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阿曽山大噴火コラム「裁判Showに行こう」

久保田智子アナ盗撮「ちっちゃい事件」はないだろう!

 ちょっくら宣伝。来週月曜日の12月3日。新宿職安通り沿いのネイキッドロフトにて「復活!裁判傍聴のススメ」があります。18時半入廷で19時半開廷。今まで通り、私は議長で、陪審員が今井亮一、礼田計。そして、ゲストである証人が、「裁判員はいらない!大運動」事務局長の佐藤和利弁護士。もう1人は元服役囚の福井雅樹氏。2人とも話したことはないので楽しみ。毎回思うんだけど、お客さんは話についてきているのかね。舞台上の人間は興味津々でしゃべってるけど。で、今回から前売りチケットが用意されているので是非。これまで、当日券のみだったので、せっかく来ても入れない人がいて、裁判所で苦情言われたりしてたんだよね。はじめから前売り制にしておけばよかったんだけど。っていうか、苦情のお問い合わせはロフトまで。興味ある人はどうぞ。

 先週は報道された事件の裁判が多くて、何を書こうかものすごく(書きながら今も)悩んだんだけど、11月21日に東京簡裁で行われた高田茂被告人(26)の傍聴記を。

 TBS「みのもんたの朝ズバッ!」のスタッフで、制作会社ジャスク社員の高田茂がTBS局内の女子トイレ内で携帯電話のカメラを使って盗撮を試み、建造物侵入容疑で逮捕された事件ですね。新聞報道によると、高田は今年6月から「朝ズバッ!」のスポーツコーナーを担当しており、10月8日16時30分ごろ、アナウンス部があるフロアの女子トイレに入った被害者の久保田智子アナウンサーに、隣の個室に携帯電話を持って入っているところを発見された。同アナが大声で助けを求めたために付近にいた男性アナウンサーら社員に取り押さえられ、警視庁赤坂署に逮捕された。高田は逮捕後に懲戒免職処分となった。

 なんか、今年はTBSの不祥事が異常なくらいに多いような気がするんだけど。本件は会社としての問題じゃなく、個人の問題なんだけどね。とにかく、ケータイのカメラの性能向上、デジタルカメラの低価格化が原因なのか、ここ数年増えている盗撮の裁判です。

 冒頭陳述によると被告人は10月8日の16時45分、会議の前に11階のトイレに行く。すると、女子トイレに人が入っていく物音がしたので、ケータイの動画撮影を開始してから女子トイレに侵入。その場で社員に取り押さえられたとのこと。被告人は取り調べに対し、「過去にも5回、TBSで盗撮したことがある」と供述しているらしい。

 この事件を報じた週刊文春には、TBS以外のテレビ局でも20回盗撮して、ケータイには牛や犬の性器も保存されていたって記載されていたけど、裁判では明かされず。どこからの情報なのやら。

久保田智子アナ
盗撮の被害に遭いながら犯人逮捕に貢献したTBS久保田智子アナ

 で、検察官によると、被告人は前科はないものの、のぞき行為で前歴3回とのこと。被告人にその手の性癖があるのは否めないですね。法廷には被告人の父親が出廷です。

 弁護人 「息子さんがたびたび捕まっとりますね。引受人になったことは?」
 証人 「(今年の)8月くらいです」
 弁護人 「本件の2カ月前ですか! その時、何か言いました?」
 証人 「世の中の大切なことを諭しました」

 最終の前歴が2カ月前、と。懲りないなぁ。

 弁護人 「そもそもカメラ付のケータイを持っとるというのはどうなんじゃろか?」
 証人 「ない方がいいんでしょうけど、カメラがついていないケータイの方が少ないですから、そこまで見届けられないというのが実際のところです」
 弁護人 「ええ! 写真つきが当たり前?」
 証人 「そうだと思いますが」

 この弁護人の驚きは、芝居なのか本気の驚きなのかはわからないけど、カメラつきのケータイを持つのは普通のことだと主張したいようです。次は検察官からの質問。

 検察官 「犯歴を見ると、息子さんは平成17年にのぞき行為で初逮捕されているんですが、その前は?」
 証人 「小さいころから高校まで野球をやってまして、全くそのようなことはありませんでした」
 検察官 「(初逮捕の)2年前に生活の乱れや予兆なんかはありました?」
 証人 「鉄道会社で6年勤めたあと、放送業界に入ったんですが、乱れてきたかな、と」

 テレビ番組の制作は大変だし、時間が不規則なスタッフもいるだろうけど、そのせいにされてもねぇ。最後に裁判官が「カウンセリングを受けさせることも考えておいてください」とアドバイスして父親への尋問は終了。続いて、被告人への質問です。

 弁護人 「調書に“性癖である”と書いとるけど、あなたの言葉か?」
 被告人 「あれは検察の言葉ですが、承諾しました」
 弁護人 「他にも“衝動を抑えきれない”なんてねぇ、そういうこと言うたか?」
 被告人 「そうですね」
 弁護人 「どうしようもないねぇ」
 被告人 「そう、ですかね、そうです、はい」

