◎東京で加賀藩学 継続させてファン増やしたい
東京・板橋区で、金沢・富山県西部広域観光推進協議会が開催した「加賀藩学講座」は
、息長く続けてほしい試みだ。かつて加賀藩の下屋敷があった場所という、ささやかな「縁」を頼っての歴史講座は、繁華街などでの派手なキャンペーンほど人目につかないかもしれないが、抽選で選ばれた熱心な受講者ばかりだけに、不特定多数を対象とした観光宣伝より期待が持てる。
受講希望者が定員四十人の五倍近くに達した理由は、加賀藩の歴史に親近感を感じてい
ることの証左だろう。都会には特定の古里を持たぬ人が少なからずいる。講座を継続させていくなかで着実にファンを増やし、金沢や富山県西部をめぐる「加賀藩・参勤交代ツアー」や金沢検定などへの参加を促していきたい。
加賀藩学講座の着眼点の良さは、旧加賀藩領という共通項をセールスの柱に位置づけた
点にある。共通の歴史遺産を前面に打ち出したことで、「参勤交代」という魅力的な広域観光の背骨ができ、売り込みのための戦略も明確になった。
板橋区には、かつて金沢城下から江戸へ向かう参勤交代の最後の宿があった。講座の会
場となった板橋区立東板橋体育館は、加賀藩下屋敷跡に建てられ、一部が「加賀公園」になっている。ほかにも「金沢小学校」や「金沢橋」「加賀橋」など加賀藩にちなんだ名が残り、金沢小学校の校章は、梅鉢の紋をデザインしたものだという。
加賀藩学講座が人気を集めたのは、加賀藩との縁や参勤交代にまつわる逸話が色濃く残
っている地域だからこそだろう。加賀藩史を学ぶことは、自分たちの地域の歴史を学ぶことにもなる。加賀藩について知れば知るほど親しみがわき、一度行ってみたいという気にもなるはずだ。
金沢市は一九九四年度から板橋区と職員交流研修を実施しており、今回も板橋区の支援
を受けた。観光交流協定の締結などを念頭に、もう一段関係を強化する手を早めに打っておきたい。
加賀藩学講座は、前田利家の出生地である名古屋市でも開催する予定という。東京、名
古屋以外で言えば、たとえば高山右近ゆかりの大阪・高槻市なども開催の候補地になるのではないか。
◎混合診療問題 新薬提供のスピード化を
政府の規制改革会議が第二次答申で全面解禁を求める予定の「混合診療」の問題の背景
に、欧米に比べて新薬の承認審査や臨床試験(治験)に時間がかかりすぎるという深刻な課題がある。混合診療を原則禁止する国の政策を違法とした先の東京地裁判決に対して、厚生労働省は控訴しており司法判断はまだ確定していないが、混合診療の是非いかんにかかわらず、保険適用される新薬の提供をスピードアップする必要がある。
保険適用診療と未承認の新薬などを用いる自由診療の併用がたとえ認められたとしても
、新薬の承認が遅れ医療保険のきかない状態が長く続くようでは、患者にとっては喜び半分と言わなければならない。
日本製薬工業協会の研究機関などの調査では、新薬が世界で最初に販売されてから国内
で承認、販売されるまでの平均期間をみると、最短の米国が一年半程度なのに対し、日本は四年近くと大変長くかかっている。このため、日本では世界の売上高上位百位の医薬品のうちの約三割が未承認の状態という。外国で有効性が認められた医薬品の保険適用を待ち望む患者には、まことに歯がゆい状況が続いているのである。
新薬の承認、販売に時間がかかる理由の一つは、承認審査に当たる人員が少ないことで
ある。このため、政府はようやく、審査体制の強化に乗り出し、現在約二百人の審査担当者を〇九年度までの三年間で倍増させる方針を決めた。それでも、人員は米国の二千二百人、フランスの九百四十人などに比べるとまだまだ少ない。審査要員の育成は一朝一夕にはできないが、目標人員を確実に確保し、承認審査期間を欧米並みに短縮する努力をしてもらいたい。
新薬の承認、販売が遅いもう一つの理由としてかねて指摘されるのは、治験が迅速に進
まないことである。治験ができる病院や協力者の少なさ、欧米に比べて治験のコストが高いことなどが、日本の新薬開発のネックになっており、治験体制の一層の強化が求められる。外国で承認された新薬でも、日本国内で改めて治験を行なっているが、現行の方式を見直し、外国の新薬をよりスピーディーに患者に提供する方策についても検討してもらいたい。