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  「買うエコ」のLCA的思考 その1 11.25.2007
     
  基本と再度電球型蛍光灯



 2050年に一人当たりの温室効果ガス排出量を半減しなければならないとしたら、
(1)生活程度を1960年代に戻す、
(2)過剰な快適性・利便性と過度な安全性のみを削減して、ほぼ現状程度の生活程度を維持する、
といった2つのケースを考えることが妥当であって、実際の落としどころは、その中間になるのだろうか。

 (2)のケースの実現を求めるのであれば、手法としては、効率改善とある種の割り切り以外にない。
 消費サイドから考えると、「買うエコ」が国民生活に普及することが実現の道だということになる。

C先生:現時点でもまだ有効なのだと思うが、安倍首相が国民に対して、1人1日1kgの二酸化炭素排出削減を求め、それがチームマイナス6%のWebには、チャレンジ宣言のページがあって、
https://m.tszc.jp/try-1kg/tm6_co2-1kg02.html
そこに、一人ひとりができること、が掲載されている。しかし、どうも、「買うエコ」すなわちエコ製品を積極的に「買う」ということに対して、市民からの抵抗感がまだ強いように思う。

A君:このページでも、「買うエコ」を推進しようとしていて、電球型蛍光灯について
http://www.yasuienv.net/FluoroDenkyu.htm
といったページを作っていまが、色々と議論はありますね。

B君:この電球型蛍光灯に関しては、ライフサイクルコスト、LCAの両面で、ほぼ文句のつけようのない製品。これが普及しなければ、「買うエコ」などが普及する訳が無い。低温時の点灯直後の輝度がもう少々改善され、点滅による寿命短縮もさらに少なくなれば、とは思うが。

A君:日経エコロジーの当時編集長だった深尾氏が、「環境と経済の好循環」の委員会で、こんなことを言っていますね。
冷蔵庫は75%近い方が(省エネ商品の)購入を考えているか、すでに利用していた。一方、蛍光灯については、既に利用者が多いものの、非利用者の購入意向はあまり高くない。環境にいいとわかっていても、あまり買う気はしないという人はかなりいる。情報の伝わり方、伝え方で大きな格差が出ている」。

B君:それはなぜか。解析を要する問題。

A君:「電球型蛍光灯&LCA」でWebを検索してみたら、そんな意見を述べているページが2つだけあって、異なった考え方があることが分かったので、ご紹介。

http://cxw03153.cocolog-nifty.com/retire/2007/10/post_866d.html
では、金利計算をしているけど、誤植?が有るように思う。このような計算をする人が、30年後のエネルギー価格をどう思っているか、かなり疑問。バブル崩壊以後のデフレ傾向が今後も続くとでも思うと危険。
 それにしても、他人のブログに、礼節を全く無視した文句を書きつらね、自分の憂さ晴らしのために使っている人が多いことが、このページからも良く分かる。作者には深く同情。他人のページを荒らすことが趣味の人は自分ではブログを持っているのだろうか? 統計データを知りたい。

http://www.mars.dti.ne.jp/~saitota/hitori050816.htm
例として電球型蛍光灯をあげる。電球型蛍光灯が寿命が長く明るく従来タイプの白熱電球よりも省エネ・費用削減になる。しかし購入時の値段は白熱灯の方が安い。夜中に電球が切れて、近くのコンビニに電球を買いに行ってとりあえず従来タイプにしようという選択はまっとうであろう」。
 なぜまっとうなのかは不明だが、「値段で選んで買ったらエコ製品だったというものでなければ長続きはしないですよ」、ということらしい。寿命・使用時のコストが違うものを単に製品価格で選ぶ妥当性はどこに? 

