北海道十勝岳連峰の上ホロカメットク山(一、九二〇メートル)で、日本山岳会北海道支部のパーティー十一人が雪上訓練に向かう途中、表層雪崩に巻き込まれ男女四人が死亡した。
気の合った仲間が集まり週末を利用しての中高年登山。一面の雪景色に心弾ませていただろう。しかし、楽しいはずの登山は一転、悲しみのどん底に落とされた。
道警などの調べによると、視界が十―百メートルと悪い中、一列になって約一時間歩いていて雪崩に遭ったという。亡くなった四人は先頭付近にいた。死因はいずれも窒息死だった。ほかの人は自力で脱出するなどした。「突然、上の方から雪崩がきた。白い煙が上がった。アッという間だった」と言う。冬山がひとたび牙をむいたときの底知れぬ恐ろしさを物語っていよう。
メンバーは五十年から三年の冬山経験者で今シーズンの山に慣れるため、雪上訓練を行うことにしていた。ピッケルを雪の面に突き刺して身体が滑落するのを防いだり、斜面を登山靴ですべりながら下降するテクニックなどを磨く予定だったのだろう。
どこで暗転したのか。下山後のリーダーの発言内容が気になる。雪崩に遭う約十分前、発生から一日とたっていない雪崩の跡を確認したが「一度起きていれば、しばらく起きないだろう」と考え登山を続行。「引き返すべきかどうか、もう少し行って判断しようと思ったときに雪崩が起きた。判断に甘さがあったと思う」と振り返った。リーダーの危険の予知と回避がいかに重要かを浮き彫りにしている。
地元でも危険性を指摘する声はあった。十日ほど前にスキーヤーが雪崩に巻き込まれていた。その後、二メートル以上の積雪となり雪の状態は不安定になった。事故当日は気温が上昇していたという。悪条件の中、なぜ雪上訓練を行おうとしたのか、週末の休み中にすませようと無理な計画になっていなかったか。支部は委員会を設置して調査し、再発防止に努めるべきだ。
今回の遭難を教訓に中高年登山には事故が付きまとうということを再認識しておきたい。警察庁の調べでは昨年の遭難発生件数は千四百十七件、遭難者数は千八百五十三人で十年前より倍増している。うち、四十歳以上の中高年は遭難者の八割も占める。
近郊の山でも冬場は雪に見舞われることがある。日ごろの体力トレーニングはもちろん、早い日没を意識して下山時間に余裕を持たせ、アイゼンなど必要装備の携帯を怠るまい。自分のため、家族のため安全・安心登山を心掛けなければならない。
オーストラリア総選挙で、ケビン・ラッド党首率いる最大野党・労働党が圧勝し、十一年半ぶりに政権交代が実現した。
選挙では、保守連合(自由党と国民党)を率い、五期連続の政権維持を目指したジョン・ハワード首相が自らも落選した。現職首相の落選は同国史上二人目で、約八十年ぶりだ。
ハワード首相は財政黒字など好調な経済実績を武器に支持を訴えたが、国民の琴線に触れたのは、労働党が示した教育や雇用、環境など生活に直結した政策だった。労働党が勝利を収めたのは、保守連合の長期政権を嫌った有権者のバランス感覚の表れといえよう。
ラッド党首は最優先課題として、温暖化ガスの排出削減義務を定めた京都議定書の批准を公約に掲げた。ハワード政権が拒否してきた環境政策の大きな方向転換であり、歓迎すべきだ。温暖化対策で国際的な協調路線に踏み切れば、「ポスト京都議定書」議論にも多大な影響を与えることになろう。
外交面ではさらに、イラクからの戦闘部隊撤収も公約している。来年半ばまでに、イラクとその周辺に駐留する部隊約千六百人のうち、戦闘部隊約六百人を段階的に撤兵させる見通しという。米国のイラク戦略に影響を及ぼす可能性もありそうだ。
日本にとってオーストラリアは戦略的に重要な国である。今年三月には、対北朝鮮、対テロ政策などで連携強化を盛り込んだ安全保障協力に関する共同宣言に日豪首相が署名した。ラッド氏は中国通の元外交官だけに、中国重視の姿勢に移るのではとの見方もある。福田政権はラッド新政権とも連携の維持強化に努めねばなるまい。
(2007年11月27日掲載)