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【政治】

陸自ヘリ一機216億円 『世界一高い戦闘機』の倍近く 来年度概算要求

2007年11月27日 朝刊

陸上自衛隊のAH64D戦闘ヘリコプターの同型機(ボーイング社のホームページから)

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 高額なことで知られる陸上自衛隊のAH64D戦闘ヘリコプターが、来年度防衛予算の概算要求で一機を二百十六億円という超高価格で購入されることが分かった。「世界一高い戦闘機」といわれたF2支援戦闘機(約百二十億円)より高い。しかも防衛省は二〇〇九年度を最後にAH64Dの調達を断念するため、調達開始からわずか八年で代替機を選定し直すという失態を演じることになる。

 AH64Dは、陸自のAH1S戦闘ヘリの後継機種。米ボーイング社製で富士重工業がライセンス生産している。〇一年の候補機選定の際には、米陸軍が採用し湾岸戦争で使われた実績があることや、全天候で索敵できる射撃統制レーダーを搭載した「世界最強ヘリ」であることが決め手になった。

 AH1Sが一機約三十億円だったのに対し、AH64Dの予定価格は倍の約六十億円。さらに部品の国産化率を高めるなどしたことで、年を追うごとに価格は高騰した。

 来年度の概算要求では、機体価格そのものは一機八十三億円。調達は現行の中期防衛力整備計画(〇五−〇九年度)で断念するため、富士重工業の設備投資などの経費四百億円を〇八、〇九年度で調達する三機の価格に分割して上乗せする。一機あたり百三十三億円の追加となり、結局、来年度は一機二百十六億円もの高価格になる。

 調達断念の理由を防衛省防衛計画課は「米ボーイング社が陸自の使用する現行のAH64Dの生産をやめ、モデルチェンジすると決定したことが大きい。現行機の米国製部品の値段が跳ね上がる。新型式機を採用するにしても、旧型式機を改造する手間が必要で現実的ではない」と説明する。

 ボ社は二十年にわたり、現行機を製造すると約束していたが、米軍再編によって米政府が装備を見直したことを受け、製造中止を決めたという。他国の場合、まとめ買いをすることで、今回のような事態を避ける工夫をしている。

 AH64Dは本来六十二機を調達する予定だったが、十三機で打ち止めとなり、代替機の選定が必要。選択肢は外国機購入や国産開発のほか、汎用ヘリや観測ヘリの転用などが考えられる。退役するAH1Sの延命措置は避けられず、延命のための出費を迫られる。

<解説> 防衛省がAH64D戦闘ヘリコプターを予定した六十二機から大幅に少ない十三機で調達を断念する問題は、日本の安全保障に深くかかわっている。断念は米ボーイング社による生産打ち切りが最大の理由だが、金さえ出せば後継機の購入は可能だ。しかし、防衛省はこれ以上の支出は無理と判断した。

 航空機を導入する際、毎回のように浮上するのが見通しの甘さ。AH64Dは当初約六十億円とされたが、これに近かったのは調達初年度の二〇〇二年度だけ。年々高騰し、〇六年度は一機百五億円に。F2支援戦闘機も予定では一機約五十四億円だったが、百二十二億円まで値上がりした。

 国産やライセンス生産で、価格をつり上げる防衛産業と買い続ける防衛省という「病んだ構図」がある。防衛産業に多くの官僚が天下りをしていることも疑念を抱かせる一因となっている。自衛隊幹部は「国内企業に中途半端に武器を製造できる技術があるから値段が高くなる。米国から購入するしかない国では、まとめ買いするから問題は起こらない」という。

 防衛省は、昨年度からまとめ買いを取り入れた。しかし、航空機は購入した年度を反映して退役時期がずれるため、一気に交代させるのは難しいとされる。このままでは購入可能な主力兵器を前提に防衛力を整備し、その防衛力に合わせて脅威を見積もるという本末転倒が起きかねない。

  (編集委員・半田滋)

<メモ>AH64D戦闘ヘリコプター 夜間や悪天候でも戦闘できる射撃統制レーダーや電子機器を搭載した攻撃ヘリ。通称ロングボウ・アパッチ。対戦車、対空ミサイル、ロケット弾、機関砲を装備。乗員2人、最大速度270キロ、行動半径は約200キロ。

 

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