インタビュー 北条氏康役・松井誠 10数年の歳月が変えた 氏康の鬼気迫る強さを…

前半と後半、氏康の変化を明確に

 北条氏康役が決まって最初にしたことは氏康に関する本を読むことでした。体全体で役の人物の“生きざま”を表現する舞台と違って、映像は表情やちょっとした動きなどでそれを表現しなくてはいけません。そこで氏康の人物像にふれるために、いろいろな本を読んだのですが『こうであったであろうな』という氏康像は自分でつくらないといけないところです。
 前半の氏康は、落ち着きを感じさせる知恵者で人間味豊かな人物というのを意識しました。まだ偉大な祖父も父親も健在で、その大きな傘のもとで育った“お坊ちゃん”のイメージですね。武田晴信や今川義元のように家中で対立があったわけでもない。その分、余裕があったのだと思います。
 ところが10数年の歳月を経て登場した氏康は全然違う雰囲気を漂わせています。家督を継いだことで、これからは自分が城や家臣、そして領民を守っていく立場になったからです。知恵者であるところは変わりませんが、後半は“攻めの氏康”“強い氏康”になっています。父親の跡を継いでさまざまな苦労をしたことが氏康を変えていったという解釈です。ただ、本来持っていた温かみや人間味はなくしたくないですね。
 勘助との再会でも『信用すべきところ』と『信用してはいけないところ』を、きっちりと抑えています。かつて勘助から得たインパクトは薄れていないし、彼に対する思いも変わってはいない。けれど、戦いの最中であることも含めて“強い氏康”の判断がそこにあったんですね。とはいえ、勘助と氏康の間には“通じ合う心”のようなものがあり、最後までこの関係は変わらないのではないでしょうか。

力強さ、存在感に信長を思わせる一面も

 少し前のことですが、川越城(埼玉県川越市)*で開催された『風林火山展』のオープニングセレモニーのテープカットに行ってきました。その後、河越城や資料館などを見て、改めて氏康、そして北条家の深さを感じることができました。ドラマでも川越城を守る北条綱成に対する思いの深さ、そして温かく見守る氏康の姿が描かれています。
  河越夜戦の氏康は非常に男っぽいですね。上杉8万の大軍をわずか8千の兵で破るという大勝利を収めたのですから、それは鬼気迫るものがあったと思います。そのテンションがつまり後半の氏康を象徴しているのではないかと思います。
  キャラクター的に信長的なところもあったようです。やや狂気に満ちたところがありながら優しさや人を思いやる気持ちもある。ただ、それ以上に残酷なところもあって、まさに信長の印象です。10数年の歳月を経て“すごみと力強さ”が増した氏康の表情なども注目していただきたいですね。
  これからの楽しみは、武田、今川、北条が同盟を結ぶ“三国同盟”です。晴信、義元と軍議を開くのですが、おそらく最年長の氏康が晴信や義元を巧みに抑えていくなど、存在感を発揮するのではないでしょうか。市川亀治郎さんや谷原章介さんとも初めて顔を合わせることになるので、今からワクワクしています。
  あと歴史の本を見ると、氏康の顔には2か所に刀傷があるんです。おそらく戦いでついた傷だと思うので、今後、そんなシーンも描かれるかも知れませんね。舞台で女形を演じている時とは別人のような“強い氏康”役をぜひ楽しみにしてください。

*別名:河越城、初雁城、霧隠城。ドラマでは“河越城”です。

 
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