現在位置:asahi.com>健康>メディカル朝日コラム> 記事 急病人です!! 42007年11月25日 男性のこめかみを押さえてただじっとすること15分。「ちょっとぉ、傷口診たらどうなのぉ?!」明らかに不満そうな奥様の声。ずいぶんな物言いだと思ったが私は精一杯優しく申し上げた。「いえ。ちゃんと止まるまでは取らないほうがいいんですよ」「ちゃんとしたお医者さまに診ていただきたかったのに」。小声とはいえ、ものすごい言いようだ。当の男性はそのうちぐうすか寝てしまった。そっとガーゼをはずすと止血している。厚めにガーゼを当てて、圧迫用にと丸めたガーゼをテープでぐいと留めた。奥様は礼も言わない。そのかわり「あなたのお名前と職場の名前と住所を教えてちょうだい」。それはお礼がしたいという言い方ではなく、何かあった場合の連絡先を問い詰めるような言い方だった。CAには空港についたら救護室で消毒をしてもらうように指示をしてその場を離れる。
不愉快だ! 不愉快だ! 不愉快だ!そりゃあ、大して役に立たなかったのかもしれないけど、どうしてああいう態度を取るんだろう? やってもらって当たり前、医療者なんだから人につくして当たり前? もう二度と招集になんか応じるもんか。 手荷物受け取りのコンベアの前でぶりぶり怒りながら待っていると「真田先生、勇敢だなぁ。招集に応じて先生が来た時には同僚として鼻が高かったよん」。外科部長が声をかけてきた。アエラ読んでて見て見ぬふりしてたくせに!!「先生の斜め前の人だったじゃないですか。なんで診てあげないんですかぁ!」さっきの怒りも手伝って言い方がきつくなる。「見たよ。だって僕の真横で転んだんだから」「いや、そっちの見るじゃなくて、診るの診る!!」部長は笑っている。「だから診たって。こんなの圧迫しておくしかしょうがないから、しっかり押さえておいた方が良いですよって最初に言ったし、あのご婦人がすぐ圧迫を取っちゃうもんだから、もっとちゃんと押さえていなさいって言ったって」「先生がご覧になってたのなら、なんで医者はいないか?ってCAが探しに来たんですか?」「僕が自分が医者だとは名乗っていないからでしょ。でも、民間人としてちゃんと人道的な活動はしたつもりだよん」。「そう怒らないで。じゃ、真田先生にコーヒーごちそうしちゃおかな」。私達は近くのコーヒーショップに入った。 「あの客、感じ悪かっただろ? 搭乗した直後からCAに対する態度なんかも横柄だったんだよ。人を人と思わない、みたいな。自分達はサービスを受けて当たり前だっていう態度でね」。私は半分ふてくされながらコーヒーをくるくるかき回して聞いている。「最初から医者を呼べ、なんとかしろの一点張りでね。飛行機の中に医者がいるかなんて限らないじゃない?僕の助言なんか聞きもしないし、素人は黙ってろみたいな事をご婦人がおっしゃったんでね。まぁ、単なるケガだし、今更、外科医でございます、なんて言えなかったし。ま、一番は、こんなところであんなのとかかわり合いになりたくないってことだったんだけど」「あれで何かお気に召さないことがあったら私訴えられちゃうのかなぁ?」「あるかもね。最近そういうの多いから」「だって、こちらだって必死なんですよ。限られた中で一生懸命やろうと思っているわけだし、先生みたいに診て診ぬふりした医者と違って私なんか招集に応じたのに!」「最近はこちらの善意の気持ちや過程じゃなくて、結果責任みたいなことで訴えられたりするからね。ああいう人、増えたね」「しぇんしぇ?!」私はほとんど泣き出したい気分になった。「大丈夫だよ、真田先生はちゃんとやってましたって証言してあげるよ」。 空港の出口。「真田先生、招集に応じた先生は僕なんかより立派な先生だよ。でも僕らの気持ちが通じない世の中になりつつあるみたいだね。」外科部長が笑った。 筆者プロフィール
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