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医療クライシス:検証・緊急医師確保対策/1 半年だけの「つなぎ医師」

 ◇派遣制度、不足解消には遠く

 三陸の海が眼下に広がる岩手県立宮古病院(宮古市、約390床)。病棟にいた循環器科医の塚原玲子さんを、消化器内科医が訪ねて来た。腹痛で来院した患者について専門医の意見を仰ぎたいという。塚原さんは手渡された心電図から心筋梗塞(こうそく)の特徴を読み取り、体制が整った盛岡市の病院への転送を指示した。

 塚原さんの本来の勤務先は済生会横浜市東部病院。20年以上のキャリアを持つベテラン医師だ。国の「緊急臨時的医師派遣システム」に従い、今年8月から宮古病院に派遣されている。横浜市東部病院の同僚医師7人と交代で、宮古病院の循環器科医の不在をカバーし、救急や入院患者の診療にあたっている。

 循環器科の常勤医が不在になったのは、今年7月だった。昨年4月には4人いたが、異動などで全員退職し、循環器科の外来は休診に追い込まれた。派遣は間もなく終わるが、常勤医確保の見通しは立っていない。

 心筋梗塞患者が常に典型的な胸痛を訴えるとは限らず、専門医の診察が必要だ。「循環器科医が最低1人は必要なんだけど……」。塚原さんは表情を曇らせた。

   ■   ■

 国は今年5月末、緊急医師確保対策として、研修医の都市集中是正など6項目を打ち出した。その一つの医師派遣は、都道府県からの要請に基づき、基準を満たす病院に原則6カ月以内の期限付きで派遣する。厚生労働省は「あくまでつなぎで、6カ月以内に医師を確保してほしいということ」と説明する。派遣元は済生会や日本赤十字など全国規模の団体に依頼する。第1弾として7~9月、北海道、岩手、栃木、和歌山、大分の6病院への派遣を始めた。

 宮古病院の菅野千治院長は派遣に感謝の意を示す一方で、国には「期間が短い。せめて1年間は来てほしい」と注文する。派遣を受け、循環器科外来の再開も検討したが、短期間で再び休診すれば患者の混乱を招くとして見送らざるを得なかった。この間に常勤医を確保することも困難だ。

 岩手県の担当者は派遣の事前説明で、厚労省の担当者から「常勤医不在に陥ったケースは災害と同じだ」と言われたという。突発事態なので国も助けるが、本来は県が体制を整えて--との趣旨だった。しかし、県の担当者は「時間がたてば解消するものではなく、県ではどうにもならないから国にシステムを作ってほしいのだが……」と話す。

 派遣要請には、医師確保計画の提出も必要だ。岩手県は、全国募集で医師確保に努めることや、医師会との連携強化などを挙げたが、担当者は「従来の延長線上の施策。具体策があれば実行している」とこぼした。

   ■   ■

 派遣元も楽ではない。国立病院機構は独自に昨年9月、全国にある機構の病院間で同様の派遣制度を始めたが、半年で中止した。派遣元の負担の大きさも一因だった。

 済生会横浜市東部病院の高山喜良・事務部長は「病院の主力の塚原さんが行くと言ってくれたので、若手も張り切ってくれた。目立った支障はなく、チームでカバーできた」と胸を張るが、「長い間、一つの病院が協力を続けるのは無理がある。派遣による一時しのぎには根本的に無理があるのでは」と漏らす。

   ×   ×

 国の緊急医師確保対策は、一部が既に始まり、来年度から本格化する。この対策で医師不足は解消するのか、現場を歩いた。=つづく

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 ご意見、ご感想をお寄せください。ファクス(03・3212・0635)、Eメール t.shakaibu@mbx.mainichi.co.jp

 〒100-8051 毎日新聞社会部「医療クライシス」係。

毎日新聞 2007年11月26日 東京朝刊

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