ビアテスター・マスターエバリュエイターの講習会(2002/2/9〜10)受講記録(3)

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酵プロセスの理解とフレーバーコントロール

  • 発酵とは糖分を酵母に吸収させて、アルコール、炭酸ガス、その他のフレーバーを作り出すプロセスのこと。
  • どんなフレーバーのビールを造りたいかを決定して、造りたいフレーバーをビールに付けるにはどうするか?
  • また、目標とするアルコール濃度にするにはどうするか?
  • 酵母の代謝メカニズムを理解して、自在にコントロールする知識が必要になる。
  • 酵母の代謝活動について
    • 酵母は増殖するために代謝活動をしている。
    • 酵母は麦汁に含まれる糖分を吸収して、炭酸ガスとアルコールを生成する。
    • 発酵可能な糖分は5つある。
      • マルトース(麦芽糖)------------------46〜50%
      • マルトトリオース(麦芽三炭糖)----------12〜18%
      • グルコース(ブドウ糖)-----------------8〜10%
      • スクロース(しょ糖)-------------------4〜8%
      • フルクトース(果糖)-------------------1〜2%
      • ビールのフレーバーではマルトースとマルトトリオースが大切になる。
    • 麦汁中の糖を酵母は吸収する。
      • 吸収できる条件とは、元気な酵母でないといけない。
      • 元気な酵母とは、グリコーゲンを持っている酵母。
      • 酵母の細胞壁を通して、上記の5つの糖を吸収している。
      • 元気な酵母の細胞壁は、上記の5つの糖の透過性がよい状態。
      • ドライ酵母の細胞壁は、すぐには糖を吸収できる状態ではない。
      • 酵母の細胞壁が透過性の良い状態にするには、細胞壁はステロール合成をしないといけない。
      • すなわち、糖を吸収で来やすい状態の細胞壁に造り変えていく。
      • そのためには、酵母自身のグリコーゲンと酸素が必要。
      • 酵母自身にグリコーゲンがないと、透過性のある細胞壁に造り変えることが出来ない。
      • グリコーゲンは人間が与えることが出来ない。
      • グリコーゲンの無い酵母はなかなか発酵が出来ない。
      • 酵母の体重の40%以上のグリコーゲンを持っていることが必要。
      • 古い酵母は、グリコーゲンの量が少ない。
      • 酵母がグリコーゲンを持ち、麦汁中に十分な酸素があるときに、酵母の細胞壁の透過性が亢進する。
      • 大切なことは、
      • 麦汁に十分な酸素を溶け込ませる。
      • 新鮮な酵母を使う。
    • 酵母が細胞壁を透過するときに、酵母の細胞壁中の酵素が介在する。
      • マルトースはマルトースペルミアーゼ酵素により酵母細胞内に取り込まれ、マルターゼ酵素により酵母細胞内でブドウ糖になる。
      • マルトトリオースはマルトトリオースペルミアーゼ酵素により酵母細胞内に取り込まれ、マルターゼ酵素により酵母細胞内でブドウ糖になる。
      • スクロースはインベルターゼ酵素によりグルコースとフルクトース(果糖)に分解され、それぞれのペルミアーゼ酵素により酵母細胞内に取り込まれる。
    • 麦汁中の組成成分で酵母の細胞壁は敏感に反応する。
      • たとえば、麦汁中のグルコースの割合が多くなると、マルトースやマルトトリオースの吸収が悪くなる。
        • ビールらしいフレーバーはマルトースとマルトトリオースが関係しており、グルコースが多い麦汁はフレーバーに問題が出る可能性がある。
      • 高比重の麦汁では浸透圧が高くなり、ペルミアーゼ酵素がストレスを受けて糖が吸収できにくくなる。
        • 高比重の麦汁の場合は、pitching時の酵母の量を多くする。
    • EPM経路について。
      • グルコースはこの経路を経て、ピルビン酸にまで代謝される。
      • EPM経路において、
        • ATPヒADPというリン酸の受け渡し(エネルギーの消費、蓄積)
        • NADヒNADH2という酸化還元作用、が重要な役割をする。
        • マグネシュウム、亜鉛が必要とする。
        • 副原料はマグネシュウム、亜鉛が不足傾向あり。
      • ピルビン酸は、麦汁に酸素があるときは炭酸ガスと水にまで分解される。
        • 多量の酸素を消費し多量のATP(エネルギー)が産生され、酵母の増殖に使われる。
      • 麦汁中に酸素が無くなると、ピルビン酸は二酸化炭素とエタノールに分解される。
        • ピルビン酸はまず、C(炭素)とO2(酸素)がはずれて、アセトアルデヒドになる。
        • アセトアルデヒドに水素が結合(還元)してエタノールになり、酵母の外に放出される。
      • 麦汁には酸素が適量含まれていないといけない。
        • 過剰にあると、エタノールの合成が阻害される。
        • 少ないと、酵母の増殖が十分できない。
      • グルコースからエタノール(C2H5OH)が出来る。
  • アミノ酸からフーゼルアルコールが出来る。
    • フーゼルアルコールとはCが3以上のアルコールのこと。
