日本の医療問題などを多彩に検証

 21世紀の医療と医療システムを求めて−をメーンテーマとした医療の質・安全学会の「第2回学術集会&国際シンポジウム」が11月23〜25日の3日間、東京都千代田区の東京国際フォーラムで開かれた。医療の質・安全の向上を目指す学際的な研究発表をはじめ、日本の医療問題を考えるシンポジウムなども行われ、患者本位の質と安全を実現する医療と医療システムの在るべき姿について多角的な角度から検討した。

 医療の質・安全学会は、国内外の研究成果の交流・普及の促進を通じ、医療の質・安全に関する学術基盤の確立と発展に貢献するとともに、患者本位の質と安全を提供する新しい医療システムの在り方を実現する目的で2005年11月に設立された。学術集会・国際シンポジウムは昨年に続いての開催となった。

 23日に開催されたシンポジウム「岐路に立つ医療−『崩壊』から再建へ」では、虎の門病院泌尿器科の小松秀樹氏、全国自治体病院協議会の小山田惠氏、慶應義塾大学経済学部の金子勝氏が発表者となり、「医療は崩壊するか?」などについて討論した。
 「地域医療が崩壊している」というテーマで発表した小山田氏は「地域医療の崩壊とは、地域住民がどこでも等しく安全・安心な医療を受けられなくなった状況で、いま全国各地で地域医療が消えている」と指摘。最大の要因は「医師の絶対数の不足」とし、こうした中で「病院勤務医が過労死寸前の過重労働に置かれている」などと警告した。
 対策として、小山田氏は「医師の過重労働からの解放。医師に人並みの生活、患者の権利と同様に医師の生きる権利を守ることが喫緊の課題」と訴え、「24時間連続勤務後の休暇、当直回数の限度、医療以外の医師業務軽減など最低限度の労働条件を設定することが不可欠。このような施策を実施するには財政的支援の確保が前提になる」と強調した。

 また、「崩壊への要因」を取り上げた小松氏は「医療を崩壊に向かわせる要因として、第一に1980年代半ば以後の世界に類を見ない医療費抑制政策がある」などと発言した。
 さらに、金子氏は、小泉政権期以降に焦点を当てた「健康保険制度改革と医療」について解説。「国民皆保険制度が崩れつつあり、診療報酬の引き下げと診療報酬によるインセンティブ政策が、医療現場に過重なストレスをもたらすだけでなく、大量の医療難民≠もたらしている。また、医師不足問題と重なって地域の中核病院の経営難をもたらし、一部診療群がなくなったり、救急医療体制を維持できなくなるなど、基本的な医療ニーズを満たせない地域が増えている」と、日本の医療が置かれている深刻な事態を指摘した。

 このほか、「医療従事者の勤務環境に関する調査報告」と題した特別報告では、東京女子医科大学看護学部の金井Pak雅子教授が看護師の労働環境について発表。金井氏は「日本の看護師の置かれている労働環境は、諸外国に比べて特に人員配置で、かなり厳しい状況である。夜間に1人の看護師が20人から25人の患者を受け持つことは、米国やカナダでは論外。昼夜を問わず医療処置が行われ、ケア密度の高い重症患者を多く抱えた急性期病院で働く看護師の多くは、経験年数が3年未満。国民が安心して質の高い医療を受けるには、看護師の労働環境を改善することが必須の課題」と主張した。

 3日間を通じて開催された学術集会&国際シンポジウムでは100を超える多彩なプログラムが繰り広げられ、各会場は参加者の熱気であふれた。


更新:2007/11/26   キャリアブレイン

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