地域格差の大きい中国の水事情

 水の供給源となる年間降雨量については、地域によって極端な格差がある。
 この降雨量の格差は、概括的にいって、南北間及び海岸・内陸間の二つの軸に沿ったものとなっている。


 地域毎の水資源存在量については、概ね降雨量と対応している。
 しかし、雨量と相関しない地域もある。降雨が海洋に流出しやすい海南では、水資源存在量は降雨量に比して相対的に少なく、逆に、降雪として保持される西蔵では相対的に多くなっている。


 水資源存在量と供給量の比率については、多くの地域では50%を割っているが、都市地域等では、他地域から移入し100%を超えている。


 供給用水の農業用、工業用、生活用の構成については、多くの地域で農業用水が太宗を占める。
 ただし、上海・重慶では工業用水が多く、また北京・天津・重慶では生活用水が20%を超えている。


 工業用水の比率が比較的高い地域は、華南沿海部及び揚子江流域に分布している。
 これらの地域では、土地の利用と同様に水の利用においても農業と競合しつつあることが懸念される。これらの資源に関して、農業には工業に比して資源取得のための価格競争力がなく、工業開発の趨勢の前で、農業を保全していくことが困難になっていると考えられる。


 農業用水の耕地当たり供給量は、沿岸地域では、降水量に対応して南ほど多い。
 この結果、華南では米、東北(3省)ではトウモロコシ、そして華北では小麦とトウモロコシが主要作物となっている。


 人口当たり生活用水供給量については、同一省内であっても都市農村の格差が著しい。


 農村地域での生活用水供給量については、華北の黄河沿いの各省で極めて少ない。
 健康な生活のためには、少なくとも50リットル/日/人が必要とされるが、地域全体の平均値でこの下限に近い値となっていることは、日々厳しい生活に直面している人が相当程度いることを示唆している。


(統計データ)

(Jan.26,2004.)




中国北部の水不足
−−枯渇する黄河−−

 中国には、年間降雨量、平均気温がそれぞれ2000mm、20度を超える稲作地帯から、100mm台、10度以下の不毛の砂漠地帯まで広がっている。
 特に、北部の地域は、降雨量も少なく、気温も低い。このような農業の生産性向上が困難な地域の経済開発をどのように導いていくかは、困難な課題であり、多くの努力が重ねられてきている。

 建国直後において、毛沢東の号令のもと、北京市、天津市、河北省に流れる海河等に数多くの農業用ダムを建設し、灌漑、ニ毛作化による食糧増産に成功した。
 しかし、上中流部での取水は、下流の水量を減らし、地下水位の低下、さらには地盤沈下、海水の逆流等の弊害をもたらした。これは、北京市・天津市間等の水争いを起こしている。

 現在、海河での経験と同じことが、黄河において一層大規模に起こっている。
 黄河治水計画は1955年の人民代表会議で議決され、数多くのダムの建設が順次なされてきた。これにより、食料増産に成功している。

 しかし、既に1972年から黄河の水流が渤海まで達しない「断流」現象が生じており、地下水位の低下とあいまって、その状況は年々厳しくなってきている。当初'70年代の発生日数は最大でも20日前後だったが、次第に増え'97年には220日を超えているという。
 既に、幾多の河川間導水路の整備もなされてきているが、状況の根本的な改善はなされていない。

 
 
 このような状況に対して、現在では、「南水北調計画」として長江の水を黄河に導く計画が提示され、実施されようとしている。このような考えは、既に毛沢東の発言にあり、検討されてきていたが、その困難性から着手されていない。
 しかし、「国民経済と社会発展に関する第10次五ヵ年計画」(2001-2005)では、「水資源の不足はわが国の経済と社会発展をきびしく制約する要因である。」との認識から、「中国南部の水を北部へ引いてくるなどの重要プロジェクトの企画と建設を急ぐ。」としている(2001年5月17日人民日報掲載の要綱による)。
 この南水北調計画には、3つの系統がある。このうち西線については、トンネル掘削等の困難がある。中線については、途中に湖沼等なく水量調整が困難であるとともに、長江自体の流量に与える影響が大きい。東線については、ポンプアップが必要であるとともに水質が芳しくない。このようにそれぞれに問題が山積している。
 さらに、この計画の実施には膨大な経費を必要とすることはもとより、このような長距離の導水で地下への浸透、空中への蒸散を十分に防止できる水路とするためには技術的課題も大きい。また、乾燥地帯への新たな導水は土壌の一層の塩化を促す可能性も高い。一方、長江の水量の減少は、河口での海水の逆流も招きかねない。他方、水の融通には地域的利害があり、これを十分に調整できるかといった基本的な問題もある。
 他方、遼寧省南部の水不足解消については、北水南調計画・東水西調計画が準備されている。

 以上のように、事業推進自体の可否の問題が存在するとともに、北部の水不足に対して早急かつ適切な手段が講じられない場合には、中国の今後の発展にとって、最も厳しい課題として現れてくる可能性が高い。最悪のシナリオではメソポタミア文明の衰亡に類似した状況の可能性も否定できない。


(統計データ)
参考文献等
小島麗逸著「経済発展を制約する要因」(毛利和子編「現代中国の構造変動」第1巻大国中国への視座第4章)東京大学出版会、2000年

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(Oct.11,2001.)