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社説
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2007年11月28日

人権擁護法案/党略的な動機を厳に慎め

 人権擁護法案を再び国会に提出しようとする動きが出ている。鳩山邦夫法相が衆院法務委員会で「問題点をクリアできる方法を考え国会に再提出したい」と答弁、これを受けて自民党内では人権問題等調査会(太田誠一会長)に伊吹文明幹事長や青木幹夫前参院議員会長らを顧問に加え、再提出への体制づくりが進められている。

公平さを著しく欠く

 法案を制定すれば国政選挙に有利に働くというのが推進派の人々の主張である。だが、同法案は「人権擁護」が恣意(しい)的に利用され「言論弾圧」や「逆差別」を招きかねないとの批判を浴びたものだ。単なる修正で「問題点」をクリアできるものではない。党利党略的な動機による安易な制定は厳に慎むべきである。

 差別や虐待などの人権侵害が生じれば速やかに救済するのは民主主義社会の基本であり、人権擁護の仕組みづくりも不可欠だ。にもかかわらず政府が二〇〇五年に人権擁護法案の再提出を目指した際「問題点」があり過ぎると批判され、再提出を断念した経緯がある。

 同法案を先取りするものとして鳥取県は〇五年秋、人権擁護条例を制定したが、ここでも批判が噴出し、結局、〇六年六月の施行を無期限停止した。何が問題だったのか、政府・与党関係者はいま一度、想起しておくべきである。

 第一に、人権侵害の定義を「不当な差別、虐待、その他の人権を侵害する行為」と曖昧(あいまい)に表記し、不当な拡大解釈の恐れが強かったことだ。

 例えば、東京弁護士会は過激性教育を行った教員の処分や音楽教諭に国歌の伴奏を命じたことも「人権侵害」としている。国歌伴奏は今年二月、最高裁で合憲判決が下されたが、それでも「人権侵害」の主張を撤回していない。

 あるいは「慰安婦」問題で「民族差別、女性差別を扇動する問題発言」と指弾され講演会を開けなかった評論家もいる。このように人権侵害の定義が曖昧だと、人権擁護の下に逆に「言論弾圧」がまかり通りかねない。

 また法案は「人権侵害を助長、誘発する行為」も禁止するとし、「助長」「誘発」が何とでも解釈できる素地を残していた。

 第二に、新たに設ける人権委員会には司法も持たない強権が与えられていたことだ。

 人権委は人権侵害の「特別救済手続き」として関係者への出頭要請と事情聴取、関係資料の「留め置き」、立ち入り検査などの権限を持ち、それには令状は必要なく、拒否すれば罰金も科す。令状もなく立ち入るのは警察も持たない強力な「公権力」で、司法を無視した巨大な権限を与えていた。

 現行の司法体制では人権侵害として告発すれば、検察が調べて事件性があれば控訴し、裁判所で裁判官と検事、弁護士の三者によって審判が下される。だが、法案では人権委の委員の「独断」で決定が下される仕組みで、公平さを著しく欠いている。

 第三に、人権委の委員の選定に国籍条項がなく、「市民団体」などから選ぶとしていたことだ。これでは北朝鮮の拉致事件に関与した外国人でも「市民団体」に加わっていれば委員に選ばれかねない。外国勢力が「公権力」を行使することになれば、国家の在りようが根底から揺らぐことになる。

許されぬ安易な再提出

 こうした批判に対して与党内では人権侵害の定義に「違法性」を加え、国籍条項を設けるなどの修正が検討されているが、問題はそれだけではないのは明らかだ。安易な再提出は許されない。


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