B君:ある種の文房具のように、使用時の負荷を考慮する必要の無いものは、廃棄(3R)が重要な要素になる。使用後の収集を税金で行えば、「値段で選べばエコ製品」になるかもしれない。しかし、エコ製品の多くが、将来とも、購入価格だけで判断できるものにはならないだろう。理由は簡単で、多くの製品は、電気などを使うので、使用時の負荷を考慮せざるを得ないから。

A君:電球や蛍光灯の場合には、使用時の環境負荷が全ライフサイクルの負荷の99%以上だというのが、これまでの一般的見解。

B君:いずれにしても、多くの場合、論拠はLCAということになる。

C先生:となると、LCAとは何か、ということについて、若干、復習をしておいた方が良いのだろうか。

A君:上述のsaitota氏のページを見たら、本HPでも問題になっている某著者の本が推薦になっていまして、ただ、内容は全く推薦に値しないが、読むことによって、何が真実かを議論するネタにはなる、という評価でした。その某著者は、LCAは、「どうにでもなる方法論だし、多くの場合、データの入手できない」、だから信用できない、いう趣旨の発言をしているので、もう一度、LCAというものを説明するのも良いのでは。

B君:確かに、「LCAは、やり方を検討しないで、結果だけを見て、何か議論すると間違う可能性がある」方法論。しかし、「どうにでもなる方法論」でもない。結果だけを見ていると間違うのは、何もLCAだけの問題ではない。

C先生:メーカーが作った「LCAデータが公表されていない製品」を評価しようとすれば、かなり割り切った取り扱いをする必要がある。本格的なLCAなどは当然できない。まあ、LCA的思考をすることまで。それでは「買うエコとLCA的思考」という限定条件をつけて、簡単に説明してみよう。

A君:LCAを語る場合、ISO14040番台で定義されたLCAだけをLCAだという人も多いのですが、ISOはISOでしかなく、ISO流のLCAはLCAの一部でしかない。LCAは、その目的が何かを含め、より一般的な議論が必要。ここでは、積み上げ法と呼ばれる方法の解説が必要。産業連関表を用いる方法は、別途、HPなどで勉強していただきたい。

B君:それはその通りだが、余りにも真面目なコメント。ここでこれから説明しようというLCAは、そんなものではない。LCAそのものの説明とも言いにくい。多くの家電製品のように、製造時のデータが公表されていないものについて、どんなことを考えてLCA的な評価をしたら、間違いが少ないか、という話の説明を行うべきだと考える。

 目次は以下の通り。
(1)LCAとは本来何か
(2)スコーピング
(3)大体の重量で勝負
(4)製造プロセスの考慮
(5)輸送ステージの考慮
(6)計算、結果と解釈

C先生:それで行こう。「『買うエコ』を対象とした市販製品に関するLCA的思考法」だろうか。


以下説明。

『買うエコ』を対象とした市販製品に関するLCA的思考法

(1)LCAとは本来何か
 ある製品やサービスなどについて、地球からの資源採取の段階から、廃棄されて地球に戻るまでの、いわゆる全ライフサイクルにおける全物質・全エネルギーの入出力を明らかにする方法論。

