ビアテスター・マスターエバリュエイターの講習会(2002/2/9〜10)受講記録(2)

[home]

 

タイルを踏まえて、実際のビールを飲んでの官能評価(ビァテイスティング) 

  • 3種類のビールが配られて、ビァテイスティングの実習が行われた。
    1. イングリッシュ・ペールエール
    2. ジャーマンピルスナー
    3. ヴァイツエン
  •  イングリッシュ・ペールエール
    • スタイルガイドラインによると、
      • ホップのアロマレベルは3〜4
      • ホップのアロマは強いがモルトのアロマとのバランスが取れている。
      • ホップ香>モルト香でバランスが取れていて、おくゆきがあるかどうか。
      • DMSはあってはならない。DMSは存在するが閾値以下。
      • ダイアセチルは閾値レベルまでなら、在った方がよい。閾値レベル以上はダメ。
      • エステルはハイレベル(1〜1.5 FU)
    • 試飲のビール
      • アロマ:エステル香が強い(2FU)
      • 硫化水素のアロマは少ない。
      • ホップのアロマが弱い。レベル2程度。
        • アロマホップの量を増やさないといけない。
      • カラメルモルトのアロマすなわち、タフィー、チョコレートのアロマ在り。
      • 苦みは、しっかりとしている。やや渋みがあり。スッキリしている。
      • 甘みは低い。
      • 硫化水素は揮発性で、コップに入れて時間と共に少なくなる。
  • ピルスナー
    • ピルスナーを飲むときは、ジャーマンピルスナーかボヘミアンピルスナーか、考えないといけない。
    • ボヘミアンピルスナー
      • モルトのアロマをキープしてないといけない。
      • そのために、カラメルモルトを使う。
      • しかし、色を薄くしないといけない。
      • ダイアセチルはカラメル、タフィーに似た特徴がある。
      • ダイアセチルを残しながら、カラメル香をつけている。
      • ボヘミアンピルスナーのFGは14、ジャーマンピルスナーのFGは6
        • すなわち、ボヘミアンピルスナーはジャーマンピルスナーに比べて甘いレベルは強い。
        • ジャーマンピルスナーのFGは6と低いのは、発酵度の高い酵母を使っているため。約80%ぐらいの発酵度
        • ボヘミアンピルスナーの酵母の発酵度は70%ぐらい。
    • 試飲のビール(ジャーマンピルスナー)
      • ホップのアロマレベルは1と大変弱い。(3〜4レベルでないといけない。)
      • 淡色麦芽のイオウ臭、穀粒臭が強い。
      • 甘みが強く、焦げ臭がする。
      • ジャーマンピルスナーはスッキリした感じがないといけない。スッキリとした味わいがない。
      • 渋みが強すぎる。
      • ホップのアロマレベルを上げるのと、渋みコントロールをしないといけない。
  • ヴァイツエン
    • 記載無し。

美食学見地からのビールの品質評価について

  • 美味しいビールとは、
    • 第一印象で決まる。
      • 口に入れた瞬間で解る。
      • 理屈ではない。
    • 香り、味の調和がとれているか
      • 何かがとがっているビールは嫌われる。
    • 消費者が飲んで美味しいと思ってくれたビールは、次回も買ってくれる。
  • 感動を与えるビールとは、
    • 香味に続く、景色の変化、思い出とだぶってくる。
    • そこに景色が描き出させるかどうか?
    • 心地よい苦みが変化して、甘みに変わっていく。
    • 苦みの引きが良いビールでないといけない。
    • デリカシィの欠けるビールは飲み飽きる。
    • オフフレーバーがあると、クリーンな印象が無くなる。

オフフレーバーの発生メカニズムとそのコントロール(どうすればオフフレーバーを避けることが出来るか。)

