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ビジネス・コンティニュイティに「緊急地震速報」を活用する時代
現在の情報精度を知り、自社システムへの組み込みを検証する
(2007年11月27日)
高精度化にはホームサイスモメータの普及が“カギ”
緊急地震速報では、直下型地震(陸地や都市の直下で起こる地震)の震源からの距離が30km以内の地域では情報配信が間に合わない。しかし、直下型地震による被害の多くは震源近くに集中しているため、震源付近の地域にも即時に情報配信できるシステム構築が求められる。
大規模な地震は5kmより深い地点で発生することから、地震がどこで発生しても対応できるようにするには、観測点間隔を5km未満に設定し、遅延時間を0.1秒以下にする必要がある。このためには、地震観測点数を現在の25倍に増やさなければならない。しかし、国家予算で現在の25倍もの観測点を整備するのは費用の点からみても困難である。
観測点数の不足に加えて、緊急地震速報のもう1つの課題は、先に述べたように緊急地震速報の情報だけでは推定震度の精度が低くなってしまうことである。緊急地震速報を用いて各種機器を制御する場合、現在のままだと機器を不必要に制御する割合が多くなる。特に機器を停止することで多大なコストが発生してしまうような企業では、緊急地震速報を有効活用することは困難である。
防災科研は、こうした緊急地震速報が抱える一連の課題解決を目指し、ホームサイスモメータの普及計画を提案している。ホームサイスモメータは、みずからの観測データや、他の場所に設置されたホームサイスモメータの情報をインターネット経由で相互に利用し、P波が観測された直後に地震情報を配信できる。そのため、直下型地震にも対応可能だ。また、緊急地震速報で予測される揺れと、実際にホームサイスモメータで観測された揺れとを比較することで、ホームサイスモメータが設置された地点の地盤の揺れ具合を補正できることから、推定震度の精度を大幅に高められる。
普及に向けて防災科研は、緊急地震速報受信端末の開発を手がけるエイツーと共同で、受信端末に地震計を組み込んだ安価なホームサイスモメータの開発を行っている。
ホームサイスモメータは、PCなどに衝撃が加わった際、それを感知するために標準的に使われている半導体の加速度センサーを地震計として利用している。また、緊急地震速報を受信するために、インターネットを介して常時ネットワーク接続されているため、地震が発生した際にはホームサイスモメータが観測した地震情報をリアルタイムに集計・解析することが可能となる。
ホームサイスモメータが1台普及することは、地震観測点数が1点増えることと同じ意味であるため、普及すればするほど地震観測点数が増えることになる。緊急地震速報のユーザー数は将来、数百万から数千万に達することが見込まれており、収集したデータをリアルタイムで処理するシステムを構築すれば、緊急地震速報が抱える現在の課題を一挙に解決できるだろう。
ホームサイスモメータを生かしたBCを考える
周知のように、今日の環境下で、企業がいかにビジネス・コンティニュイティ(BC:事業継続性)を確立するかが重要なテーマとなっている。緊急地震速報とホームサイスモメータを自社システムに組み込むことで、地震の事前対策が打てるようになれば、BCの確保に対する貢献は大きい。
一般に、地震による建物の揺れの強さは地盤により大きく変わり、揺れが大きいと被害も拡大する。地盤が悪い場所では、液状化現象も発生しやすい。ホームサイスモメータを利用すれば、小さい地震が発生した際に、建物の揺れの分布を観測することができる。ホームサイスモメータで観測したデータを、その近傍に位置する防災科研の観測点で収集した地震データと比較・検証することで、建物ごとに揺れやすさの違いがわかる。すなわち、地震発生時に大きな被害が予想される建物が特定できるわけである。
揺れやすい場所に設置された建物や設備は、大きな地震が発生した際のリスクが非常に大きい。工場などでは、生産設備のほかにも各種備品や在庫品が、不安定な状態で積み上げられていることもある。しかし、事前に危険であることを知っていれば、相応の対策を打つことができる。被害が予想される設備を事前に補強することは、地震対策では最も重要な対策の1つである。
図2に、ホームサイスモメータを利用した緊急地震速報のイメージを示す。ホームサイスモメータで観測したデータは、緊急地震速報の各2次配信業者へ集約され、そこから民間のデータ解析センターに送られる。解析センターは、気象庁から送られてくる緊急地震速報のデータとホームサイスモメータの観測データを併せて、より正確な地震情報を瞬時に解析し、企業や一般ユーザーに向けて配信を行う。
図2:ホームサイスモメータを利用した緊急地震速報のイメージ |