(2)スコーピング
 メーカーが製造した製品に対して、上述の定義を厳密に解釈し、実行しようとすると、それは不可能であることがすぐに分かる。全物質・全エネルギーの入出力などが分かる筈はない。非常に微量な入出力を全量把握することは不可能だからだ。そのために、何をどのぐらいの範囲内で、どのぐらいの精度で取り扱うか、といったことを決める必要がある。これがある意味でもっとも重要な段階。ここのデザインが悪いと、後々まで響く。
 全物質・全エネルギーの入出力を考えることが不可能だとなれば、ある製品のエコ度を考えるとき、何に注目しておけば、大きな間違いではないか、ということを決める必要がある。
 微量な物質については、無視することが多いが、貴金属などを無視する訳にはいかない。大体、コストで1%以下の物質については、無視するのが妥当だろうが、それもなんとも言えない場合もある。すなわち、毒性が非常に高い物質の場合などである。
 このあたりは、したがってかなりの経験を積むことと、研究者間での合意形成の状況を知っておく必要がある。
 環境負荷は、グローバルに見ることが普通で、特定の国における環境負荷だから無視するとか、逆に、重きを置くといったことは、通常行わない。
 リサイクルを含む製品については、研究者間での合意が完全に取れているとは言いがたい。もっとも、某先生の主張する「人件費を含む場合でも全コストと環境負荷が比例する」といった話は、そもそも論外。
 「買うエコ」に関しては、その製品が、輸送機器とか建築物である場合を含め、Energy-Using Products=EuP(EuP指令とは別の定義)かどうか、がまず大きな分岐点。EuPだと、携帯用機器や使用時間が極めて短い機器を除くと、使用時のエネルギーによる環境負荷が、製品製造時のそれを上回るケースが多い。長時間運転される製品では、その可能性がますます高く、その典型例が建築設備や照明機器。蛍光灯だと1万時間ほども寿命がある。自動車を含め、輸送機器は、実は1万時間も使うことはマレ(除く業務用)。
 EuPでない製品だと、資源採取時、製造時、廃棄時の環境負荷を主として考えることになる。
 最近では、日本でもやっとエコロジカルリュックサックといった、資源採取時に動かされる土石までを含めた環境負荷を考慮することが始まった。高価な金属資源の場合には、資源採取時の環境負荷を考えることが必須である。携帯用電子機器のように、実装密度の高い製品では、エコロジカルリュックサック的な視点を加えることが望ましい。
 EuPでは無い場合には、その製品の単位重量あたりの価格がかなり重要な判定要素になるだろう。極端な例だが、機械式腕時計とミネラルウォータでは、どの環境負荷を考えるべきか、相当違う。
 高価な製品は、資源使用に関わるエコロジカルリュックサックを、安価な製品の場合には、輸送や廃棄(含む3R)に関わる部分をも重要視すべきだろう。
 そして、紙のように、再生可能資源を使っているものについては、どれほどの新規な再生可能資源が使われているか、が重要な情報になる。
 結論的には、「買うエコ」を議論する際には、次の図を使って判定をすることが良さそう。



図1 「買うエコ」を考える際の製品分類

主として考える要素
ケース1:通常型
 1.使用時のCO2排出量
 2.汎用素材によるCO2排出量
 3.廃棄(3R)
ケース2:携帯型
 1.希少元素使用量とリュックサック
 2.廃棄(3R)
 3.製造時のCO2排出量
 4.有害性物質
ケース3:価値型
 1.希少元素使用量とリュックサック
 2.有害性物質
ケース4:容器型
 1.汎用素材によるCO2排出量
 2.廃棄(3R)(輸送を含む)
ケース5:木質型
 1.再生可能資源新規使用量
 2.製造時のCO2排出量
 3.廃棄(3R)
 
 ただし、汎用素材とは、プラスチックと鉄・アルミとセメント・ガラス・陶器。

 例として、
*自動車 ケース1の通常型
*自転車 ケース4の容器型
*iPOD ケース2の携帯型
*ルイヴィトンのバッグ ケース3の価値型
*ペットボトル ケース4の容器型
*OA紙 ケース5の木質型

 当然ながら、中間的な製品があって、個人向けインクジェットプリンター、DVDレコーダなどは、ケース1とケース2の中間か。

(3)大体の重量で勝負
 できるのであれば、分解して、どのような素材がどのぐらいの重要使用されているか、ということを実測する。しかし、それができなければ、目分量で、それぞれの素材の体積を推量し、それを重量に変換する。
 同じような製品であれば、総重量は結構良い目安になる。


(4)製造プロセスの考慮
 EuPの場合には、半導体の使用量が製造プロセスに大きく影響する。半導体プロセスは、一般に、かなりのエネルギー食いだからである。しかも、最近では、かなり改善されたものの、HFC、PFCといった温室効果の非常に大きなガスをプロセス内で使っていた。
 一方、EuPの組み立てには、それほど大きなエネルギーは使われていない。
 このあたりを判定するには、産環境のエコリーフのデータを参照されると良いかもしれない。
http://www.jemai.or.jp/ecoleaf/index.cfm
もっとも、家電製品などのデータはほとんどないし、半導体の負荷が正しく評価されているかどうかは疑問。

