<求めない−/すると/いまじゅうぶんに持っていると気づく>
<求めない−/すると/いま持っているものが/いきいきとしてくる>
<求めない−/すると/それでも案外/生きてゆけると知る>
書店に立ち寄ったら、平積みされた小さな本が目に留まった。どのページにも、こんな短い句が一つずつ。どれもが「求めない」で始まっている。シンプルで、何でもないような言葉ばかりだが、引き込まれてしまった。
タイトルも、ずばり『求めない』(小学館)。作者は、詩人の加島(かじま)祥造(しょうぞう)さんだ。
人間とは、求めてやまない存在である。求める心が大きなエネルギーにもなる。しかし、現代の私たちはあまりにも求めすぎているのではないか。欲望過多の時代と言っていいかもしれない。
豊かさを際限なく求めた結果、あふれかえったモノとゴミに私たちは窒息しかかっている。成長と進歩への飽くなき欲望は、自然を破壊し、地球を危機に陥れている。
快適と便利の果てしない追求に、人は逆に振り回されている。度を越した所有欲が引き起こす事件は、絶えることがない。私たちが抱える不安も、さまざまな「過ぎた欲望」と無縁ではあるまい。
このあたりで一度立ち止まり、求める心にブレーキをかけよう。加島さんはそう呼びかけている。だが彼が最も訴えたいのは、欲望を抑えることが実は本来の自分を取り戻させ、生き生きとした暮らしにつながるという点だ。
信州の伊那谷で自然と向き合い、最近は老子や荘子に傾倒しているという加島さん。この作品も、老子の「足るを知る者は富む」に触発されて書いたと述べている。
今の自分に満足し、受け入れる。それが本当に豊かな人間である。この二千年余り前の言葉を、時代に即して丁寧に翻訳してくれたのだろう。
<求めない−/すると/求めたときは/見えなかったものが−/見えてくる>
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