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社説:年金記録処理 「意気込み」が公約になるとは

 だれのものかわからない5000万件の年金記録について「来年3月まで」に照合作業を終えて「最後の一人、1円まで支払う」のは自民党の公約だった。ところが、舛添要一厚生労働相は旗色が悪くなってくると「選挙のスローガンで意気込みを述べた」と釈明した。事実上の公約破棄に等しく、見過ごせない発言だ。

 夏の参院選前、安倍晋三前首相は「宙に浮いた年金記録」や「消えた年金」の処理方法を明確に約束した。年金記録照合は終了の時期まで明示した。その公約は福田政権にも引き継がれ、厚労相に就任した舛添氏も前首相と同じような言い回しで公言した。それをいまになって「意気込みを述べた」などとトーンダウンするのは「偽証」行為ではないのか。政治に対する信頼を著しく失わせる。

 できないなら、ありのままを最初から言うべきだった。できそうもないのにその場しのぎで「できる」と大言壮語し、有権者を信じ込ませた責任は重い。公約違反がはっきりしたら、国民に謝罪しなければならない。

 宙に浮いた年金記録のうち、氏名の書かれていないデータは1割強の524万件にのぼる。現在、そのうち15%に当たる約80万件の名前が特定できていない。舛添厚労相は「この照合は簡単ではない。数%はどうしても名前が見つからないものが出てくるかもしれない」と白旗を掲げている。

 来年3月までにまだ日数があるのに、なぜいまの時期にギブアップ宣言なのか。衆院選が近くなってから公約違反が明らかになると、選挙に不利に働きかねない。早めにほのめかして、少しでも国民のショックを和らげようという狙いなのかと勘ぐりたくもなる。

 年金記録の照合が予定通り進んでいないことがわかった以上、今後どういう手順でいつまでに作業を終わらせることができるのか。改めて段取りを示すのが政府の最低限の務めだ。

 舛添厚労相から軽い調子で「意気込み」と言いくるめられると、公約と意気込みの区別がわからなくなった。ならば、自民党が選挙で示したマニフェストのうち、どれが本ものの公約でどれが意気込みの表明に過ぎないのか、ぜひ区分けしてほしい。

 年金問題は「宙に浮いた記録」とは別に、保険料を納めたのに未納扱いになっている「消えた年金」の処理も残されている。申請に基づき全国各地に設置された第三者委員会で判定するが、こちらの作業も進んでいない。国民年金では申請された1万6500件余りのうち3%の500件弱しか救済されていない。政府が「最後の一人まで解決する」と大ミエを切った割に超スローペースだ。

 厚生年金に至っては、救済されたケースは0.5%の約50件に過ぎない。企業が従業員の保険料を着服したか、社会保険庁の事務処理ミスか、原因が判然としないためだという。

 リップサービスや空約束は、年金被害者をぬか喜びさせてから失望させるだけに罪が重い。

毎日新聞 2007年11月25日 0時24分

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