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船場吉兆の偽装に生産者怒り心頭 「ばかにしている」

2007年11月25日12時12分

 船場吉兆(大阪市中央区)の牛肉産地偽装事件が、生産者や販売業者に波紋を広げている。同社の「吉兆ブランド」を扱ってきた通販会社は、お歳暮商戦まっただ中でカタログの修正に追われ、損害賠償請求を検討する業者も。一方、牛肉ブランドの産地競争が激しくなるなか、「但馬牛」と偽られた鹿児島や佐賀の生産者は「あまりにばかにしている」「イメージダウンが心配」と怒り心頭だ。

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閉店が続く船場吉兆本店=24日午後、大阪市中央区で

 ■カタログ修正の業者「歳暮商戦の時期に迷惑だ」

 大阪府警による強制捜査の容疑事実になった産地偽装商品「但馬牛みそ漬け」など、船場吉兆の19商品を扱っていたカタログ販売大手の「シャディ」(東京都港区)。船場吉兆の福岡の店で消費・賞味期限改ざんが発覚した後の今月2日、同社役員から電話が入った。

 役員は「迷惑をかけるので、販売を中止したい」とだけ説明し、牛肉の産地偽装には一切触れなかったという。

 シャディは5日から販売を中止したが、すでに船場吉兆の商品を掲載したお歳暮カタログ27万部を全国の販売代理店に発送し、一部は家庭にも配られた。

 急きょ、代理店の店先に経緯の説明文を張り出し、配布前のカタログには、船場吉兆のページに「取り扱い中止」のシールを張って対応することに。全国紙の21日付朝刊に告知広告も載せた。

 シャディの幹部は「歳暮商戦のこの時期に大迷惑だ」と怒りが収まらない。カタログ修正にかかる実費や新聞広告費など、損害額を算定した上で、「船場吉兆に賠償請求できないか、弁護士と相談している」と言う。

 「アピデ」(大阪市中央区)にも今月初め、船場吉兆側から連絡があり、「さざなみ茶漬け」の販売を取りやめた。

 「さざなみ」は佃(つくだ)煮の一種で、吉兆創業の頃からの名物。湯木正徳社長のアイデアで茶漬けのもとにした定番商品だが、農水省から、原材料の不適正な表示を指摘された。

 アピデもお歳暮カタログに「販売中止」のお断りを折り込む羽目になり、「経費を弁償してもらいたい」とこぼす。今後の取引再開は「イメージが悪く、今のところ考えられない」。

 偽装「三田牛」のお中元商品を計58セット販売していた阪急百貨店(同市北区)は船場吉兆から連絡を受けた9日以降、購入者全員と連絡を取り「意向を聞いて返金など個別に対応している」(広報室)。約130件の注文が入っていたおせち料理も中止、予約客全員に伝えた。

 ■「但馬牛」に偽装された畜産農家「プライドもっている。心外」

 農水省によると、船場吉兆は鹿児島、佐賀県産の牛肉を「但馬牛」と偽り、大阪市の百貨店で売っていた。

 鹿児島県出水(いずみ)市で約500頭の「鹿児島牛」を肥育する久留(ひさどめ)勉さん(64)は「非常に腹が立つ。(食品の履歴を管理する)トレーサビリティーが導入され、うそはつけなくなったはずなのに。モラル以前の問題だ」と憤る。

 01年から同市内の肥育農家と共同出資し、福岡市内で焼き肉店を経営する。生産者の顔が見える店として、品質管理に努めてきた。「生産者は品質向上に一生懸命取り組んでいるのに、それに逆行するような話。イメージダウンが一番こわい」

 「黒毛和牛肥育のカリスマ」とも呼ばれる佐賀県伊万里市の畜産農家古竹隆幸さん(44)も「ブランド競争は激しくなっている。大阪では関西の但馬牛の方が受けがいいのかもしれないが、プライドを持って取り組んでいるだけに心外だ」。

 「伊万里牛」という独自のブランド作りに取り組んできた伊万里市の畜産農家松尾勝馬さん(59)は「まじめにやっている農家をばかにした話だ」。例年なら11月後半から鍋物や贈答用に牛肉が売れる時期なのに「今年は動きがにぶい。吉兆の問題で消費者が牛肉に不信感を持ったのも一因では」とこぼす。

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