合併市の病院再編/住民合意の原点を忘れずに
「平成の大合併」で誕生した宮城県北の大崎市と登米市で、合併前の議論になかった公立病院再編計画が相次いで浮上している。
市中心部の病院で機能充実を図る代わりに、周辺部の病院で規模・機能の縮小に踏み切ろうという内容で、病院によっては無床化され、入院機能を失う可能性も出ている。ともに市当局の最終決断はこれからだが、唐突なリストラ案に住民は不安を募らせている。
医師不足という地方に共通する課題が背景にあり、スリム化を選択したい事情も理解はできる。だが、新市移行に向けた当時の合併協議は、合併前の医療体制維持が前提だった。新市誕生からわずか2年半―1年半という段階での方針転換は約束違反とも受け取られかねず、両市に慎重な対応を求めたい。
大崎市は2006年3月、旧古川市など1市6町が合併して誕生した。合併後の公立病院の配置については法定合併協議会が基本計画に明記し、市立・町立の「4病院1診療所」は大崎市民病院本院(1カ所)、分院(3カ所)、診療所(1カ所)と位置付けられた。地域住民に配慮し、実質的な診療体制はほぼそのまま維持された。
これに対し、市内部の検討会議は今年7月、「1病院4診療所」への再編案を明示した。深刻な医師不足と病院経営の悪化を理由に入院診療の縮小を図るのが目的で、本院(旧古川市立病院)を残し、町立病院だった鳴子温泉、岩出山、鹿島台の3分院をすべて診療所とする構想だ。実施されれば大幅な病床の削減は避けられない。
登米市では、市立5病院のうち、市役所に近い佐沼病院を中核の市民病院にする一方、登米病院(旧公立登米病院)を来春から無床診療所化するという再編案が、専門家らによる検討委員会により市に示された。2年後の10年4月には、さらに2病院についても無床診療所化を検討するという。
極端な医師不足のため、入院患者に対応した当直体制を組むのが困難になっているといい、市は「医師の過重な負担に依存した病院運営はもはや限界。何らかの策を講じないと地域医療は維持できなくなる」と、再編案の受け入れを示唆する。
登米市は05年4月、9町が合併して誕生した。合併計画の中に医療体制の縮小は盛り込まれておらず、住民の間に「合併したことで、医療でも地域格差が広がった」という不信感が芽生えるのも当然だろう。
旧合併特例法に伴う平成の大合併で、東北では66市町が誕生した。住民サービスの低下や周辺部の衰退など、合併のデメリットは議論の最中から指摘されていたが、合併を志向する当時の首長らは、地域住民には不利益をもたらさないと説明して合意を得てきた。
その住民たちが、最も切実な地域医療問題で早くも不利益を突きつけられる。これが、市町村合併が抱える負の側面の実体だ。両市の病院再編の行方は、現在も進む各地の合併論議に影響を与えかねない。