    • イソアミルアルコール(C5)はロイシンというアミノ酸より出来る。バナナ臭。
    • アミノ酸の種類により様々なフーゼルアルコールが出来る。
    • フーゼルアルコールは種類により様々なフレーバーがある。
    • Cが少ないフーゼルアルコール(C3、C4)は刺激的でアルコール臭い香りとなり好ましくない。
    • Cが多いフーゼルアルコールは好ましい香りとなる。
      • C5のフーゼルアルコールはバナナ臭。
      • C6のフーゼルアルコールはリンゴ臭
      • フェノールアルコールはバラ臭。
      • 麦汁にロイシンが多いとC5のイソアミルアルコールが出来、バナナ臭がする。
    • 発酵温度が高いと発酵が活発になり、フーゼルアルコールの生成量が多くなる。
    • 発酵温度が低いと発酵がゆっくりとおこり、フーゼルアルコールの生成量が少ない。
    • エールではフーゼルアルコールの生成量が多い。
    • ラガーではフーゼルアルコールの生成量が少ない。
    • エールでも、発酵温度が18℃、20℃、24℃でフーゼルアルコールの生成量が違う。
      • 発酵温度が高いとフーゼルアルコールが多くできる。
      • フーゼルアルコールの特徴を付けたいときは、発酵温度を高くする。
    • アミノ酸量が多いとフーゼルアルコールが多くできる。
    • フーゼルアルコールの生成量は、
      • アミノ酸の量
      • 発酵温度
      • 麦汁中の酸素量、に左右される。
      • 発酵が活発になれば、フーゼルアルコールはたくさん出来る。
    • 酵母が気持ちよく活動できる環境でフーゼルアルコールが多くできる。
      • 発酵タンクの内圧が高くなれば、フーゼルアルコールが少なくなる。
        • 内圧で酵母にストレスがかかり、ピルピン酸が出来なくなり、硫黄臭が出来る。
        • CO2がたまり、酵母活動が阻害→フーゼルアルコールの生成が少なくなる。
    • 麦芽のアミノ酸の組成比率を調べることは困難である。
  • 有機酸(脂肪酸)の生成
    • 酵母の増殖が中止になると、酵母内で有機酸(脂肪酸)やエステルが造られる。
    • 麦汁中に酸素(02)が無くなると、有機酸が産生される。
    • 酸素量が多いとTCAサイクルが回り続け、有機酸の産生量が少なくなる。
    • ビールに中に含まれる主な有機酸(脂肪酸)
      • カプロン酸……ヤギ臭
      • カプリル酸……ヤギ臭
      • カプリン酸……石鹸臭、ワックス臭
      • 酢酸……酢の臭い
      • オレイン酸……石鹸臭
      • リノール酸……石鹸臭
    • オレイン酸、リノール酸
      • 長鎖脂肪酸
      • 麦芽から必ず麦汁に存在する。
      • その働きは、
        • 酵母に生存に必要
        • エチルアセテートの生成阻止
        • びーるの泡立ちを抑える
        • ビールの酸化を早める。
    • 有機酸は酵母の代謝活動で生成。
    • 発酵温度が高いと有機酸の産生が高まる。
    • 酵母が栄養不足になると、酵母が自己融解して、様々な有機酸がビール中に遊離する(酵母臭)。
    • 酵母臭について。
      • 発酵中、アミノ酸が無くなると、酵母は発酵タンクの下に沈み始め、老化する。
      • そのような酵母は、細胞膜に8〜10個の傷を持っている。
      • 細胞膜に傷の付いた酵母は使い物にならない。
        • 無傷の酵母は50%
        • 1個の傷の付いた酵母は25%
        • 2個の傷の付いた酵母は12.5%
        • 3個の傷の付いた酵母は6.25%
        • -----
      • 細胞膜に傷のある酵母が発酵タンクの底に沈むと、酵母の細胞膜が破れる。
      • 中身がすべて、ビール中にしみ出す。
      • すなわち、酵母内にあった有機酸(脂肪酸)がビール中に排泄される。
      • 発酵タンクの中にビールを長く置いておくと、酵母臭がするようになる。早く取り出した方がよい。
      • 有機酸のフレーバーは非揮発性のフレーバーで無くならない。
      • 酵母臭はカプリル酸、カプリン酸の臭い。
      • 酵母を抜かないでビールを置いておくときは、0℃まで温度を下げないといけない。
  • エステルの生成
    • ビール中のエステルは90種類ほどある。
    • 主なエステルは3種類
      • エチルアセテート(酢酸エチル)……シンナー臭
      • イソアミルアセテート(酢酸イソアミル)………バナナ臭
      • エチルヘキサノート(ヘキサン酸エチル)……リンゴ臭
    • エステルは脂肪酸とアルコールの結合物
      • すなわち、脂肪酸が出来ないとエステルは出来ない。
      • 酵母の増殖に酸素(O2)が必要。
      • 多量の酸素が麦汁中にあるときは、TCAサイクルに行く。
      • 脂肪酸が出来ないのでエステルも出来ない。
      • エステルを造るためには、過剰の酸素(O2)があるとできない。
      • 酸素(O2)はエステルを造る観点からも多すぎてはダメである。
    • イギリス系のエールビールではエステル臭を適量にするためには、
