北部振興費執行へ調整/移設協議題合意条件
【東京】政府は二十四日までに、本年度分の執行が凍結されている北部振興事業費(百億円)を、次回の普天間飛行場移設協議会の議題で関係省庁と地元が合意することを条件に、解除する方向で調整に入った。この条件が整えば、二〇〇八年度予算にも百億円を計上し、振興策の枠組みを継続する。防衛相や沖縄担当相ら閣僚レベルではまだ認識が一致していないが、県や名護市との「対話路線」を重視する首相官邸の意向とみられる。
十一月七日に第四回協議会が十カ月ぶりに開かれ、政府と地元は次回の協議会を十二月の第三週(十日―十四日)に開く方向で日程調整している。
政府関係者は二十四日、沖縄タイムス社の取材に「次回協議会の議題と日程が正式に決まることが、執行の条件だ」との見通しを示した。
北部振興費の執行条件は「普天間飛行場の移設に係る協議が円滑に進む状況の下、着実に実行する」こととされる。
内閣府幹部は「十一月、十二月と間を置かずに関係者が同じテーブルに着けば、協議が円滑に進んでいるといえる」と判断している。
一方、複数の防衛省幹部は「協議会で地元が普天間移設に関して、何らかの譲歩や妥協を表明することが条件だ」として、議題の中で、従来より踏み込んだ移設への協力姿勢を示す必要があるとの考えを崩していない。関係者によると、予算凍結の解除には、財務省も難色を示しており、関係省庁間ではまだ認識が一致していない。
ただ、政府内の調整役を務める首相官邸は、県と名護市が普天間代替施設のV字形滑走路案(政府案)の沖合移動を要求している現状に危機感を募らせている。このため、政府案に理解を求める手段の一環として、北部振興事業費の執行に傾いているもようだ。
[ことば]
普天間飛行場移設問題 日米両政府は1996年、米軍普天間飛行場の返還、移設で合意。99年、移設先は名護市辺野古沿岸域と決まった。しかし着工が遅れ、両政府は2006年、移設先を同市のキャンプ・シュワブ沿岸部に変更、V字形に滑走路2本を建設すると合意した。これに伴い、政府と県などは建設計画や振興策などを話し合う協議会を設置した。
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解説/北部振興費執行
政府が予算執行を凍結している北部振興事業費を解除する方向で調整を始めた背景には、首相官邸の意向がある。普天間飛行場移設で地元の軟化を促すため振興予算をカード≠ノ事態打開を模索しているのが現状だ。一方、防衛省や財務省は地元の譲歩がないまま「執行ありき」で協議を続けることに強く難色を示しており、政府内で調整が難航するのは必至だ。
今月七日に約十カ月ぶりに再開した普天間移設協議会は、主宰者を町村信孝官房長官に変更し、官邸主導を鮮明にした。
首相官邸が進展を急ぐのは、北部振興費の凍結が続けば、公有水面の埋め立て許可を持つ仲井真弘多知事が態度を硬化させ、普天間移設そのものが頓挫しかねないとの危機感があるからだ。
地元にとっても来年度予算の計上まで止められると、北部振興事業の枠組みそのものが消滅する恐れがあり、十二月下旬の予算編成直前がぎりぎりのタイミングとなる。
しかし、名護市辺野古沖移設の従来案を進める過程で、二〇〇〇年度から年間百億円の予算が毎年計上されたにもかかわらず、移設が進まなかった「反省」から、防衛省などの警戒感は強い。
ゲーツ米国防長官も町村氏に沖合移動に強い難色を示しており、政府の譲歩は困難な情勢だ。
県政、市政とも国と激しく対立するのは本意ではなく、次回協議会で何らかの歩み寄りを示す可能性もある。(東京支社・吉田央、島袋晋作)
名護市長は期待感
米軍普天間飛行場の移設問題をめぐり政府が凍結していた本年度の北部振興策百億円を執行をする方向で調整に入ったことに、島袋吉和名護市長は二十四日「政府から連絡がないのでコメントはできない」とした上で、「北部各市町村はそれぞれ事業を計画しており、早めに予算執行してほしいというのは以前から申し上げている通りだ」と期待する考えを示した。
上原康作北部振興会会長(国頭村長)は「政府が継続を決めたのなら大変喜ばしい。当初は十年間の予定だった北部振興策。いろいろ利害関係はあるが、まずは信頼関係を築かなければならない。これが大きなきっかけになって(移設問題も)、いい方向に動くのではないか」と話した。
県の仲里全輝副知事は「政府からはまったく聞いていない」と断った上で、「普天間代替施設については、県も名護市も日米合意を踏まえるという立場であり、北部振興策の凍結解除は当然」との認識を示した。一方で「(普天間移設問題と)バーターにしようというのであれば話は別。凍結解除されようが、知事はこれまでの(沖合移動の)主張は譲らないと思う」と強調した。