大手銀行六グループの二〇〇七年九月中間連結決算は、純利益の合計が前年同期に比べて45・4%減の約九千四百八十億円にとどまり、六グループすべてが減益だった。バブル経済崩壊後の不良債権処理にめどがつき、積極的な成長戦略を進めようとしていたのにつまずいた形だ。
大手行の収益は、不良債権の処理をほぼ終えてから急ピッチで拡大した。だが、収益増加は、過去に積み上げた貸倒引当金の取り崩しという特殊要因に支えられていた面がある。今九月中間期は利益拡大が一段落した。
加えて、米国の信用力の低い人向け住宅ローン(サブプライムローン)問題に関連した損失が大きく、みずほフィナンシャルグループなど四グループで、合計約千百五十億円に上った。〇八年三月期決算では二千八百億円程度に膨らむ見通しだ。
金融庁が発表した、九月末時点での大手行のサブプライムローン関連商品の保有額は一兆二千億円である。信用金庫や信用組合なども含めると国内金融機関の保有額は、合計で一兆三千三百億円に上る。渡辺喜美金融担当相は「(四十兆円に上る)金融機関全体の自己資本などを見れば、追加の損失が発生しても対応可能」とし、「深刻な影響を与えるとは考えていない」と語っている。
日本の投資額は欧米に比べて少ないとされ、主要銀行も「影響は軽微」と強調してきたが、米国の住宅市況が一段と悪化するようなことになれば、追加の損失処理が膨らむ可能性もあろう。懸念は残ったままだ。
減益要因には、大手行傘下の消費者金融などノンバンクの業績の悪化もある。消費者金融などは、出資法の上限金利と利息制限法の上限の中間にある「グレーゾーン金利」の返還請求が相次いだことや、規制強化を見越した貸出金利の引き下げが響いた。
大手行が強引な取り立てなどで批判を受けることもある消費者金融と連携するのは、本業の実力を高めるには個人の顧客層を広げる必要があると考えているからだろう。収益拡大策である。
残念ながら、大手行の成長戦略はサブプライム問題や消費者金融に対する規制強化の動きによって狂いが生じ、練り直しが迫られよう。本業の融資業務は、企業業績は改善して設備投資も高水準なのに伸び悩んでいる。新たな収益拡大策を打ち出さなければならない。公的資金によって不良債権の足かせをなくした大手行は、株主や顧客への利益還元が重要課題であることを忘れないでもらいたい。
鉄鋼メーカー栗本鉄工所(大阪市)が、高速道路などの橋梁(きょうりょう)内部に使う円筒形鉄製型枠の肉厚偽装や、強度試験の数値を改ざんしていたことが明らかになった。安全を預かる企業による相次ぐ無責任さが腹立たしい。
円筒形鉄製型枠は、橋を軽量化するために路面下に埋め込んで空洞をつくるものである。同種の型枠が使われた橋の数は高速道路と国道で約五千三百カ所に上る。国や高速道路三社は緊急点検を進めている。岡山県でも、同様の空洞がある県管理の長さ十五メートル以上の橋百八十八カ所について緊急点検に乗り出した。
東日本、中日本、西日本の高速道路三社などによると、栗本鉄工所は自社の強度試験の際、型枠に加わる力を計算する「換算表」を本来の35―80%になるよう改ざんした。型枠の肉厚もカタログの仕様より〇・一―〇・四ミリ薄くしていたという。
国土交通省などは「橋の強度には影響がなく、安全性に問題はない」という。しかし、長期的な影響の有無は定かでない。利用者の不安を踏まえた十分な点検を求めたい。
データ改ざんは同様の工法が始まった一九六〇年代から行われていた。肉厚の偽装も、書類が残り確認できる九六年ごろから続いている。長期間に及ぶ組織的な不正といわれても仕方なかろう。
栗本鉄工所は、橋梁談合や水門工事談合で営業停止処分などを受けている。信頼の回復に全力を挙げなければならないにもかかわらず、安全を軽視した利益優先の姿勢を改めなかった責任は重い。発注側も、なぜ長年にわたって型枠が基準に合致しているかどうか把握できなかったのか。安全確保へのチェック体制の見直しが急がれる。
(2007年11月25日掲載)