      • 発酵温度を少し上げる。
      • 酸素量もほどほどにする。
    • エステルの産生量は、発酵温度と酸素量に依存する。
      • 発酵温度が高いとエステルは多くできる。
      • 酸素量が少ないとエステルは多くできる。
  • フェノールの生成
    • ヴァイツエン酵母は、4-ビニルグアヤコールという薬臭を作り出す。
    • 野生酵母は、強烈な薬臭を作り出す。
    • ビールに含まれるフェノール
      • 薬臭
      • スモーク臭
      • タンニン(ポリフェノール)
      • 病院臭
  • イオウ系フレーバーの生成
    • 硫黄臭とは、
      • 硫化水素(H2S)
      • 二酸化イオウ(SO2)
      • 硫化ジメチル(DMS)
    • 硫化水素、二酸化イオウは発酵中に、酵母の代謝活動で産生
      • 酵母の種類で、量は異なる。
      • エアレーションが少ないとき、多く発生する。
      • 酵母量が少ないときに、多く発生する。
      • 不健康な酵母で、多く発生する。
      • 発酵温度が高いときも、多く発生する。
      • 揮発性で、発酵中に排泄される。
      • 熟成期にも減少する。
  • まとめ
    • 発酵温度が高いときに多く産生されるフレーバー成分
      • フーゼルアルコール
      • エステル
      • ダイアセチル
      • 二酸化イオウ
    • 麦汁の酸素レベルが高いときに
      • 多く産生されるフレーバー成分
        • フーゼルアルコール
      • 抑えられるフレーバー成分
        • エステル
        • 二酸化イオウ
        • アセトアルデヒド
        • ダイアセチル
    • 酵母投入量を増やしたときに、
      • 多く産生されるフレーバー成分
        • エチルアセテート
      • 抑えられる成分
        • イソアミルアセテート
        • フーゼルアルコール
  • 発酵・熟成行程でのpHと比重の変化
    • 発酵と共に発酵液の比重とpHは下がる。
    • 発酵液のpHについて。
      • もし、発酵液のpHが下がらないときは、発酵が正常に行われていない。
      • 発酵の終わりには、比重とphを測定することが大切。
      • 簡易的なph計でpHを測定すればよい。
      • 比重計は便利である。
      • 酵母は糖分の希薄化と共にpHの希薄化(pHが下がる)を行う。
        • 健康な酵母を使うと、pHは12時間までに 4.9 まで下がる。
        • 48 時間までには4.6 前後にまで下がる。
        • 発酵終了時点では 4.2から4.4 まで下がる。
      • 発酵終了時点で 発酵液のpHが高いときは、
        • 酵母が正常に働いていない。
          • 酵母の健康状態を疑う。
        • 元々の麦汁のpHが高い。
          • このときは、マッシング時に渋みが出る。
        • どちらにしても、良いビールではない。
      • ph3.8 が酸っぱいか、酸っぱくならないかの分かれ目になる。
        • 発泡酒のpHは 3.8。pHを下げることにより、酸味をつけることで美味しさを造る。
      • ph4.5 以上になると、味がぼやけて美味しくない。さわやかさがない。
      • 出来たビールのpHは4.4 以下にすることが大切。
      • ボック、バーレワインなどの熟成期間の長いビールは、酵母の自己融解のためにpHが上昇する。(4.6〜4.8)
    • pHが発酵中に下がるメカニズム
      • 発酵中、発酵液のpHは、酵母がアミノ酸を吸収することでアミノ酸が少なくなり下がる。
        • 酵母はまず必要なアミノ酸を吸収する。
        • アミノ酸の吸収には全部で4段階のステップがある。
        • 最初に吸収されるアミノ酸が多いと、発酵液のphは急激に下がる。
        • 発酵の後半でpHが下がる場合がある。
          • pHの下がり方でアミノ酸組成が推測できる。
      • phは毎日測定することが大切。
        • 測定時間を決めて、毎日測定すべきである。
      • PHはH+とOH-の割合を意味する。
        • H+>OH-の時、PH<7
      • 他に、
        • 酵母はKを吸収してH+を排泄する。
        • 発酵の後過程では、脂肪酸が排泄される。
        • ことでpHが下がる。
      • エールとラガーでは、比重、pHの下がり具合が異なる。
        • ラガーでは、比重、pHがゆっくりと下がる。
    • 発酵液の比重の変化について。
      • 発酵開始から、本格的な発酵が始めるまでの数時間は発酵液の比重は変化しない。
      • その後、糖分が吸収され、比重が下がりはじめる。
      • 発酵温度が高いと比重低下は急激であり、温度が低いとゆっくりである。
      • 比重が低下する率は、酵母の種類により異なる。
        • 初期比重の65%〜98%、平均は75% である。