  • DMS(硫化ジメチル)
    • ピルスナーモルト、二条ペールモルトを使うときに気をつけないといけない。
    • 大麦が発芽するときに、大麦内にSMM(Sメチルメチオニン)というDMSの元が出来る。
    • SMMは70℃以上でDMSに変化する。
    • 一般的に淡色モルトは80〜85℃で焙燥する。
    • そのようなモルトは、麦芽内は70℃以下の場合があり、麦芽内に多くのSMMが残っている。
    • 焙燥温度の低い麦芽ほど多くのSMMが残っている。ピルスナーモルト>ペールエールモルト>ウインナーモルト>ミュンヘンモルト
    • 淡色麦芽を使ってマッシングすると、マッシュ液の中にSMMが多く混ざる。
    • 煮沸でSMMからDMSとなり、瞬間的に蒸発する。
    • 60分間の煮沸後も、多くのSMMが残っている。
    • 煮沸を終えた後、ワールプール中にもDMSが産生され、麦汁の温度は90℃前後と低くなり、非開放だとDMSが麦汁中に残る。
    • たとえば、
      • 二条ピルスナーモルトを200Kg使い、1000リットルのビールを仕込むとき、
      • 糖化を終えた麦汁では、1000ppbのSMMが麦汁中にとけ込んでいる。
      • 90分間の煮沸で790PPBのDMSが産生され蒸発する。
      • 20%のSMMが麦汁中に存在する。
      • ワールプール中でもSMMよりDMSが産生される。
      • ワールプールが開放されていれば、DMSはとんで行くが、熱交換器内ではDMSは飛んでいかない。
      • ラガーを仕込む際、ワールプールを終え90℃の麦汁を熱交換器で10℃まで温度を下げるが、その時間が問題になる。
        • 熱交換器の性能が60分かかるとき、92ppbのDMSが出来、麦汁中に残る。
          • 発酵中に30%のDMSが蒸発する(酵母の種類により異なる)ので、70%のDMSが残る。
          • 92×0.7=64.4ppbのDMSが残る。
          • すなわち2.1FUのDMSがのこる。オフフレーバーとして感じる。
        • 熱交換器の性能が30分かかるとき、53ppbのDMSが出来、麦汁中に残る。
          • 発酵中に30%のDMSが蒸発するとすると、37.1ppbのDMSが残る。
          • すなわち1.2FUのDMSがのこる。ラガービールとしては、好ましい量のDMSである。
    • 推測であるが、
      • 日本の大手メーカーのビールの支配的なフレーバーはDMSである。
      • 100℃以上で煮沸していないのではないか。
      • 日本人はDMSにかぎならされている。
  • バクテリア汚染によるDMSの発生。
    • DMSを作り出すバクテリアがいる。
    • ビールを飲んでDMSが多いときはバクテリア汚染を疑う。
    • バクテリアは多量の硫化水素を作り出すので、バクテリア汚染の時はDMSと硫化水素がペアとなって現れる。
    • DMS単独ではない。
    • バクテリアの汚染を防ぐには、
      • バクテリアは除去できない。
      • 発酵中に必ずバクテリアに汚染される。
      • バクテリアが繁殖しない環境にすることが大切。
      • 健康な酵母はバクテリアの繁殖を押さえる。
      • 酵母は3〜4回までの使い回しで止める。
      • 健康な酵母を使い、順調に発酵が進むと、PHが下がりアルコールが増える。
        • 発酵が進み、若ビールのPHが4.4 になるとバクテリアは生きていけなくなる。
  • DMSの少ないビールを作るには、
    • 煮沸時間を60分以上ぐらぐらと煮る。
      • 120分以上煮沸するとえぐみが出る。
      • 煮沸時間は60分以上120分以内。
    • ワールプール終了後、冷却時間を短くする。
    • 麦汁のPHを5.2 〜 5.6 にする。
    • 健康な酵母を使う。
    • 麦汁の冷却後、出来る限り早く酵母を入れる。
    • 醸造所の洗浄殺菌を入念に行う。

     

