▲ベストグループ本部がある(株)ベスト施設(三重県安芸郡美里村)
昨年11月、衣川晃弘氏を指導者とする宗教的集団「
ベストグループ」(本部・三重県)幹部らの代理人・山田高司弁護士(
愛知県弁護士会)から当サイト運営者・藤倉宛に、全国での訴訟を予告してベストグループ関連の記事の削除などを求める書面が届いた。
当サイトでは昨年、
相談・情報掲示板でベストグループが話題となり、サイト上で「
ベストグループが各掲示板で議論に(2004/06/05)」「
ベストグループ本部、電話インタビュー(2004/08/06)」を掲載していた。削除要求は、これらの記述に関するもの。
「衣川晃弘、水野起良廣、(株)ベスト、ベストグループの全国23ヶ所のブロック責任者の代理人として通知します」で始まる書面は、「自己啓発セミナー対策ガイド内のベストグループに関する全ての投稿文、ベストグループに関する記述の削除と謝罪を要求」する内容だった。書面によると、要求の主な根拠は、以下のとおり。
- ベストグループを中傷する掲示板投稿に対し、それがさも真実であるかのように誤解させるコメントを、藤倉が載せた。
- 水野が衣川の「不当発言」を認めたかのような事実無根の記載をしている。
- ベストグループの会報に掲載された衣川の発言の特定の箇所だけを抜き出し、前後の文脈などを無視して「不当な発言」として紹介した。
- ベストグループは誤解を受ける点があるとして改善しているのに、自己啓発セミナー対策ガイドには改善前の指摘がいまだに掲載されている。
- こうした中傷によって、衣川と水野は名誉を毀損され、ベストグループの各ブロック長は研修のための公共施設を借りることができなくなり、個々の会員が家族から不当な反発を受けている。
- 検索エンジンで「ベストグループ」を検索すると自己啓発セミナー対策ガイドが上位に出てくるため、このままでは被害が広がる。
さらに、記事と投稿文を削除しなければ損害賠償を請求するとし、「その場合は、衣川、水野、(株)ベスト、ベストグループブロック長23人の代理人として個別に訴訟を提起する予定」とまで記されていた。
「ブロック」とは、日本全国に散らばるベストグループの会員集団の単位のこと。つまり、記事を削除しなければ個人・会社あわせて26件の全国同時多発訴訟を起こすということである。
これに対して当サイトは次のような趣旨の返答をした。
- 具体的にどの文章がどのように中傷しているのかについて指摘がないので、削除と謝罪には応じられない。問題箇所を具体的に指摘してくれれば内容に応じて検討する。
- 記事は、水野氏のコメントの録音を元にしており事実無根ではない。藤倉は、不幸に言及した衣川氏の発言を「不幸発言」と要約しているが、「不当発言」とは書いていない。
- 記事の掲載日も、記事で紹介している会報の発行時期も明記してあり、その時点における情報であることは明らかである。また、「改善すべき点は改善している」とするベストグループ側の言い分も載せている。
- 公共施設を使えなくなった件については、藤倉には責任がないのでコメントできない。
- 検索エンジンについては藤倉が働きかけた結果ではないので、藤倉に責任はない。
- いち個人に対し、多数が全国で同じ内容の訴訟を起こすことは、時間・労力・金銭面で藤倉に負担がかかることを期待したものであり、権利の実現を目的としたものとは言えない。訴権の濫用として、それ自体が違法行為になりかねない。
- 弁護士の肩書きを利用した恫喝とでも言うべき内容であり、代理人である山田弁護士には弁護士倫理に反する疑いがある。
当サイトとベストグループのやりとり |
2004年 |
5月頃
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当サイト「相談・情報掲示板」でベストグループ関連の話題が活発になる |
6月5日
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当サイト「ベストグループが各掲示板で議論に」掲載 |
7月6日
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ベストグループ本部から当サイト宛に事情説明のメールが届く |
7月10日
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メールの内容の確認をかねて藤倉がベストグループに電話取材。水野起良廣が対応 |
8月2日
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藤倉、東京のベストグループ交流会を見学 |
8月6日
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当サイト「ベストグループ本部、電話インタビュー」掲載 |
11月26日
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ベストグループが藤倉宛に恫喝書面(後日、藤倉回答) |
11月30日
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ベストグループが某女子大K教授宛にも恫喝書面 |
12月15日
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藤倉宛にベストグループから2回目の書面(後日、藤倉回答) |
12月22日
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ベストグループから3回目の書面(後日、藤倉回答) |
2005年 |
2月15日
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ベストグループから4回目の書面、会談を提案(後日、藤倉回答) |
3月1日
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ベストグループ側の主張を受け、当サイト「ベストグループ本部、電話インタビュー」の記述を一部修正 |
3月18日
