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あなたも恋愛小説を書こう──ラブという謎 内田春菊
第3回 「やきもち焼くほど、彼はあなたのこと好きなのよ!」
lovestory03.jpg 甘いものとか恋愛とか、それから嫉妬とかは一般的に女性のもののように言われていますが、私はそんなの男社会が作った罠だと思ってます。
 あんなくそ甘い缶コーヒーを「のどが渇いた」とか言ってごくごく飲めるんだから、男は甘いもの好きに決まってるじゃん! 缶コーヒーはかなりの割り合いで男が消費してるんでしょ? だもんであの甘甘飲料をいかにも「男の飲み物」みたいに「苦みばしった」だの「仕事の疲れを癒す」だの、「仕事のために目を覚ます」だのというイメージで固めてるんだわ。言い訳しながら甘みをむさぼってるのよ。なんで言い訳なんてするのかしら。普通に、
 「男にも炭水化物である糖分が必要だ。脳を使っているのだからそれは当然のことです」
 って言えばいいのに。
 恋愛だって、女もいるけど私は「恋したがり男」もすんごく見かけるぞ。故・河合隼雄先生も、
 「これは私の意見ですが、クライアントの転移傾向(カウンセラーを恋愛相手のように思ってしまうこと)にやたら敏感なのは男のカウンセラーだけ。女のカウンセラーはクライアントと恋愛しようなんて端から思っていない」
 というようなことを南伸坊さんとの本でおっしゃってた(例外もいることを少し前に知りましたが)。
 「いつでも恋していたいキャラ」に男女は関係ありません。ついでに、そのキャラの人がうざいのも同じ。あ~失礼、これも私の意見です。こういうのははっきり言っとかないとね。

「いつ恋キャラ」うざ話パート1

 ここである女性から聞いた「いつでも恋していたいキャラ男」のうざ話をひとつ紹介しましょう。Xちゃん(二十代美女)は仕事で知り合ったVさんを、最初は素敵な優しいお兄様(おじさま?)だと思い込んでいた。ところが少し状況が変わると、VさんはXちゃんに、
 「つきあおうよ」
 と言い出したのです。
 もちろん、まだ何もしていない。まず言葉の約束を取りたかったらしい。しかしXちゃんには彼がいます。どう断ろうか頭を悩ませた彼女は、
 「私、つきあってる相手は独占できないと駄目なんです。妻子のいる人が相手なんて考えられません。もし私が突然逢いたくなって、Vさんの家に押しかけて行ったりしたらどうするんですか?」
 妻帯者かよ! と突っ込んだ人、正しい。普通その時点で、何もしてないうちから「つきあおう」って約束から先に取り付けるのは、ちょっと不思議かもしれない。しかし、もっと不思議なのはVさんの返事。
 「もし君がうちに押しかけてきたら、『この人はちょっと思い込みが強いだけで、ほんとはつきあったりしてないから』と妻には言うから。妻は絶対僕の言うことのほうを信じるから大丈夫」
 お~い!! あなたこそ大丈夫!? ちなみにこのVさん、奥さんには「三歩下がって歩け」と言ったりするようなキャラらしいです。すごい人もいるもんだ! もちろん全部聞いた話ですけどね。証明は出来ない。でもまあ、それなりにVさんは偉い人らしいんですわ。なのでまあ、はっきり言ってセクハラです。Xちゃんがんばれ!

