◇導入可能な病院は一部
「感染性じんましんで入院している5歳3カ月の子です。発疹(ほっしん)が全身に広がり、高熱も出て当院を受診されました」
平日の午後4時半。徳島赤十字病院(徳島県小松島市)の一室に小児科医5人が集まった。昼間の病棟勤務だった医師から、夜勤に入る第1小児科部長の吉田哲也さん(60)への申し送りの場で、出勤中の小児科医は全員参加する。患者の状態や処置内容の説明は、みっちり30分間続いた。
同病院は02年から24時間の小児救急体制を整えるにあたり、常勤医を7人に増員し、2交代制勤務を導入した。毎日2回、綿密な申し送りをする。1人の患者を主治医1人で担当するわけではなく、情報の共有が不可欠なためだ。
以前は日勤や宿日直、夜間の自宅待機を医師4人でこなしていた。長いと、日勤-宿直-日勤の36時間連続勤務になり、休日は月3~4日だけ。3~4日に1回の自宅待機の際も、患者の容体変化などで1晩に3~4回は連絡が来たという。
交代制導入で、週休2日が確保された。連続勤務は最長でも16時間で、呼び出しも月1回程度に減った。勤務が終われば、ほぼ完全に業務から離れてリフレッシュできる。第2小児科部長の中津忠則さん(57)は「オンとオフがはっきりして、気持ちも体も非常に楽になった」と話す。休日は趣味のテニスを楽しめるようになった。
交代制は吉田部長が温めてきたアイデアで、「小児科医の過剰労働の回避と、時間外診療のやる気を保つために必要だった」と狙いを話す。
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国は緊急医師確保対策の一つとして、交代制の導入などで勤務時間短縮を実現した病院に補助金を支給する。費用は国、都道府県、病院が3分の1ずつ負担し、来年度は各都道府県で2病院ずつの実施を見込む。
厚生労働省は、交代制だけでなく、週4日勤務のような変則勤務など数種類のパターンを例示する。退職医師や開業医を雇い入れたり、子育て中の医師らを組み合わせる方法も含め、「病院ごとに最善の方法を選んでもらう」という。
しかし、肝心の医師確保は病院の努力にゆだねられる。徳島赤十字病院が一番苦労したのは医師確保だった。「そんな人数がどこにいる」と話す大学の教授を吉田部長が説得し、派遣医師数を増やしてもらった。吉田部長は「そもそも人が足りないのだから、補助金的なことで普及するとは思えない」と疑問を示し、こう付け加えた。
「これまでの小児救急体制は、どう考えても労働基準法違反。本来、交代制勤務が普通のはず。是正すると救急医療がつぶれるから国は黙ってきたのに、今やれと言うのはおかしい」
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過労死弁護団全国連絡会議は今月14日、医師の劣悪な労働条件の改善を求める要望書を厚労省に提出した。
要望書は、勤務医の労働時間が週平均63・3時間で、過労死認定の目安となる「月80時間の時間外労働」が常態化していることを指摘。▽医療機関に医師の労働時間を把握するよう促す▽時間外労働のために労使が結ぶ協定を適正に運用させる--などを求めた。
同会議代表幹事の松丸正弁護士は「医師がいない以上、交代制勤務を導入できるのは一部の病院だけ。改善しようと思うなら、医師数の大幅増員を本気で考える必要がある」と訴える。=つづく
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毎日新聞 2007年11月27日 東京朝刊