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2007年11月24日

◎日伊共同壁画修復 金沢に似合う国際貢献事業だ

 金沢大学がイタリア・フィレンツェの国立修復研究所に協力して、フィレンツェのサン タ・クローチェ教会の、十四世紀後半に描かれたフレスコ壁画「聖十字架物語」の修復研究に取り組んでいる。

 フィレンツェ大学でイタリアの中世・ルネサンス美術史を学んだ金大教育学部の宮下孝 晴教授が一九九九年、NHK教育テレビの壁画をめぐる教養講座で貴重なフレスコ壁画の傷みを話したことがきっかけとなって巨額の寄付を申し込む篤志家が現れ、金大の国際貢献事業となったのである。

 日本には人類の芸術を守る国際貢献の前例がなかったため、金大が文部科学省や文化庁 を口説いて実現したとのいきさつもあったそうだが、伝統文化が集積した金沢によく似合う国際貢献だ。

 フィレンツェでの修復研究と並行して金大教育学部棟の外壁でもフレスコ壁画の原寸大 の再現が当時の手法や絵の具で進められている。現地で得たデータをもとに宮下教授と大村雅章教授が再現の中心になり、美術コースの学生や卒業生らが手伝い、ゴールがみえてきた。

 漆喰(しっくい)を塗り、乾ききらないうちに絵の具で描くのがフレスコ画だ。金大の 壁画は歳月とともに変化する「経年変化」を調べる資料となる。きのう二十三日にはこの壁画の見学会や、イタリアの研究者を交えた国際シンポジウムがあった。こうした試みからいえるのは、国際貢献を型で縛ることの愚かさであり、また国際貢献にはいろいろあるのだから、できるだけ自由であるのが望ましいということである。

 サンタ・クローチェ教会の堂内には、コペルニクスの地動説を是認して裁判にかけられ た科学者ガリレイや、近代政治学の基礎を築き「君主論」などで知られるマキャベリらそうそうたる人たちが眠っている。

 教育には学生にその道に就くのに必要な力をつけさせることのほかに、世界のことを考 えさせるきっかけをつくってやる使命がある。学生らには壁画の勉強にとどまらず、はるかな歴史や人物との出会いにもなり、わくわくしながら視野を広げることのできる機会となっている。これを機に、金沢とフィレンツェとの文化交流が生まれてほしい。

◎タクシー規制強化 制度を根本から見直す時

 新規参入や増車の自由化で競争を促し、運賃やサービスの多様化につなげる。小泉政権 の二〇〇二年に始まったタクシーの規制緩和は青写真通りにいかず、国土交通省はその流れに逆行するように規制強化へ舵を切った。運賃値上げが認められた富山市でも、増車が制限される「特定特別監視地域」に指定されたが、台数増加に上からふたをかぶせるだけでは問題の根本的な解決にはなり得ない。

 一方、金沢交通圏では業界が値上げ申請から一転、値下げへと動き、さらに値下げを撤 回する展開をたどった。各社の思惑が複雑に絡んだ結果だが、どの地域にも言えるのは、需要が低迷し、供給過剰のままでは経営環境の改善は望めないということである。運賃設定や規制の在り方、乗務員の待遇問題など、国交省は今回の運賃改定で浮かび上がった課題を洗い出し、事業者個々の経営努力が反映できるような制度へ抜本的に見直す時である。

 国交省はタクシー運賃の値上げ申請が審査基準に達した地域で順次、値上げを認可する 一方、競争がとりわけ激しい仙台を「緊急調整地域」にすることを決め、富山など六交通圏を「特定特別監視地域」に指定し、参入・増車規制に乗り出した。

 事業者は需要が伸びない中で増車して総収入を増やそうとする。競争が激しくなり、車 両の稼働率を上げようとして乗務員の待遇も悪化する。タクシー業界はそんな悪循環に陥っていると言われる。このような需給の不均衡が生じたままで行政が関与の度合いを強めても、業界の足腰は決して強くはならない。

 経営努力を怠れば市場からの退場もやむを得ず、それによって需給の均衡が保たれるの が市場原理である。乗るまでサービスが分からない、降りるまで料金も分からないというタクシーの特殊性が利用者の選択につながりにくいとの指摘もあるが、市場メカニズムがうまく働かないのは規制のあり方にも要因があるのではないだろうか。

 現行の値上げ認可は、需給バランスに関係なく上限運賃が決定されるため、経営努力が 先送りされるという指摘も出ている。経営努力と競争を促しながら供給過剰を解決していくような環境整備が必要だろう。


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