 呆れている弁護人の質問に対し、自分に言い聞かせるように答えていました。

 弁護人 「ケータイは手放せないの?」
 被告人 「・・・はい」
 弁護人 「でもあなた背が高いから、(個室内を)撮れるじゃろ。手をひょいと伸ばせば。私は無理だよ、私は」

 “私は無理”を強調する必要性がどこにあるのか分からないけど、被告人がケータイを持つことに弁護人は不安を抱いているようです。

 被告人 「カメラなしのやつが、1つか2つあると思うんで…」
 弁護人 「そうだろ! 何かあると思うんだな」

 ちょっとだけほっとした様子の弁護人。でも、根本的な解決策になってないような。のぞきで逮捕されてる過去もあるわけだし。

 弁護人 「あなたの場合、過去が過去だけにね、ニュースでやっとったじゃろ?」

 本件が報道されて、社会的な制裁を受けたというようなことを情状として主張するのかなと思ったら、続いて出てきた言葉が、

 弁護人 「有名な人がエスカレーターで写真撮ってねぇ。またやったか! っていうね、エヘヘ。それを恐れとる!」

 多分、あの人のことだと思うんだけど、事件を歪曲している気が…。盗撮はしていないでしょ、あの人は。鏡ですよ鏡。しかも、なぜこの場の例え話として出すのか。
 とにかく、今後2度と同じことはしない等々述べて弁護人からの質問は終了。次は検察官から。

 検察官 「(傍聴席に)お父さんがいるけど言わせてもらいますよ。性癖は治らないよ!」
 被告人 「治します」
 検察官 「治らないんだよ! 見たいという欲求はなくならないよ」
 被告人 「今まで反省する時間が少なすぎたんで。1からやり直そう、と」
 検察官 「あぁ、今はそう思うかも知れないねぇ。でも、ここ10年やらないって話じゃないんだよ。一生、女子トイレが見たいって衝動が起きるんだよ。普通の人はそんな衝動起きませんよ。あなた4回目(の逮捕)でしょ。一生やらないなんて、何で言えるんだよ」
 被告人 「自分の理性を信じるというか」
 検察官 「理性がきかないから繰り返したんだろ! さっき裁判官が言ってたけど、カウンセリングもあるんだから、受けなさい。そうしないと、また、やるぞ!」
 被告人 「はい」

 興奮してまくし立てるような検察官の質問はこれにて終了。最後は裁判官から、

 裁判官 「本件以外にも盗撮していたようだけど、画像は?」
 被告人 「消去しました」

 すると裁判官はマイクで拾った音が割れるような声で、

 裁判官 「インターネットに載せるバカな輩がいるからね! してないね!」
 被告人 「はい」

 この手の事件がどれだけ裁判になっているかが、うかがい知れる質問です。そして、落ち着きを取り戻して、

 裁判官 「電車の運転士をしていたのに、なぜテレビ業界に入ったのですか?」
 被告人 「テレビは生活の中で身近なものだったので、自分で作ってみたいなと」
 裁判官 「その動機に偽りはないね。そういう場所だからきれいな女性が多いということで働こうと思ったわけじゃないね」
 被告人 「いえ、違います」

 ちょっと考えすぎのような気もするけど、なかなか鋭い質問です。そして、突然、裁判官は優しい声になって質問を始めます。

 裁判官 「人を愛したことありますか?」
 被告人 「はい」
 裁判官 「あなたの愛した好きな人が被害に遭ったら、どんな気持ちですか?」
 被告人 「許せない気持ち」
 裁判官 「そして犯人をどうしたい?」
 被告人 「捕まえたいです」
 裁判官 「それだけ?」
 被告人 「捕まえて、殺してやりたい」

 殺してやりたいは言いすぎじゃない? こういう極限で大げさな言い方されると、逆に反省しているのか疑わしく思えるんだけどね。最後に、

 裁判官 「今のあなたがその立ち場なんですよ。人を愛したことがあるなら、女性の立場になって考えられるはずですよね。衝動が起きたら思い出してください」

 個人的な傍聴経験から言うと、薬物、窃盗、そして、わいせつ系の再犯が非常に多い。薬物は身体、精神的な存在がなくなればやらなくなるし、盗みは生活基盤が整えばやらなくなることが多い。でも、性癖と密接した犯罪は繰り返すことが多いんですよ。検察も言っていたけど、性癖は治すとかの話じゃないから、今後どう向き合うか。一生どう付き合ってくかってことでしょ。要するに、今回のことをどれだけ重大なことと受け止めているかが再犯防止につながるわけ。それが…。