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東京で、藤倉とベストグループ側が会談 |
5月上旬
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当サイト「相談・情報掲示板」で再びベストグループ関連の話題が活発になる |
5月下旬
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ベストグループから5回目の書面 |
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以下、書面交換続行中 |
何度か書面でやりとりした後、今年の3月18日に東京で、藤倉とベストグループ側とで直接の会談を行った。
この席で水野氏は「(訴訟という)法的な手段に訴えようとしたのは、水野のいきすぎだった。衣川はそれに反対している」との趣旨の発言をし、「申し訳ありません」と謝罪した。しかし衣川氏も含めベストグループ側は、「改めて記事を削除するようお願いしたい」「訴訟という手段を放棄するという意味ではない」とも発言。記事の問題箇所などについての具体的な指摘は、依然として行われなかった。
記事の個別の表現や事実関係に関する主張をベストグループ側が整理して提出してきたのは、2005年5月下旬の5回目の書面だった。
一方、5月上旬からは、再び
相談・情報掲示板で、ベストグループに関する話題がもちあがっていた。「インターネットは良くない輩の溜まり場だから、相手にしてはいけない」という話がベストグループ内部でなされているとの投稿が発端になっている。ベストグループが掲示板で話題になった昨年5月と今年5月いずれも、それぞれベストグループの「本部」「理事」を名乗る人物が、掲示板上でも反論や釈明を行っている。
ベストグループと当サイトとの書面のやりとりは、現在も続いている。
解説
ベストグループは、藤倉に最初の恫喝書面を送付したのとほぼ同時期、某女子大学教授・K氏に対しても似たような恫喝書面を送っている。K氏が運営していた掲示板でもベストグループのことが話題になったことがあり、それについても全国での訴訟を予告し記述の削除を要求した。
ところが、その掲示板は、ベストグループが恫喝書面を送付する1ヶ月近く前に別の理由で閉鎖されており、ベストグループに関する記述も既に存在していなかった。ベストグループもその代理人の山田弁護士も、実際の記述を確認せずに恫喝書面を送っていたということだ。
さらにベストグループは、藤倉宛の恫喝書面では衣川氏が不幸に言及する発言をしたこと自体は認めた上で、発言の文脈や場面について言い訳をしているにもかかわらず、K氏宛の恫喝書面では、不幸に関する発言そのものがなかったかのような主張を展開していた。脅すだけではなくウソまで用いていたのである。
個人運営サイトや掲示板などでの個人による記述をめぐって、宗教的団体(あるいは宗教的団体とかかわりのある団体)が実際に訴訟を起こしたケースはいくつかある。ネット上に詳細情報があるのは、「ワールドメイト被害救済ネット」や「平和神軍観察会・逝き逝きて平和神軍」。ライフスペースもかつて同様の手段をとっていた。ホームオブハート等との間で名誉毀損訴訟を争っている「ホームオブハートとToshi問題を考える会(HTP)」は、個人サイトではないが一般市民による情報サイトと言える。
先日、当サイトのニュース 「平和神軍観察会」運営者、高裁判決に上告を表明
でも書いたとおり、個人サイト運営者の立場としては、訴訟の結果に関わらず訴訟を起された時点で、記事の掲載が難しくなる。安易な訴訟は、ネット上の言論の妨害として機能する。
一方、ベストグループは現在のところ、実際には訴訟を起してはいない。藤倉宛に書面を送ってきたり、掲示板でベストグループの幹部を名乗る人物が投稿するなど、いちおう「言論」の土俵でのやりとりが続いている。訴訟をちらつかせての恫喝は反社会的だし当サイトにとっては迷惑極まりないが、他の事例と客観的に比較するなら、現状は「まだマシな方」だろう。
ベストグループ側の反論の内容が正しいかどうかは別として、手段としては、このまま「言論」の土俵の中でのフェアな反論を心がけるてもらいたい。仮にフェアな議論ができないまま争いを法廷に持ち込むようであれば、ベストグループは上記の「前例」にならって、さらなる批判と注目を浴びることになるのではないだろうか。
当サイトのスタンス
ベストグループに限らずどの団体からの抗議に対しても、当サイトでは基本的に記事の全削除には応じないことにしている。もっとも、記事に事実誤認や不当な権利侵害があれば削除・修正はるすし、仮に記事内の事実誤認や不当な権利侵害が記事の全削除に値するほど深刻あるいは広範囲である場合は全削除も検討することはある。
実際、当サイトでは、ベストグループ側の主張を受け入れて記事を修正した点もある。
「ベストグループ本部、電話インタビュー」は当初、「水野氏が、会報に掲載されている衣川氏の発言の存在を認めた」とする内容だった。しかしベストグループ側は、「水野はベストグループの会報に掲載されている発言を認めたわけではなく、別の場面についての話である。(水野が藤倉から)インタビューを受けた際、会報のどの号にその発言が載っているか知らなかった」と主張。当サイトでは、水野氏への取材時の録音を再確認した上で、2005年3月1日に記述を修正した。
しかし衣川氏が「不幸」に言及した記録がベストグループの会報に掲載されているという事実は、水野氏が認めようが認めまいが覆らない。結果的に、衣川氏が「不幸」に言及したのは、会報に掲載されている件だけではないということをベストグループ側が自ら再確認した形になった(ちなみに、最新の書面でベストグループ側は、「水野が衣川の“不幸発言”を認めたことはない」と主張している)。
いずれにしても、記事の内容について、具体的にどこがどう事実と異なるのかが指摘されない限りは、修正も削除もありえない。また、評論に関する部分については、前提となる事実に誤りがない限り、その内容に干渉すること自体が筋違いだ。
もちろん、反論や参考意見を寄せることは、記事で扱われた団体の当然の権利だ。反論は必要に応じて掲載していこうと思う。また、常識的な手段・内容で行われる限りは、掲示板上で反論してもらうのも自由だ。