2007-07-09
■[gender]実は「バックラッシュ派」だったフェミニストの江原由美子さん
ジェンダーフリーの旗を振っているフェミニストの論客の一人に首都大学東京の江原由美子氏がいる。
女装家の神名龍子さんによると、この人は以前は性差それ自体を女性差別の原因とみて、性差を解消しなければ差別は無くならないと主張していたが、男女共同参画社会基本法ができて以降は、「ジェンダーフリー」の語を使って行政施策のPRをするようになった。江原由美子女史が転向したという話は聞かないから、このことは、ジェンダーフリーが性差を否定(解消)する思想だということをはっきりと示している、と神名さんは書いている。
私は江原さんの元々の思想傾向がどういうものか全く知らないけれども、神名さんの影響もあって、ジェンダーフリーが性差否定/解消(ジェンダーレス)であることに疑問の余地はないと考えているので、江原女史は転向していない(首尾一貫している)という神名さんの指摘はその通りだろうと思う。
さて、きょうの話はここからである。
江原由美子さんは学者としてはジェンダーフリー推進論者かもしれないが、一個人の本音の部分では、必ずしもジェンダーフリーに賛成しているわけではなく、むしろフェミニストが「バックラッシュ」として毛嫌いするタイプの考え方を信奉している可能性がある。
「バックラッシュ」の発信源の1つとされる世界日報01年6月23日付インタビューに八木秀次氏が登場している。このインタビューは大事に切り抜いて今も持っているが、八木氏はそこでこんな興味深い(ある意味、爆笑もの)話を披露している。以下、引用する。
──(ジェンダー・フリーが)性における役割分担を否定して、子育てを男女が平等に行えと言っても、赤ちゃんの側からすれば、気分が悪いときやさびしい時は父親より母親がいい、これは子どもを育てた人からすれば自明のことです。
先日、NHK衛星第一放送で、専業主婦論争の番組があり、私も出席しました。都立大学教授の江原由美子さん、男の“主夫”、厚生労働省の役人の3人と討論会をしました。男の“主夫”が、男こそ家庭へと叫んだのに対して、私は「男性がもっと家庭にかかわることはよいことだ。しかしその分、女性が外に出て働けばよいという話ではない。私は仕事柄、家にいる時間が多く、普通の父親よりも子どもに接していると思うが、残念ながら子どもはやはり母親の方がいいんだ、それが子どもというものだ」と発言したら、視聴者にも大いに受けました。
番組の後の楽屋裏では、フェミニストである江原さんも私の意見に賛成だ、自分も母親をやっているときは10年間ぐらい自分の手で育てたかった、と話して、男性の“主夫”に「そうでしょ。あなただって自分のやっていることに違和感があるでしょ」と話しかけたのです。つまり、彼女たちも本当のところは何が大事かということをわかっているのです。しかし、公の場では心にもないことを言う。男も女も役割は同じだというのは、子どもの心理や人間の脳や体の構造も無視した、人間不在の観念的空想的な議論なのです。
男女共同参画という名のジェンダーフリーは安倍政権の下で猛威を振るっていて、政府は国民に「意識改革」を迫り、働き方の改革が必要だ、男性はもっと早く家に帰って家事・育児を手伝うべき、残業するな等々、押し付けそのものと言っていい施策が大道を闊歩している。「男も家事・育児を均等に分担してこそ家庭に参画したと言える」というトンデモ言説が政府の名によって流布されているわけだ。
また政府が熱心に取り組んでいるのが、女性の社会進出の強力支援である。フェミ行政は、女性の労働力率を示したいわゆるM字型曲線を、女性差別によるものと見なし、女性が結婚して労働市場から一時的に退場するのは、固定的な性別役割分担意識や慣行のせいだと決め付けている。本当は働きたいのに辞めざるを得ないように強制されていると彼らは捉えている。
ここで、夫の男性が育児休暇を取って専業主夫となり、家事・育児を受け持つようにすれば、女性は産休後、直ちに職場復帰でき、労働市場から退出する必要はなくなる。あるいはゼロ歳児保育、延長保育の完備した保育園を全国的に整備すれば、女性は結婚退社を余儀なくされることもなくなる。
これが男女共同参画の考え方だから、保守派が「子供が小さいうちは、母親が育てるのが最善の子育てだ」、「仕事をしないで育児に専念したい女性(子育てが一段落したらまた働きたい女性も含む)は多い」などと言おうものなから、「三歳児神話にとらわれた偏見だ。父親だって子育てはできる」とか「子育てのプロである保育士に任せればいい。保育園児が将来非行化したり人格がゆがむという証拠はない」、「女を家庭に閉じ込めるつもりか」と猛反撃に出てくる。
八木氏の専業主婦論争に出席した「男の“主夫”」は、おそらくそうした主張をしたものと想像される。フェミニストの江原由美子さんも番組ではそれに同調したようだが、八木氏によると、楽屋裏では態度を豹変させて、主夫男性に対し「八木さんの意見に賛成だ、自分も母親をやっているときは10年間ぐらい自分の手で育てたかった」、「そうでしょ。あなただって自分のやっていることに違和感があるでしょ」と言ったというのである。
筋金入りのフェミニストと目されている江原さんは、実はバックラッシュ派だった!
そんなわけだから、若い男性諸君は、法律を盾とした政府やフェミニストの脅迫的言辞に、「これから21世紀は男性も家事・育児をやらないといいパパになれない/女に見放される」などと怯える必要は全くない。男女共同参画という名のジェンダーフリーは、昔のマルクス主義と同じで、ただの一時的な流行にすぎない。それを掲げている専門家でさえ、内心では放棄したり、疑っていたりする、思想的にも科学的にもまともな吟味に耐え得ないプロパガンダでしかないのだ。