
謡曲「鉢木」で知られる常世神社に行って来ました。
群馬の地を舞台とする古典文学作品でもっとも有名なものの一つで、鎌倉時代の執権、北条時頼は旅僧に身をやつし、庶民が安寧に暮らしているか諸国漫遊の旅に出かけるという水戸黄門の元祖みたいな事をしていたのですが、大雪の夜、上野国佐野で佐野源左衛門常世のもとに宿を求めまして、常世は一族の不正の為に領地を奪われ窮迫の生活をしていたのですが心は腐っておらず、家秘蔵の鉢の木をたいて暖をとらせ、後に鎌倉からの召集に真っ先に駆けつけた時に、一夜のもてなしへの返礼として、時頼から梅・桜・松の名を持つ三つの土地を賜った、というお話で、戦前には教科書にも載っていたという程有名な物語です。

ところがこの話はフィクション、つまり実際にあった出来事ではなく、北条時頼が廻国したというのはどうやら事実らしいのですが、(詳しく知りたい人は
コチラ)「鉢木」には特定のモデルは存在しなかったんだそうです。
実際、JR高崎駅から徒歩ではちょっと困難な、新幹線の高架脇にある祠は、意外なほど小さく、地元の(歩いて数分の所に住んでる)人でさえも知る人は少なかったのでした。
佐野源左衛門常世には墓もあり、それは県を跨いで栃木県佐野市鉢木町にあります。
なんでそんなに遠くにあるのかというと、神社は隠遁していた時、時頼と出会った場所にあり、墓は報償として与えられた土地にあるのだそうです。なるほど、辻褄が合ってます。
こちらも行ってみましたが「佐野」という地名の由来になった領主とは思えない程の小さな墓でした。
行く前は「フィクションの、実在しない人物が神として祀られてるんて、どんな所なんだろう。」と、興味津々でしたが、そのあまりのぞんざいぶりに、戦前は教科書にも載り、忠孝の手本と讃えられ、「いざ鎌倉」の代名詞にもなっていた源左衛門さんが可哀想になってきました。(たとえ実在しなかったとしても)

途中、立ち寄ったお店でラーメンを頼んだのですが、「創業八十年」「自慢の手打ち麺」の文字が大きく看板に躍っていたので期待したら、麺は素人が体験工房で打った方がマシなぐらい不揃いで、とても食べられたもんじゃありませんでしたが、手を抜いていい加減なものを出してるのではなく、店主なりに創意工夫を重ねてこの味なのですから仕方ありません。
こういう、都会じゃ絶対に食べられない食物を喉に通すのも、旅の醍醐味ですね。