 この後、検察官が懲役1年を求刑。そして、被告人の最終陳述です。

 被告人 「捕まってから事件のことをゆっくり考える時間が持てました。事件としては、ちっちゃいかも知れないですけど、自分の中では大きいものとして受け止…」

 と、述べている途中で、裁判官が眉をしかめて、

 裁判官 「“ちっちゃい事件”と聞いていていいんですね」

 最終陳述を中断させるこは珍しいこと。裁判官はそれくらい気になったんでしょう。

 被告人 「は、はい?」
 裁判官 「本件はちっちゃい事件なんですか?」
 被告人 「いや、普通の、事件…」
 裁判官 「ん?」
 被告人 「あの大変なことをしてしまったと自分の中で受け止めています。今後、2度とこのようなことがないようにしていきたいと思います」

 終始、反省の言葉を並べてたけど、不安だなぁ。確かに隣の法廷では殺人や強盗、女性絡みの事件では強姦や強制わいせつの裁判が行われていることを考えると、本件はちっちゃい事件かもしれない。でも、被告人が言うべきじゃないでしょ。

 ほかの事件と比べても仕方ないけど、盗撮って卑劣さ、あさましさって点では一番悪質なんだよね。被害者がブログにも書いてたけど、建造物侵入でしか起訴できないってのがなんとも釣り合わない時間なんだよね。その怒りもあって、裁判官、検察官も厳しかったんじゃないかと推測するんだけど。早く新しいルール作ればいいのに。


 今週の注目の裁判

11月28日(水)被告人:小林洋子 起訴事実:詐欺
<手話を使っての詐欺事件> 07年2月、福祉機器販売会社のコニーワイズ(東京都港区)小林洋子社長(当時55)経理担当の町田栄子(56)長男の町田訓清(当時28)が警視庁と山梨県警の合同捜査本部に詐欺容疑で逮捕された。3人は05年に聴覚障害を持つ男性(53)に、手話を使って「私にお金を預ければいい。必ず返すから安心してほしい」と現金2300万円を預けさせ、だまし取った。被害者は約270人、被害総額は27億円にも上る。

11月28日(水)被告人:吉田民夫 起訴事実:住居侵入など(判決)
<舞台俳優による女性宅侵入事件> 07年5月、劇団「民芸」に所属する舞台俳優吉田民夫(当時32)は、東京都世田谷区の女性宅2軒に侵入したとして、警視庁北沢署に住居侵入の疑いで逮捕された。

11月28日(水)被告人:高田宏正 起訴事実:強要未遂(初公判)
<小学校に脅迫文を送り付けた事件> 07年9月、会社員高田宏正(当時32)は、同年8月に練馬区の区立小学校に、児童へ危害を加えるとの脅迫文を送り付けたため強要未遂で逮捕された。児童に危害を加えるのをやめてほしければ、全校集会で元衆議院議員を中傷する内容の演説をするよう求めていた。

11月28日(水)被告人:大給隆士 頃安亮輔 起訴事実:常習賭博(判決)
<不正改造のパチスロ機で賭博をさせた事件> 07年9月、東京都新宿区のゲーム機賭博店「ビクトリー」店長の大給隆士(当時24)、従業員の頃安亮輔らは、不正改造したパチスロ機で賭博をさせたとして逮捕した。3カ月間で約900万円を売り上げていた。

11月29日(木、金)被告人:佐藤栄佐久 佐藤祐二 起訴事実:収賄
<福島談合事件> 福島県知事の佐藤栄佐久は、福島県発注の大型ダム工事をめぐり、実弟の佐藤祐二経営の縫製会社の土地を時価より高値で買い取らせる形でゼネコンからわいろを受け取った。(第74回=「それでも、やっぱり知事が好き」参照)

11月29日(木)被告人:友部博文 新井拓 起訴事実:暴行
<中核派活動家による大学職員暴行事件> 07年4月、中核派全学連活動家で法大2年の新井拓(当時32)と同派支持者の元法大生の友部博文(当時24)は、退学処分への抗議デモで大学職員を引き倒し暴行の現行犯で逮捕された。

11月30日(金)被告人:若宮清 起訴事実:住居侵入(初公判)
<有名ジャーナリストの住居侵入事件> 07年9月、ジャーナリストの若宮清(当時61)は同年7月に世田谷区内の女性(30)のマンションに侵入、玄関や郵便受けに汚物をまいたために逮捕された。若宮はマニラ空港で射殺されたフィリピンのベニグノ・アキノ氏らと親交を結ぶなど、多彩な人脈を持つジャーナリストとして知られていた。

阿曽山大噴火(あそざん・だいふんか)

阿曽山大噴火・写真

 本名:阿曽道昭。1974年9月12日生まれ、山形県出身。大川豊興業所属。趣味は、裁判傍聴、新興宗教一般。チャームポイントはひげ、スカート。99年にオウム裁判をきっかけに裁判ウオッチに興味を持ち、その後は裁判ウオッチャーとして数多くの裁判を傍聴。 自称「インディーズ司法記者」。主な著書に「裁判大噴火」「被告人前へ。」(河出書房)。



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