そして嫉妬

 そうですよ。なんで女のほうが嫉妬深いって話にみんなしたがるんだ。とんでもないです。これこそ男社会の罠です。どういう風に罠かというと、たとえば女が男に嫉妬しているシーンの話をするでしょ、すると、聞いた人々の反応は、
 「やきもち焼きなんだよ」
 「嫉妬深いわよね」
 がほとんどなのに、その逆の、男が女に嫉妬してる話をすると、
 「それだけその人のことが好きなんですよ」
 「愛してるのね」
 に変わるんだよ!!
 なんでだよ! 同じ嫉妬なのに!? なんで男のときだけ美談にするんだ!? みんな、だまされてるぞ!!
 ここでほら、
 「普通男は嫉妬なんかしないものですからねえ」
 とかいう話が基盤だってのがわかってくるわけですが、とんでもない! 男だから嫉妬しないなんて現実は皆無だからこそ、私は今まで気づかなかったんだもん。
 「この人はあの男に気を使って『愛してるんだよ』とか言ってるのかなあ?」
 なんてキャラ一人一人を逆算して考えてたからさ。でもやっとわかった。みんな、相手が男のとき言うんだ! あ~も~、世の中ってほんとに「自分の生の目で物を見ない人」にあふれてる!!
 「男のほうが」までは言わない。でも、男も女と同じように嫉妬します。しまくります。なんでそれがないことになってるのか私にはわからない。男の嫉妬だけ美談になんかしないでくれ。独占欲も、支配欲もみんな女とおんなじなんだから。
 かと言って、私は嫉妬は醜い感情だとは思ってません。嫉妬によって、醜い行動をするようになる人はいるけど。でもそれはたいがい自分に帰ってきてしまう。自業自得。ついでに嫉妬って結構何もないとこから(何もないまでは言いすぎか。少ししか要因のないところから)自給自足する人が結構いて、そういう人はどんどん行動がヤバくなっていきます。でもそんなヤバい人の話も、女のことは「ストーカー?」とか言うのに、男だと「カワイー」とか言ってのけるツワモノも。なんか、みんな男に甘いよな……私の周りだけなのかしら?

甘くなきゃだめ?

 もう何年も前のこと、ある男の編集者に、「娼婦ものを書いて欲しい」と頼まれた。「え~、あんまし気がすすまな~い」と思った私は、
 「う~ん、あんまし趣味じゃないので、なんか色々資料を用意してくれるんだったら、考えます」
 と答えた。そしたら、『セックスというお仕事』とか、なんかいくつか本を送ってきた。でもなんか、そういうのが資料って私は思えなかったのです。なので、
 「こういう、誰かがもう本にしてるやつじゃなくて、人から聞いた話とか、そういう生って言うか、実感のあるもののほうがいいんだけど」
 と言ったのです。そしたら今度は、
 「自分が女を買ったとき……僕はひどい男です、彼女もいるのにうんぬん」
 みたいな、懺悔っぽい長い手紙をくれたのです。悪いけど、私はその内容にすっかり退いてしまい、もともとの担当だった彼の上司に、
 「なんか仕事としては変だと思うんだけど。この手紙、読んでみてくれません?」
 と頼んだ。
 「じゃあ直接聞いてみます」
 とその人は彼に、
 「どんな手紙出したの? データ残ってたら見せて?」
 と言ったんだけど、見せないんだそうです。そのままその編集者は私の担当をはずれ、別の担当さんを連れてきてもらったのですが、
 「前の人こんなことあって困っちゃって、ねえ」
 と話してたら、上司2人の前で、
 「それはなんか、僕その人の気持ちわかりますねえ」
 と断言してしまい、深い沈黙が訪れ、その後その会社では私の担当さんは女性になりました。
 編集者だって人間ですから、自分が読みたい話を依頼するのです。本が売れそうだからとか、それだけではない。しかし、そこまで行くと、それは甘えでしょう。最初の男性は私を通して、つきあってた女性とかお金で体を買った女性とかに対する理解を深めたかったのかもしれないが、やり方ベタ過ぎ。今それでも、立派に編集長とかになっているらしいですが……。そしてその雑誌もたぶん送ってくれてるのですが。

親睦と接待の違い?

 つい先日も、一仕事終わってその打ち上げに参加したら、
 「さあこれからは僕と親睦を深める時間ですよ~!」
 って顔して隣に座っている人の出している空気にどっと疲れてしまって、思わず帰ったということがありました。なんか、関係者とはいえ、仕事終わってから初めて話しした人なのに、打ち上げ会場への移動中一挙に濃い話題になって……。で、着いてみたら当然のように隣に……。私は初対面の人とそうなることはよくあるほうなのですが、そのときはなんかすんごく疲れたの! もう夜中だったし!
 私も気をつけよう。不審に思う人だっているのだ。次から「そこまであなたに入れ込む気ありません」って思ってるかもしれない人に突然濃い話題を振ったりしないようにしようっと。