  • ダイアセチル
    • 発酵工程で必ず生成される。
    • バクテリア汚染でも発生する。
    • エール、ラガーを問わず、どんなビールでも発酵の後段階でダイアセチルが酵母より生成される。
    • ダイアセチルの生成を阻止することが出来ない。
    • 麦汁にとけ込んでいる糖を酵母が吸収して、最終的にはエタノールとCO2が生成される。
    • その途中でピルビン酸が出来る。また、酵母内で生成されたアセトアルデヒドが酵母内で合体してα-アセトラクテートが出来る。
    • このα-アセトラクテートは酵母内でバリンとなる。
    • このバリンは酵母の増殖に使われる。
    • 若ビール中の糖が少なくなると、酵母の増殖が止まる。
    • そうなると、α-アセトラクテートは酵母の外に放出される。
    • PH<4.5、14 ℃以上の条件では、α-アセトラクテートはダイアセチルとなる。
    • 酵母外で産生されたダイアセチルは再び、酵母が再吸収し、アセトイン、2.3ブタンジオールという無臭の産生物になる。
    • それ以外の条件では、α-アセトラクテートのまま若ビール中に残る。
    • いつ、α-アセトラクテートが酵母の外に放出されるか?
      • 比重が3/4下がった時点でα-アセトラクテートは酵母外に放出される。
    • エールでは、
      • 発酵温度が高く、酵母の代謝活動が活発である。
      • ピルビン酸とアセトアルデヒドが多く造られる。
      • 20℃前後で発酵するので、α-アセトラクテートが多く産生されダイアセチルトとなる。
      • 多量のダイアセチルが出来、そのすべてを酵母が再吸収することが出来ない。
      • ビール中にダイアセチルが残ることになる。
      • エールでは、ダイアセチルはあってもよい。1.5FUまではOK。
    • ラガーでは、
      • 発酵温度が低いので、若ビール中にα-アセトラクテートのまま残る。
      • ラガーの発酵温度は10℃前後である。
      • 若ビールの比重が3/4下がった時点で、α-アセトラクテートをダイアセチルに変化させ、酵母に再吸収させるために発酵温度を上げる必要がある。
      • 比重が3/4 下がった時点で、発酵温度を18から20 ℃まで24時間上げ、再び下げる。
        • まだ発酵液中に酵母が浮遊していることが重要
      • その間に、α-アセトラクテートはダイアセチルとなり、酵母が再吸収する。
      • この操作により、ラガーのダイアセチルを少なくすることが出来る。
      • この行程を、ダイアセチルレストという。
    • ダイアセチルが発生するもう一つのメカニズム---バクテリア汚染
      • ペジオコッカス、ラクトバシルスが有名
      • 弱った酵母を使用すると、上記の乳酸菌が発生する。
      • 新鮮な酵母を使用すると、酵母が早く立ち上がり、バクテリア汚染を防ぐことになる。
      • ペジオコッカス、ラクトバシルスは熱に弱いが酸性と6%以下のアルコールには抵抗性がある。
      • ダイアセチルと乳酸を多量に産生する。
      • 完成したビールを飲んで、ダイアセチル臭と酸味があれば、ペジオコッカス、ラクトバシルス汚染の可能性がある。
      • ダイアセチルとは関係ないが、
        • ペジオコッカス、ラクトバシルスは60℃前後の糖化液で繁殖する。
        • 糖化液で乳酸を造る。
        • 糖化終えた麦汁を長時間放置すると、乳酸が産生され酸っぱいビールが出来る。
        • 糖化を終えた麦汁は速やかに煮沸釜に入れ、速やかに煮沸をすること。
    • ダイアセチルを抑えるには、
      • 新鮮な酵母を使う。
      • ラガーの場合、ダイアセチルレストをする。
      • 発酵終了後の発酵タンクの温度低下(熟成)は、ゆっくりとする。
      • 発酵タンクの圧力をチェックして、高すぎるときはガス抜き
      • phが高いときは、α-アセトラクテートがダイアセチルに変化していない。
        • 発酵後半では、若ビールのphは4.5以下にする。

 

  • バクテリア汚染によるオフフレーバー
    • バクテリア汚染によるオフフレーバーとして、
      • 乳酸、酢酸
      • H2S(硫化水素)、DMSなどの硫黄
      • ダイアセチル
    • 汚染経路
      • 煮沸前の麦汁
        • 麦芽には多くのバクテリアが付着している。
        • マッシュ液のPHは5.2から5.6
        • このPHではペジオコッカス、ラクトバシルスなどの乳酸菌が繁殖しやすい環境
        • マッシングを終えた麦汁が長時間放置されると、麦汁の中で代謝活動をして乳酸を生成
        • 煮沸行程でこれらの乳酸菌は死滅するがビールは酸っぱくなる。
      • 酵母と共に混入
        • 使い回しの酵母
        • 開封して長時間経過した酵母、などが汚染の原因
    • ペジオコッカス、ラクトバシルスは熱には弱いが酸とアルコールに抵抗性あり。
      • ラクトバシルスは完全に絶滅させることができない。
    • バクテリア汚染によるオフフレーバーを防ぐには、
      • マッシング後の麦汁を長時間放置しない。
      • 酵母は、使い回しを2、3回まで。
        • 酸で荒い流す。
      • 醸造所の洗浄、殺菌

 

