由布姫は、精神的には三条夫人にやられっぱなしです(笑)。その“人となり”や人間性にはかなわないなと思わされてしまうことが多いですね。
甲斐に来たばかりのころ、三条夫人の方から訪ねてきた時もそうでした。本当は、由布姫になんか会いたくなかったと思うんです。晴信の側室になるといううわさもあり、平静な気持ちではいられなかったはずですから。でも、武田の正室として由布姫を慰めるという立場で会いに来たんですね。
そこで、三条夫人の本音が出てしまったことが由布姫の決意をうながすことにもなったんです。その直前、やはり由布姫に会いにきた甘利虎泰からも同じことを感じたのですが、人間が必死で生きていく姿、自分の大事なもののために真剣にぶつかってくる姿を目の当たりにして、『自分だけやすやすと生きるわけにはいかない』という思いになっていったんです。
また、側室として武田家に入ることを決意した由布姫に、京から持参した笛を渡して『お屋形様をお慰めしてほしい』『お屋形様を、どうかお頼(たの)申します』と頭を下げられた時も、ぼう然としましたね。なんて達観した人なんだろう、こんな人がいるんだろうかって。本当に仏のような女性だと思いました。
|
 |
今まで演じてきた部分では、三条が本心で由布姫を妬んだりするようなところはありませんでした。逆に『どうして、あなたはそんなにかたくなに自分を責めるの』という気持ちで由布姫を見ていました。三条としては彼女の心の中に張った氷を溶かしたい気持ちでいっぱいだったんです。でも、実は三条が塩をまいて凍らせていたところもあるんですね(笑)。彼女のことを、おとしめるつもりもないし、沈めてやろうなんてこと、少しも考えてもいないのに、どうも裏目に出てしまうみたいです。
ただ、これから先、息子のことが関わってくるので、いろいろと厄介ではありますね。由布姫の子である四郎のことは嫌いじゃないし、子どもに罪がないこともよくわかっています。でも、晴信とお父さんの信虎との関係を見てきただけに、四郎が太郎にとって微妙な存在だということも気になります。由布姫の立場もわかるとはいえ、いろいろ変化していきそうです。
|