目だった。06年6月、外相は市長を訪ね、「日本の安全保障を担う空母の存続に穴を開けないでほしい」と切り込んだ。2日後、市長は「苦渋の選択。ほかの選択肢はない」と容認に転じる。やや遅れたものの、浚渫費用64億円が06年度補正予算案に盛り込まれた。

 一方で、市民団体が署名を集めて提出までこぎつけた住民投票条例案は今月8日、反対多数で葬られた。市長は「国防と外交は国の専管事項。市に決定権限はない」と取り合わなかった。

    ■

 原子力艦配備に向けて米国政府は早くから動いていた。米会計検査院が98年にまとめた報告書には、既に必要な作業が詳述され、「日本には微妙な感情が残っており、日本政府との慎重な協議が必要」と被爆国に配慮する国務省担当者のコメントまで付されている。

 横須賀は今や、弾道ミサイル防衛の最前線基地の顔をあわせ持つ。北朝鮮がミサイル実験を重ねるたびに、迎撃能力を備えられるイージス艦を増やし、横須賀配備の11隻のうち9隻が今年、イージス艦になる。

 住民投票条例案の請求運動を推し進めた呉東正彦弁護士(47)は危機感を募らせる。「原子力空母受け入れの過程は、自治体が国と米軍の方針に何の歯止めもかけられない前例となってしまう」

    ◇

 在日米軍再編は日米両政府の協議開始から5年目に入った。「沖縄の負担軽減」を名目に、変わり始めた本土の米軍基地の現状を報告する。

 ◆キーワード

 <米海軍横須賀基地> 西太平洋とインド洋地域を担当する第7艦隊の根拠地。73年以来、米空母が海外で唯一配備されている。ほかに揚陸指揮艦や駆逐艦など10隻が母港としており、原子力潜水艦の寄港地でもある。

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