DPCめぐる議論、対立点は?

 「平均在院日数は短縮されているが、治癒率は低下しており、不十分な治療のまま退院させているのではないか」――。日本医師会は11月22日の社会保障審議会医療部会(部会長=鴨下重彦・国立国際医療センター名誉総長)で、改めてDPC病院の拡大に反対する姿勢を示したが、「医療の質向上に関するデータが厚労省から出ていない」とする点で竹嶋康弘委員(日本医師会副会長)と西澤寛俊委員(全日本病院協会会長)の意見は一致した。DPCをめぐる議論が錯綜しているが、対立点はどこにあるのだろうか。(新井裕充)

 この日、日本医師会が医療部会に提出した「医療現場の実態と診療報酬改定に向けての課題」によると、DPC導入により平均在院日数は短縮されているが治癒率が低下し、特に同一疾患での6週間以内の再入院率が上昇していることを問題視している。

 例えば、2003年度DPC対象病院(特定機能病院)は04年から07年にかけて、再入院率が6.22%(16人に1人)から7.57%(13人に1人)に上昇。

 また、同一疾患での6週間以内の再入院率も、3.80%(26人に1人)から4.76%(21人に1人)に上昇している(DPC評価分科会の調査資料に基づく)。

 このため、日医は「不十分な治療のまま退院させるのは疾病を悪化させ、患者に危険をもたらす」と主張。「DPCは支払い方法の1つであり、医療の質向上とは関係がない」としている。

 また、DPCは医療を標準化するものではなく管理医療やフリーアクセスの制限につながると主張し、病院の機能評価係数を操作することによって「医療費抑制ツール」になることも懸念している。



■ DPCと医療の質
 
DPC病院から集まったデータ扱い方を通じて、「DPCと医療の質」についても議論になっている。
 質疑で、西澤委員は「DPCについて誤解がある。日医はDPCが支払い方式であると言うが、データを集めることで医療の質を高めるものだ。しかし、なぜこんなことになったのか、国はDPCについて明確にすべきだ」と指摘した上で、さらに次のように述べた。

 「開始から4年、まだ医療の質に関するデータが出ていない。分科会などでかなりのデータが公表されているが、分かりづらい形でしか出ていない。国だけで調査、分析するのではなく、情報を出していただければ病院団体などでデータを分析できる。ぜひ、そういう方向で進めていただき、その中で、DPCとはどうあるべきかを議論していただきたい」

 これに対して、竹嶋委員も「西澤委員の言うとおりだ。4年間、一気に走ってきた。質の評価はまったくなされていない」として、DPCが質の向上に役立っていないことを指摘した。
 竹嶋委員は「今年、700病院が手挙げして全国の一般病床の半数を占めるまでになっているので、注意を促している。DPCは本来、急性期病院の医療の質を高めるものだった。質の確保がなされて、国民がきちんと分かるようになれば良い」と述べた。

 DPCと医療の質との関係については、厚労省保険局の原徳壽医療課長が11月2日のDPC評価分科会(中医協の調査専門組織)で、「DPCは医療の質が良いか悪いかということにつながっていかない。包括払いだから良いのか、まだ検証されていない」と述べている。

■ DPCと病院経営
 
DPCの在り方については、来月の中央社会保険医療協議会(中医協)の基本問題小委員会でも改めて審議する予定だが、日医の激しい反発が予想される。

 前回の同委員会で鈴木満委員(日本医師会常任理事)は「DPC病院を軽症の急性期にまで拡大すると、病院にとって期待外れに終わりかねない」と病院経営面からの理由を強調し、「DPCから離脱するルールを作るべき。DPCには絶対反対だ」と主張している。
 鈴木委員は「DPCに入ればどのように経営が担保されるのかを明確にすべきだ」と述べており、他の委員からも同様の指摘がされている。

 松浦稔明委員(香川県坂出市長)は「厚労省はDPCに誘導してきたが、DPCをやっても儲からない。儲からないのになぜDPC病院が増えているのか」と質問。DPC評価分科会の西岡清分科会長(横浜市立みなと赤十字病院院長)が「経営コンサルなどが『DPCに入らないと落ちこぼれる』とささやいたからだろう」と発言する場面もあった。

 今後のDPCの在り方について厚労省は、高度な医療を提供する病院や、産科・小児科などの不採算部門に取り組む病院を「機能評価係数」で優遇する方針を示している。これに対し、日医は「機能係数の操作による医療費抑制」「医療の標準化ではなく管理医療」との主張を改めて繰り返すことが予想される。

 DPC評価分科会では、松田晋哉委員(産業医科大医学部公衆衛生学教授)の研究班が機能係数に関する「たたき台」を作成して具体的な検討に入る予定になっているが、厚労省は同様のデータを病院団体などにも公表し、DPCをめぐる議論を透明化すべきではないだろうか。


更新:2007/11/26   キャリアブレイン

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