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「仕組み」の経済学―7

2007年11月23日

 1円の領収書

 中古車市場では売り手は車の情報を持っているが、買い手は持っていないため、劣悪な商品が横行し、良質な車は排除される。不良中古車をレモンと呼んだG・アカロフはノーベル賞を受賞した。この理論は逆選択と呼ばれ、「悪貨が良貨を駆逐する」結果を招く。

 我が国では口利きや利益誘導を期待する特定の選挙民は手弁当でも応援を惜しまないが、政治家がマニフェスト通りに政策を実行することが少ないために多くの選挙民は棄権してしまう。この結果、真の政治家は既に駆逐されてしまっているのだろう。

 M・ウェーバーは、政治家を政治の「ために」生きる人間と政治に「よって」生きる人間の2種類に区別した。今や、特定の宗教やイデオロギーに基づく政治のために運動する政治家は少数派であり、多くは政治を職業としている。このため政治資金が命ガネとなり、内部告発の時代には「政治とカネ」の問題がますます時限爆弾となる。

 天下周知のザル法である「政治資金規正法」については、領収書の最低単位を目くらましに使おうとしているが、国民は本来1円の領収書などに興味はない。自分の報酬を自分で決めるというあからさまな利益相反を解決できず、しようとしない政治と政治家に不信を募らせているのである。

 政治家を正直にさせる仕組みはもろもろあるが、即効性があるのは政治家のすべてのポケットを課税対象にすることである。更に簡便な仕組みは、領収書がない資金は税務否認とし、収入源に遡(さかのぼ)って課税対象とすればよい。

 マルサの介入で、政治家に緊張感が走り、監査は直ちに職業会計士に代替され、透明性は一気に高まる。もちろん会計士と顧客の癒着も珍しくないし、税務署が政治家に左右される懸念もある。それはそれで、納税の仕組みを抜本的に改良する端緒になる。(四知)

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