岡山県内の中学3年生の2人に1人が持っている携帯電話。「連絡がとれて安心」という親の思いとは裏腹に、持つことで子供がトラブルに巻き込まれるケースが増えている。8年前から中・高校生の携帯電話利用に警鐘を鳴らしてきた下田博次群馬大教授(情報メディア論)が18日、岡山市内で講演した。「携帯電話時代の子育てと大人の役割」と題し、まず保護者が知識を持とう、と訴えた。要旨を紹介する。
国民的メディアとなった携帯電話は、一見、おもちゃのようだが、油断してはいけない。電話機というより、インターネットにつながるコンピューター。研究者として言うと、これは史上最強のメディアだ。
携帯電話の小さな画面から子供がインターネットを使っているのは世界中で日本だけ。米国の子供もインターネットを使うが、それはパソコンの大きな画面から。居間に置いて親はそばで見守るし、フィルタリングソフト(有害サイトの閲覧を制限するソフト)を使う。子供のネット利用の責任者は親、というのが世界の常識だ。
その常識が日本にはない。見守りが非常に難しい携帯電話を、日本の親だけが子供がねだるからと安易に与えている。
親が防波堤
インターネットは成人向けのメディア。崇高な目的で使える一方、人間の欲望を突いてくる。使うためには判断力、自制力、責任能力という3つが必要。大人でも難しいのに子供が使えば危ないのは当たり前だ。
考えてみてほしい。私たちは思春期、親に守られて育った。家の電話に見知らぬ人から電話があれば子供には取りつがない。親が防波堤だった。
ところが携帯電話は、親の頭の上を飛び越して子供と外の世界を結ぶ。情報だけでなく、危険な大人や物も近づける。
子供は携帯電話をほしがる。思春期の好奇心にこたえてくれるメディアであり、遊び場だから。
学校裏サイト(インターネット上で学校の名前をつけた非公式サイト)で子供たちは遊んでいる。「女の子の体がどうなっているか見たい」と書き込めば、自分の裸を携帯電話のカメラで撮って送る子がいる。業者も驚くわいせつ画像を子供自身が発信している。ネット上で写真を交換できるプリクラ遊びも出会いの場になる。メールで親しくなった男に少女が連れ出される事件が相次ぐ。
ある男子高校生は携帯電話でアダルトグッズを買ったと教えてくれた。ネット上の広告のクリックで注文でき、宅配便はコンビニで受け取る。親にはばれない。違法な薬物でも凶器でも何でも届くというわけだ。
電話会社は有害情報をブロックする措置もせず売り出した。警察庁は一昨年、正式な報告書で初めて携帯電話業界の社会的責任を問うた。
地域で対応
子供に携帯電話を与える前に保護者が、特性や危険性を知らねばならない。本当に必要かを子供と話し合う。買う場合も店頭で「有害情報が入らないものをください」と言う必要がある。持たせた後は注意して見守り、指導すべきだ。
これまでのテレビ時代と、インターネット時代の子育ては全く違う。家庭と学校、地域と警察が力を合わせ、健全育成のあり方を考え直さないと子供たちを守れない。
私の地元群馬県の高崎市では子供の携帯電話利用を考えるパンフレットを作り、実態を知らない人に伝える活動が始まった。個々の家庭だけの対応では駄目。親がしっかりしていて、携帯電話もうかつには販売できないという地域をつくらねば、携帯電話業界もよくならない。みなさんの力で、ネット時代の子育ての社会システムをぜひ築いてほしい。
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講演会は岡山県備前県民局とNPO法人岡山市子どもセンターの共催で、保護者ら約150人が参加した。
子供の携帯電話所有率 今年4月の全国学力テストに合わせて行われた学習状況調査によると、中3の携帯電話所有率(公立校)は岡山県55・9%(全国59・1%)、小6は岡山県25・4%(全国27・9%)。高校生は全県規模の調査はないが9割以上とみられている。
しもだ・ひろつぐ 雑誌記者、放送番組制作などを経て現職。警察庁「少年のインターネット利用に関する調査研究会」座長などを歴任。子供のネット利用を考えるホームページ「ねちずん村」を主宰している。65歳。