  • 酸化によるオフフレーバー
    • ビール仕込みのすべての行程で、酸化に関係している。
    • たとえば、
      • フェノールそのものはオフフレーバーではない。
      • フェノールが酸化してポリフェノールになり、渋みになる。
      • アルデヒドにO2 分子が加わり(酸化)、有機酸(-COOH)となり、酸っぱくなる。
      • イソα酸が、自動酸化(酸素分子による酸化)し、イソバレリアン酸となり、チーズ臭が出現する。
    • ビールの酸化は、
      • 酸素分子による酸化(自動酸化)
      • 酸化剤による酸化(酸素分子が無くても酸化が進む)
        • 酸化剤として、メラノイジン
        • 酸化メラノイジンは、水素分子を奪い還元メラノイジンになり安定する。
      • ビールの酸化は保管温度が高いと早く進む。
    • T-2-N(トランスー2ーノネナール)
      • いわゆるビールの酸化臭(カーボン臭)の正体
      • オレイン酸、リノール酸の酸化によりT-2-N となる。
      • ノネラールとはCが9個あるアルデヒドのこと。
      • トランスとは二重結合のこと。
      • トランスー2ーノネナールとは2番目のCが二重結合のCが9個あるアルデヒドのこと。
      • 分子構造はC-C-C-C-C-C-C=C-CHO
      • Cが多いアルデヒドほど不快な臭いがする。
      • オレイン酸、リノール酸は麦芽(特に淡色麦芽の中に多く含まれる)に含まれている。
        • 大麦を発芽させると発芽に伴いリパーゼという酵素ができる。
        • この酵素(リパーゼ)により、オレイン酸、リノール酸という長鎖不飽和脂肪酸が麦芽の中に造られる。
      • オレイン酸、リノール酸が含まれる麦芽で糖化すると、糖化液中にオレイン酸、リノール酸が入り込む。
        • 淡色麦芽を65度で糖化させたときに最も多くとけ込む
      • 後に麦汁を煮沸するとリポキシゲナーゼ(脂肪酸酸化酵素)により、オレイン酸、リノール酸は酸素(O2)と結合して、オレイン酸ヒドロペルオキシド、リノール酸ヒドロペルオキシドに変化する。
        • このときの酸素(O2)は、糖化時、ロータリング時に麦汁が空気と混ざることにより、麦汁の中に入り込んだ酸度である。
      • このオレイン酸ヒドロペルオキシド、リノール酸ヒドロペルオキシドは、ホットブレイク、コールドブレイクを形成しワールプール等により取り除かれる。が、すべてを取り除くことは出来ない。幾分、ビール中に残る。
      • ビール中のオレイン酸ヒドロペルオキシド、リノール酸ヒドロペルオキシドは、保管中に熱分解してT-2-N となる。
    • T-2-N が出来るもう一つ別の経路
      • 発酵中にCが9個のフーゼルアルコールが出来る。
      • ビール中の酸化メラノイジンにより、Cが9個のフーゼルアルコールが酸化される。
      • T-2-N となる。
    • ビールの酸化を防ぐには、
      • 糖化時、ワールプール時など、煮沸前の麦汁に出来る限り空気と混ざらないようにする。
      • 煮沸(ホットブレイクの生成)、ワールプールをキッチリと行う。
        • 煮沸をしっかりとすることで、酸化物をタンパク質と結合させたり、ホップのカスと結合させたりしてtrub として取り除く。
      • 発酵を終えたビールは、出来る限り空気に触れないようにする。
      • ビールは冷たい温度で保管する。

       

  • メタリック臭
    • メタリック臭とは、鉄、インク、血、等の臭い
    • 水、ホップ、モルトが原因。
    • 水1リットルを500mlまで煮沸。飲んでみてメタリック臭が強ければ水が原因。
    • α酸の高いホップを使うとメタリック臭がつきやすい。
      • ホップ樹脂由来
      • α酸が13%以上のホップに含まれる。
    • クリスタルモルトを多く使用したビールにメタリック臭がつく場合がある。
      • クリスタルモルトの産生工場の設備に原因。微量の鉄が混ざることがある。
      • 160度以上で焙燥したときに、メタリック臭が発生すると言われている。
      • 150EBCの麦芽では、その心配はない。
      • エアレーションを少し抑えると、メタリック臭を抑えることが出来る。
      • さび臭は、ビール中の鉄が酸化して酸化鉄となり感じる。
 


前のページに進む

次ページに進む