酵のコントロールについて。

  • フレーバーのコントロール
    • 発酵中に発生するフレーバーを決める(どんなフレーバーをつけたいか)。
      • フーゼルアルコール
        • 麦汁のアミノ酸量
        • 発酵温度
        • 発酵が活発になるほどフーゼルアルコールの生成量は多くなる。
        • 酵母の遺伝的性質
          • 同じ条件で使い続けて、科学的データーを出す以外には解らない。
      • エステル
        • 麦汁中に酸素が多いと発生は少なくなる。
        • 発酵温度は高いときは、有機酸(脂肪酸)が多く産生され、エステルの量が多くなる。
        • アルコール(エチルアルコール、フーゼルアルコール)が多く産生される時に、多く産生される。
      • ダイアセチル
        • ボヘミアンピルスナー以外に、ダイアセチルがラガーにはあってはいけない。
        • 発酵温度が高いとダイアセチルが多く産生されるが、後に酵母が再吸収する。
        • ラガーの場合、ダイアセチルレストをする。
        • バクテリア汚染で多く発生する。
      • 脂肪酸
        • 発酵温度が高いときに多く生成される。
        • また、酵母の自己溶解で発酵液中に排泄される。
      • イオウ系フレーバー
        • 麦汁中の酸素量が少ないと多く発生する。
        • 発酵温度が高いと多く発生する。
        • 古い酵母を使ったときは多く発生する。
    • 求めるフレーバーの種類とレベルにより、麦汁の酸素量、発酵温度、熟成温度、熟成期間を変える。
      • 毎日、一定時間に発酵液の温度、比重、pHを調べるべき。
      • 温度、比重、pHのより、発酵の状態することが判断できる。
  • 細菌汚染について。
    • エールは複雑なフレーバーのビールであり、少々のバクテリアが作り出すフレーバーもone of them になる。
      • バクテリアが存在していても、十分な酵母が活発に活動していれば、バクテリアが活動しはじめる頃には、麦汁の糖度も下がりアルコールが出来始めているので、問題とはならない。
    • ラガーでは、麦汁の温度を低くして、酵母を入れないといけない。
      • 初めの温度を7℃にしないといけない。
      • ラガーでは立ち上がりが遅い。
      • pHがなかなか下がらないし、比重もなかなか下がらない。
      • 麦汁には必ずバクテリアがいるものである。
      • 初めは7℃にしておいて、バクテリアが活動できないようにしないといけない。
      • 発酵が活発になれば、発酵液の温度も自然に10℃位にまで上がってくる。

     

    本日の講義は終了しました。非常に疲れました。講義の後地ビール協会の小田会長、田村講師を囲んで参加者と共に夕食会がありました。少し飲みすぎで、ホテルに着いたのは11時を回っていました。本日の疲れがたたってか、寝坊をしてしまい、明日の講義に30分遅刻しました。明日はレシピ作成についての講義です。非常に内容の濃い講義でした。30分の遅刻が非常に悔やまれます。ノートを頼りに何とかまとめてみます。


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