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正直な話、大河ドラマのお話をいただいた時はびっくりしました。決めつけていたわけではないのですが、僕が大河という世界に入り込むことができるとは思っていなかったので、すごく嬉しかったです。
平蔵という役柄のフットワークの軽さも気に入りました。自ら望んだわけではないけれど各地を転々とする様を、肩に力を入れることなく面白く演じられるんじゃないかなと思ったんです。
あの時代にもいろんな個性を持った人物がいたはずですよね。せっかく僕がやらせてもらうのだから、時代劇だからといって構えるより、むしろ“僕が見たい”キャラクターをやらせてもらいたいなって。
平蔵は、元々が農民ですから喜怒哀楽をはっきり出すし、自分の心に素直に動いて走り回る。わかりやすいくらい自分の思いを貫く生き方をしていて、すごく人間くさい人物ですよね。まさに僕が見たかった動きや振る舞いをしているので、演じていても気持がいいですよ。いま平蔵という役がどんどん好きになっているし、これからもっともっと好きになっていきたいと思っています。

平蔵は自分の目の前でミツが殺されるところを見てしまったのだから、やっぱり武田に対する恨みが消えることはないですね。ミツを殺したのは武田信虎で晴信ではないけれど、海ノ口城の天井から晴信を見てしまったら、やっぱりグッと熱いものがこみ上げてきた。ほんの少し迷う気持があったとしても『ここでやらなければ、ミツやんがかわいそうずら』という思いで、晴信に向けて弓を引いてしまったんです。
ただ、悲しいことに平蔵はそれまで人を殺したことがないから失敗してしまう。思いはあるのにうまくいかない、悔しさを味わうしかない。そこが平蔵の切ないところですね。
結局、平蔵は辛かったことや悲しみをずっと胸に抱えて生きていくことになります。もちろん、この先には笑顔になる時もあれば、楽しいことも待っていたりする。だけど、やっぱりどこか悲しいし、平蔵が笑うと、逆に泣いているように見えたりする。そんな人間くさい平蔵でいることが大事だと思っています。
それは僕の中に『平蔵の目線で「風林火山」を楽しんでもらえたらいいな』という思いがあるからです。平蔵は武将でも何でもないただの農民ですが、それだけに親しみやすい存在ですよね。その平蔵が大きな渦にどんどん巻きこまれていってしまう様は、身近な出来事のようで感情移入しやすいと思うんです。
僕が平蔵の根底にある悲しさ、辛さをちゃんと表現することで、「風林火山」の世界に入り込んで共感していただける部分がたくさんある。そう思っているので、どれほど各地を転々としても甲斐の言葉を忘れないように、あの素朴さは大切に演じていきます。
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