車を運転する時は、常に周囲に目を配り、とっさの状況への即応が必要となる。それができないと事故にもつながりかねない。二〇〇二年の改正道交法で、新たに認知症の人が免許取り消しや停止の対象となったのはそのためだ。
しかし認知症のドライバーがかかわる事故が、中国地方でも散見される。倉敷市の山陽自動車道では二十二日、逆走車を避けようとしたワゴン車が横転し、七人が重軽傷を負った。逆走した男性(74)は認知症で通院していた。
認知症の人が、事故の被害者にも加害者にもならない方途を、真剣に考えなければならない。
道交法による認知症チェックは「臨時適性検査」だ。事故や通報を機に、あるいは家族からの相談で病気が疑われる場合には、本人に専門医に診断してもらうよう求める。結果次第で取り消しなどの行政処分が下される。
ところが昨年末までの全国の処分件数は約二百六十件。免許証の自主返納を加えてもわずかで、免許を持った認知症の人は三十万人と推定されている。
臨時適性検査にしても、何かきっかけがないと踏み込めない、という制約がある。まして周囲の人が、危なっかしいからといって無理やりに免許を返納させることはできない。過疎地ではまた、車を失えば買い物にも病院にも自力で行けなくなるという差し迫った事情がある。
結果的に、認知症の人がハンドルを握り続けているのだろう。といって、このまま危険な状態を黙過するわけにはいくまい。
基本的には、本人がプライドを持って「そろそろ潮時」だと納得するにはどうしたらいいか、だろう。認知症の人は、周りから禁止されるとかえって抵抗を覚えやすい、という。家族で難しければ、第三者を含めた「説得支援」の仕組みを作れないか。
過疎地では、代わりの移動手段や輸送ボランティアとセットで考える必要があろう。専門家は「軽度なら走り慣れている道では大丈夫」と言う。「助手席で誰かが信号などチェック」など現実的な地域ルールも視野に入れたい。
六月の道交法改正では、七十五歳以上の免許更新時の「認知機能検査」が決まった。二年以内に実施される。
法的な整備も進めつつ、長期的には「ある程度の高齢になったら運転は卒業」との意識を社会にどう根付かせるかが課題になる。
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