(5)輸送ステージの考慮
 非常に軽量で、空気を運ぶような製品の場合には、輸送の負荷を考慮しなければならない場合もある。例えば、PETボトルのようなケースである。
 このような場合であっても、ことコストに関しては、人件費が非常に大きな割合を占めことが普通で、輸送用燃料代がコストに大きな割合を占めることは少ない。人件費の問題は、一度にどれほど大量に運ぶことができるか、が重要な問題である。これは、新品のPETボトルの輸送コストがそれほどでもないことからも分かる。
 すなわち、回収時の輸送に特に注意を払うべき場合がある。


(6)計算、結果と解釈
 いくつかのケースについて複数の担当者によって並行的に結果を算出し、比較検討することが無難である。
 積み上げ法に使う原単位が分からない場合には、産業連関表を用いた原単位を用いることもありうるが、補助的に用いるのが無難。
 そして、最後には、ライフサイクルコスティング、すなわち、どちらがコスト的に有利か、という比較をすることも必要である場合が多い。ただし、金利は考えないのが普通。
 さらに、製品寿命を様々な観点から考察しておく必要がある。電球型蛍光灯の場合だと、点灯時間による寿命の他に、点滅回数による寿命があるので、そのどちらの要因で寿命が来るかを判定しておく必要がある。加えて、もしも、20年間使わなければならないといった結論が出たものは、太陽電池のようなケースを除けば、まあ、最長でも20年以内に寿命が来ると考えた方が無難だろう。無鉛ハンダの接合部は、昔のハンダに比べると寿命が短いようだし。

 以上


C先生:電球型蛍光灯について、先日、ビックカメラで再度価格を調査してきた。その結果、若干結果が変わったので、先日のHPのデータを変更した。
http://www.yasuienv.net/FluoroDenkyu.htm

A君:変更点は、3万回点灯が可能になったパルックプレミアの値段が普及品よりも高いことを確認。
 さらに、電球の価格を安く改定。ただし、これが現実を反映しているかどうかは、不明。なぜならば、点灯時間が極端に短い場合だと、2個目の白熱電球を買うのは数年後なので。資源価格が上昇している現状からみて、電球の価格も一定では無いだろうから。

B君:まあ、余り細かくやっても意味の無い議論なので、良いことにしよう。

C先生:まあ、そんなところだろう。次回以降の予告。「買うエコ」の一つ紙製品について、一部メーカーの製品ラインアップからR100が消えたことを中心にLCAというものとそのデータの使い方について、さらなる検討を行いたい。

A君:本来であれば、「買うエコ」の本命である冷蔵庫・エアコンの買い替え問題を取り上げたいところなのですが、実際、これが難しい。なぜならば、リユース・リサイクルをどう評価するか。家電リサイクル法のルートに乗せた場合には、ある程度分かるとは思うけど、それ以外の場合は、使用済みの冷蔵庫・エアコンがどのような経路をたどるか、これが余りにも見えない。

B君:いやいや家電リサイクル法のルートに乗って、日本国内ですべて分解されるとしても、そのデータを完全に把握し、どのようにLCAに組み込むかは、一つの膨大な研究を行う必要があって、これは大変。

C先生:ということで、とりあえずのターゲットは、チームマイナス6%にある記述を対象にしたい。

古いエアコンを省エネタイプに買い替えると104g
古い冷蔵庫を省エネタイプに買い替えると132g


という記述なのだが、これを検証することが果たして可能か、というかなりレベルを下げた話題にして、近々取り上げてみたい。

A君:エコロジカルリュックサックの話も必要。

B君:最近、かなり関心が高まって、新聞にも取り上げられるようになった。

C先生:それも順次、しかし順不同で取り上げることにしよう。