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インタビュー:「真琴は実写では表現できない」 「時をかける少女」細田守監督

(ほそだ・まもる) 67年富山県生まれ。91年に東映動画(現東映アニメーション)に入社。劇場版アニメ「デジモンアドベンチャー」(99年)などを手がけ、05年からフリー
(ほそだ・まもる) 67年富山県生まれ。91年に東映動画(現東映アニメーション)に入社。劇場版アニメ「デジモンアドベンチャー」(99年)などを手がけ、05年からフリー

 昨夏公開された劇場版アニメ「時をかける少女」。単館上映からじわじわと人気が広がり、全国100館以上で公開されるヒットとなり、06年の映画やアニメの賞を総なめにした。細田守監督は、「ワン・ピース」などの劇場版アニメを手掛け、テンポのいいカット割りなどで高い評価を得ている演出家だ。そんな細田監督が、筒井康隆さんのジュブナイルSFの名作を、いまなぜアニメ化したのか。その思いを語ってもらった。 【渡辺圭】

--「時をかける少女」をアニメ化しようと思ったのは

細田 原作を初めて読んだのが80年ごろですから、13歳ぐらいの時でした。その後、テレビドラマや、大林宣彦さんの映画など、何度も映像化されています。つまり、その時代の10代の少年少女たちが作品を読んだり、映像を見ていたりしているということで、こんな作品、ほかに無いと思います。では、現代の10代にとっての「時をかける少女」とは、どんなものだろうか、という思いから企画がスタートしました。

--いまの10代に向けた「時をかける少女」が作りたいと

細田 僕が10代だったころ、未来というのは大きな興味の対象でした。30歳を超えるころには21世紀に変わっていて、明るい未来がやってきていると希望を抱いていました。ところが、21世紀になっても、何も変わっていない。環境問題や戦争など、20世紀に積み残した問題が何も解決できていなかったわけです。今の21世紀を生きる10代だって、当時の僕と同じように未来に希望を抱いているかもしれないし、何かを夢見ているかもしれない。どう違うのか。そこが知りたかった。「時をかける少女」という作品は、それを知るのに適したスタンダードな作品だと思ったのですよ。

時をかける少女 4月20日、販売・レンタル開始 4935円 角川書店--主人公の紺野真琴をはじめ、原作とは違う登場人物やオリジナルの設定になっていますね

細田 04年に企画を立ち上げた当初は原作通りでした。シナリオを作っていく中で、どうも主人公の芳山和子という女の子が現代とマッチしないのではないかと思うようになった。映画にするわけですから、なるべくなら主人公はアクティブな性格にしたいという希望もありましたし、和子はおしとやかで、古典的で、ちょっと現代劇にそぐわないと感じていたんですよ。でもまあ、ある程度我慢して作業を進めていたのですが、ある日どうにも我慢ならなくなって主人公を入れ替えることに決めました。

--シナリオはどのように作っていったのですか

細田 まずは2人のプロデューサーと一緒になって考えましたが、この人に書いてもらいたいという人が1人いたんです。それが、今回脚本を書いてもらった奥寺佐渡子さんです。僕が東映アニメーションで仕事をしていた時代に、あるとき誰かのデスクにおいてあったシナリオをちょっとのぞき見たたんです。とある原作もので、僕とはあまり関係の無い作品だったのですが、ちょっと読むと、もしかしたら原作より面白いぞって言うくらいピンと来ました。それ以来、ずっと頭の片隅に気になる人として残っていました。今回、「時をかける少女」をオファーするにあたって、連絡先などを調べているうちに、実は「学校の怪談」シリーズなど、映画の脚本を何本も書いている人だということが分かって驚きました。最終的には4人で議論しながら進めて、完成までに9カ月かかりました。

--原作を変えることに抵抗は

細田 原作を肯定することも否定することも出来ないと思います。ですから、原作をちゃんと読み込もうということはスタッフの間でも徹底しました。その一方で、これまで映像化された作品はほとんど意識していません。特に大林宣彦監督の映画を見ちゃうと、影響され過ぎちゃう恐れがあったんですね。大切なのは原作の精神です。「時をかける少女」という作品は、「タイム・リープ」という時間を超えられる能力を通じて、未来に思いをはせられる、未来を身近に感じられる。それが出来る物語だと思います。この精神を守れば「時をかける少女」にちゃんとなる。

--そうした思いが伝わってヒットになったのでしょうか

細田 ヒットについては全く想像していませんでした。大掛かりな宣伝は出来ない作品でしたので、みなさんの口コミで広まってくれたことは本当にうれしいです。こうした動きは映画では良くあると思うんですけど、劇場版アニメでは聞いたこと無いですよね。06年は多くの日本映画が作られた年で、興行収入が洋画を抜いたなんて話もありますが、そんな状況下で映画に関われたのは幸せですね。「演出家」は職業ですが、「映画監督」は職業ではなく、幸運な人間にしか名乗れない肩書きですからね。

--劇場公開という形式にこだわりがあるのですか

細田 劇場版は2時間以内にすべてを詰め込まなくてはいけないところが面白い。これが一番の魅力かな。だからといって、実写がやりたいわけでもない。よく「実写映画を撮りたいのでは」と聞かれるようになりましたが、そんなこと考えていませんよ。映像を見せる手法としてのアニメーションが大好きなんです。

--アニメの良さとはどんなところですか

細田 作品を時代とフィットさせられる部分かな。特に「時をかける少女」の登場人物たちは、実写では絶対に表現できない。真琴みたいな役が出来る女優さんを探してくるのは無理だと思います。彼女はアニメーションだから表現できる人物なんです。演じてくれた仲里依紗(なか・りいさ)さんは、現在では映画やテレビで活躍していますけれども、「時をかける少女」が初めての演技でした。でも、多くの声優さんとオーディションした中で、最も真琴役にフィットしていましたね。どの声優さんもそれぞれに魅力はあるんですけど、アニメに慣れ過ぎているというか、みんな“美少女声”になり過ぎていたり、楽しいはずのせりふが全く楽しく聞こえなかったり、ということが気になりました。その点、仲さんは違いました。前向きで飾らない人で、ワクワク感があったんですよ。オーディションを始めてすぐにピンときましたね。16歳と年齢的にもちょうどよかった。ほかのキャストも、仲さんに合わせて、すぐに決まりました。

--「日本アカデミー賞」や「毎日映画コンクールアニメーション映画賞」など総なめ状態ですね

細田 ありがたいことです。表現方法としてのアニメーションの可能性を証明できたと思っています。劇場版アニメもたくさんありますが、まだまだテレビアニメのおまけというか、お祭り騒ぎの延長に過ぎない感じがします。映画として成立しているアニメーションはやっぱりまだまだ幅が狭いですよ。これからもアニメという表現方法と映画という形式を追求していけたらなと思います。

時をかける少女 4月20日、販売・レンタル開始 4935円 角川書店

 2007年4月2日

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