このように、ホームサイスモメータを効果的に活用したシステムを構築すれば、緊急地震速報は大幅に高度化される。ユーザー数が数万人規模になれば、地震観測点数は現在の数十倍になる。それだけでも、地震の発生を現在より格段に早く検出でき、かつ正確な情報配信が可能になる。観測点密度が高まると、結果として現在の緊急地震速報に比べて4〜5秒早い地震情報の配信が可能になる。
ホームサイスモメータは低コストで設置が可能
国が設置する地震観測装置の1点当たりの設置費用は、数百万から数千万円の規模である。一方、ホームサイスモメータは、基本的にユーザーがネットワークに接続するだけの簡単な構成であるため、設置費用は不要である。つまり、本体価格の数万円程度で導入できる。
安価であるがゆえ、ホームサイスモメータの地震計は国の地震計に比べて感度が悪い点は否めない。国が設置している地震計とノイズ・レベルを比較すると、約1,000倍もの違いがある。
しかし、震動台を使った実験では、震度2以上の揺れであれば、安価な地震計でもほぼ正確に揺れが観測できることが実証されている。そして、地震による被害が発生するのは震度5以上である。すなわち、被害を未然に防ぐための正確な観測データの収集という点では、ホームサイスモメータは十分な性能を持っていると言える。ただし、揺れの周期が3秒以上のゆっくりとした地震波の場合には、振幅が10cm以上でないと観測できないという面がある。
また、ホームサイスモメータは屋内に設置する機器である。そのため、人工的に起こった大きな振動が混入する可能性も十分にありうる。しかし、人工的な振動と地震による震動が区別できないと、そもそもホームサイスモメータを設置する意味がない。このことに対応するため防災科研は、地震波と人工的な振動の周波数や発生の仕方の違いに着目し、両者をほぼ完璧に区別するアルゴリズムを開発している。防災科研は、ホームサイスモメータを利用した高精度な緊急地震速報のシステム構築に向けて、着々と準備を進めている。
最良の地震対策システムとは
東京大学生産技術研究所の目黒公郎教授は、東海地震が発生した際に全国民が緊急地震速報を受信し、地震対策を行うことで、東海地震での死者数を82%減らすことができると指摘している。つまり、緊急地震速報は、現時点で直下型地震には対応できないが、東海地震などの海域で発生する巨大地震にはきわめて有効な対策手段となるわけである。
その一方で、震度5弱から配信される緊急地震速報は、広い範囲に配信されるため、地震情報を受信しても僅かな揺れしか感じないことが多いはずだ。
しかし、大した揺れではないからといって、緊急地震速報として発っせられる情報に慣れてしまわないことが肝要である。そして、より重要な点は、実際に緊急地震速報を受信してもパニックを起こさないで行動できるように、事前準備をしっかりとしておくことである。
最後に、私が考える最良の地震対策システムを紹介する。
例えば、生産工場を保有する企業においては、工場で働く従業員数十名の家にホームサイスモメータを設置する。そして、緊急地震速報と併せた生産設備のコントロール・システムを構築すればよい。これにより、地震がどの方向で発生しても、工場周辺の揺れの分布がリアルタイムでモニターできるようになる。
地球内部は不均質であるため、震度の推定にはどうしても誤差が出てしまう。しかし、工場周辺での揺れの分布が正確に観測できれば、震度の推定も正確に決定することができ、生産設備の不要な停止を最小限にとどめることが可能だ。
このようなシステムを構築すれば、推定した震度の誤差を0.3以下に抑えることが可能となる。誤差が0.3以下になると、24ページの表2で示した適切な制御の割合の最終目標である25%が実現される。なお、ここで紹介した地震対策システムは、生産工場だけに当てはまる話ではない。データセンターのほか、企業がBCとして地震対策システムの構築を考える際に、全般的に当てはめることが可能だ。
さらに、企業がこうしたシステムを構築することは、従業員の家族にとってもメリットがある。先ほどの例で言うと、工場で働く従業員にとって大地震発生時の家族の安否は、大変気がかりな点である。しかし、このシステムでは、地震によりインフラが破壊される前に、ホームサイスモメータから地震情報を工場に集めることができるため、仮に家族と連絡が取れなくなった場合でも、集計した地震情報を基にして、従業員の家族の被害状況を予測することができる。被害状況を予測することができれば、その後の対応も大きく変わってくるだろう。
今後は、例として挙げたようなシステムが、SIerからより安価に提供され出し、企業でも汎用的に利用できるようになることが予想される。すでにNECやNTTコミュニケーションズ、伊藤忠テクノソリューションズなどから、緊急地震速報を利用したシステムの提供も行われている。そして数年のうちに、緊急地震速報と地震対策システムはより高度なシステムへと昇華するはずである。
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