天台宗「千日回峰行」「堂入り」を達成 比叡山の修行僧・星野圓道さん
2007年11月22日(木)15:10比叡山で天台宗きっての荒行「千日回峰行(せんにちかいほうぎょう)」に挑む僧がいる。星野圓道(えんどう)さん(32)。最大の難関とされる断食、断水、不眠、不臥(ふが)のまま9日間も堂にこもる「堂入(どうい)り」を達成したばかりである。えっ、こんなイケメンが? いささか戸惑いつつ、その思いを聞いた。【鈴木琢磨】
◇一隅を照らす忘れられた心−−1日5分、自分見つめて
ああ、汗が噴き出し、足は棒である。ケーブルカーの延暦寺駅から、星野さんが住職を務める大乗院まで修行僧のまねごとを、と駆け下りたのがいけなかった。ほうほうの体で坊にたどり着き、水を含んで、ひと息ついていると、純白の浄衣に身を包んだ剃髪(ていはつ)も美しい僧が現れた。「どうぞ。お待ちしていました」。星野さんだった。市川海老蔵かと見まがう色男。
「いやぁ、なんだかみなさん大騒ぎされてるみたいですけど、私なんかごくごく普通の32歳ですよ。パソコンもしますし、漫画も好きですし。行に入る前はカラオケもよくやりました。そう、平井堅。キーが高いのがぴったりでね。テレビは天気予報くらいしか見ないなあ。山暮らしに欠かせない情報ですから」
あっけらかんとしている。なるほど、Tシャツにジーパン姿なら、このセリフもしっくりくる。でも、生き仏さまのセリフとしては「へえー」である。比叡の峰を、谷を7年かけて通算1000日、地球1周分、ざっと4万キロを歩く千日回峰行、なかでも超人的な「堂入り」を10月21日に終えて、この余裕。シャープな肉体もジムで鍛えたわけじゃない。「生き葬式」と呼ばれる命懸けの行が生み出した。
「さすがに飲まず、食わずで10キロほど体重は落ちました。まだおかゆやうどんをすすってますよ。堂入りで一番、心配したのはやはり食欲でしたね。もともと大食漢で、米1日4合、仲間によく食うなあと言われるほどでしたから。そのまま断食でゼロにしたら、死ぬな、と思ったので、徐々に減らし、なんとか人並みにもっていきました(笑い)。もう5年、山から出ていないでしょ。それに食事も精進ですから、例えば、カルシウム不足で、ほら、ツメは薄くなるわ、歯はもろくなるわで」
○ ○ ○
どこかマラソンのトップランナーをほうふつさせる星野さんは東京の生まれ。どうして、比叡山に? 「気が付けば、お坊さんになってました。比叡山が滋賀県にあるなんて知らなかったんです」。そうとぼけつつ、小児ぜんそくに苦しんだ体験をぽつりぽつり。「20歳まで生きると思っていませんでした。中学で野球部に入ったんですが、すぐドクターストップ、学校もほとんど行けなかった。先生のお世話になって、縁なんですよね、ここ比叡山・明王堂の小僧になったんです。15歳でした」
出家得度し、比叡山高校に通い、そして京都の花園大学を卒業した。山の澄んだ空気のおかげか、いつしかぜんそくは収まっていた。「自分をもっと磨きたい」。03年、千日回峰行に入る。千葉県松戸市でひとり暮らしの母は、遠くで息子の成長をじっと見守っていた。「ふらふらで、よくわからなかったんですが、冷たい風の吹く中、堂入り満行のときにわざわざ来てくれたみたいです。ずいぶん苦労させました。ありがたく思っています」
行を始めて700日目、行者がこもって、不動真言を10万遍唱え続けるこの堂入り、お釈迦(しゃか)さまが悟りを開いた追体験ともいわれる。「いえ。悟ってはいけないんです。千日回峰行って言いますが、あえて25日残すんです。1日に歩く距離も7里半、だいたい30キロ。8里にしない。8はものを満ずる意味ですから。修行にゴールはありません。ですから、生き仏、当行満阿闍梨(とうぎょうまんあじゃり)なんて呼ばれても違和感ありますね。そこまで持ち上げられていいのかなって。ようやく先生になる教員免許証がもらえたってところでしょうか」
○ ○ ○
とはいえ、戦後12人目の免許皆伝である。ほやほやの先生に尋ねたい。いまの日本、どう見えます? 「うーん、貧富の格差が広がっている、それをどうすればいいか、政治家がまったく考えてない。逆にひどくなっているじゃないですか、政治のせいで。伝教大師はおっしゃってますよ。一隅を照らす。政治家はこの言葉を理解しているんでしょうか? 知らないんじゃないかなあ。こんな言葉もありますよ。己を忘れて他を利する。自分のことはちゃんとやったうえで、他人のために汗をかく」
その当たり前ができない。日本人は正直を忘れ、偽装列島になってしまった。老舗ブランドまでモラルは崩れていく。修行僧もいたく心を痛めていた。
「おっさんくさいって言われますが、常識知らずが増えましたね。みんな、これ、おかしいんじゃないのって怒らないでしょ。しつけという言葉自体が忘れられているのかもしれませんねえ。私の師匠の光永覚道(みつながかくどう)阿闍梨さんは、人生はプラス・マイナス・ゼロだっておっしゃいます。いいことがあれば、苦労もある。苦労があれば、いいこともある。世の中、自己中心がはびこりすぎです。残念ですね。人のため、世間繁栄のため、と少しは考えてほしいですよね」
○ ○ ○
ゆっくりお茶をいただき、坊のあたりを歩く。ひんやりした空気がおいしい。どこまでも静か。鳥が鳴き、木々の葉がこすれるばかり。見れば、軒下に妙なものがずらっとぶら下がっていた。「ハハハ。これ、回峰行中に履いたわらじなんです。ひもが8本あるので蓮華(れんげ)わらじともいいます。行者は蓮(はす)の花に乗せてもらって修行しているんです」。それこそ雨の日も風の日も山道を駆けた証拠だった。星野さんが千日回峰行を満行するまであと2年かかる。洛北・赤山禅院(せきざんぜんいん)へ足を延ばす「赤山苦行」、さらに京都市内を回る「京都大廻(まわ)り」が待ち受けている。
「まあ、苦行だといったって、私なんかこういう機会を与えてもらって、自分を磨かせてもらえる。うれしい限りですよ。世間から離れて山で暮らしてるんですしね。でも、本当はサラリーマンのほうがずっと大変だと思いますよ。生きるために日夜、悪戦苦闘しておられるはずですから。ただね、あまりにもあわただしいでしょ。ほんの少し、そう、5分でいい、自分を見つめる時間を持ってほしい。喫茶店の片隅でもいいし、ふとんに潜って寝る前でもいい。今日1日どうだったかなあって」
1日5分か……、食いしん坊で、飲んべえで、おまけに寝るの大好き、それでも実践できますか? 「大丈夫! 修行したって欲望は断ち切れるもんじゃないんです。コントロールできるようになった程度ですよ。小さいことからこつこつと、ハハハ、西川きよしさん流で。私ね、サンマが好物なんですよ。食べたいなあ〜。いまは無理ですけど……」。実に人間的な生き仏さまである。重い荷物を下ろしたみたいで、帰りの山道、その足どりがちょっと軽くなった。
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