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【断 久坂部羊】モンスター弱者の弊害
このニュースのトピックス:コラム・断
先日、大阪の病院で、職員が患者を公園に置き去りにしていた事件が報道された。患者は治療の必要のないいわゆる社会的入院だったが、目が不自由だった。
病院が患者を置き去りにするのは言語道断だが、このケースは患者にも問題があった。暴言、暴力でほかの患者に迷惑をかけ、病院の備品を壊し、6人部屋を1人で占有していたというのだ。
患者が問題行動を起こすのにも理由はあるだろう。しかしこの患者の場合は、許される範囲を超えていたように思う。
最近、モンスターペイシェントと呼ばれる問題患者が増え、医療現場で大きな問題になっている。
昨年、患者から医療者への暴力は、報告されただけで430件。
病院がまちがったことをしたら許されないが、患者はまちがったことをしても許される、という風潮が蔓延(まんえん)しているのではないか。一部の不心得な自称社会的弱者がこれを悪用し、理不尽な要求を押し通そうとする。
前述の患者も、医療費の不払いが185万円に上っていた。払いたくても払えないのか、払えるのに払わないのかの見極めはむずかしい。しかし、少しでもズルをして払わない人がいると、それは悪性の伝染病のようにまたたく間に広がるだろう。その結果、規制や世間の目が厳しくなり、社会的弱者全体が損害を被ることになる。
気の毒な人には当然、救いの手を差し伸べる必要がある。しかし、モンスター弱者まで救っていては、ほんとうに助けるべき人が守られなくなる。
安易なモンスターのレッテル貼(は)りは慎まなければならないが、毅然(きぜん)たる対応の必要性を感じる。(作家・医師)