嫉妬の内訳

 なぜ男のほうは嫉妬しないものというのが前提になっているのか。それは、たぶん結婚したときに家計を支えるのが主に男で、家の中の仕事だけを担当する女性も結構いるからなのではないでしょうか。
 そうなると男だけ、外でのお付き合いが多くなる。よその国より奥さん連れで社交ってことも少ないし、夫のほうだけが仕事がらみで色んな女性とも会う。それをいちいち嫉妬する女は仕事の妨げになる、悪い妻ってことになる。
 でもその逆は、
 「何。今日も八百屋のご主人にキレイだって言われた!? う~ん、狙われているんじゃないのか君! くやしいなあ」
 あ。ほらすんごく「愛してる」っぽくなっちゃったじゃん。
 「君は魅力的なんだから、お買い物に行くときだって僕のものだってこと忘れちゃだめだよ!」
 きゃ~! いるのかそんな夫……。でも、でもですね! 私の家で家計を支えているのは私なんですよ皆さん!! だから私のほうが、同居人ユーヤよりいつも沢山の人に会っています。それに、別に悲しかないですけど、経済的に同じくらいって人ともう私は20年くらい付き合ったことありません。
 故・久世光彦さんのドラマの現場で、私を含む女3人が声を揃えて、
 「自分よりお金ある人と付き合ったことないね~……あたしも、あっあたしも」
 と話したのは9年くらい前のこと。
 経済的なことを担当するのが女だったり男だったりすると、やきもちを焼くシチュエーションはどう変わるのか。基本的にはさほど変わらないと思うけど、
 「仕事で疲れて帰って来てる時にそんなこと言う!?」
 とか、そういうことには男女関係なく気をつけて欲しいものです。私もすっかり稼ぎ手としてのキャリアも長くなってきたもんで、もう自分が疲れてるときにあんまし、
 「男の人だからしょうがないわね」
 って思いたくない。
 いや、それより次から、外部の人に、
 「そんなに愛されてるんですね」
 ってのは止めてもらおう。それはちょうど、
 「お宅のお子さん、お父さんにそっくりね~!!」
 ってのをほめ言葉と信じて疑わないのと同じであって、社会全体が男のほうの機嫌を損ねないように動いてるってことなんですから。

イタリアで聞いた話

 「イタリアでは結婚したら家庭に入ってくれと女性に頼む男が多い。それは妻が仕事していると、彼女の浮気が心配だからなんです。実際そういうケースは多いので」
 これはミラノに行ったときのオペラ歌手兼ガイドさんの田畑さんから聞いた話。だから、こういう言い方よ。こういう風に言ってくれれば嬉しいのに!
 日本だとこうはなんないでしょ。「自分が」「これが心配だから」「こうして欲しい」ではなくて、子どものためだとか、良い家庭をだとか、回りくどいじゃないですか。夫の母親から、
 「どうしてうちの息子に食べさせてもらわないの?」
 と言われてぶち切れたってケースも聞いたぞ。パートナーのあなた自身がどうして欲しいのか、それ中心に話せばいいのに卑怯だわ! 卑怯まで言うか。言いますとも。アモーレの国じゃなくたって、直球で言ってくんないとさ!

その昔……

 一緒に住んでる男に子作りを断られたため、他の男と作って妊娠してからさあ別れようと思ったら、自分の子と言って育てようと言われ、
 「何言ってんの? そんなの事実と違うし」
 とか揉めてる間に、私と結婚する気はないと言ったはずの「子を作ったほうの男」が何故か生まれる頃精神的に壊れてしまい、結局もとからいた男が育て始めたら、
 「浮気して作った子どもを育ててくれるなんて、いい人! 春菊さんたら幸せものね!」
 とあちこちから言われ、え? これって感謝しなきゃ駄目なの? と仕方なく籍を入れたのだが、その後もうほんとに大変でした。だって別に愛情から育てたんじゃなかったんだもん。私の稼ぎを失うのがヤだっただけ。本当にエラい目に遇いました。
 なので周りの人の意見に「?」と思うときはとことん用心することにしてるんだけど、世の中にもともとある空気って、ほんとうに根強いんですねえ。気をつけても気をつけても気をつけ足りません。
(了)

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