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【茨城】妊婦『受け入れ拒否』の危機 分娩施設が激減 医師は『もう限界』2007年11月24日
奈良県橿原市で八月、妊婦の救急搬送依頼が相次いで拒否され、胎児が死亡した問題は、出産の安全性が脅かされている現実を浮き彫りにした。茨城県で同様の事例報告はないが、分娩(ぶんべん)施設は激減し、産科医からは「もう限界」と悲鳴も上がる。県は「今のままでは『たらい回し』が起きかねない」と危機感を強め、妊婦の受け入れ先を見つけられるシステムの検討を始めた。 (生島章弘) 常陸大宮市野口の主婦小室孝子さん(32)は、自宅から車で約四十分かけて水戸市の水戸済生会総合病院まで通う。双子の妊娠が分かり、地元の診療所の紹介で転院した。 県から「総合周産期母子医療センター」に指定される同病院の産科医は六人。年間約六百件の出産を扱うが、半数はほかの医療機関から搬送される妊婦。「ベッドがすべて埋まったり、陣痛室が定員オーバーしたりすることはたびたび」(山田直樹センター長)という綱渡りの運営が続き、今年からは「里帰り出産」の受け付けも中止した。 年末に帝王切開手術を受ける予定の小室さんだが「出産が早まったとき、受け入れてもらえるか」という不安が頭をかすめる。「心配しても仕方ない。出産にリスクはつきもの」と、自分に言い聞かせている。 ■救急搬送が難航県は医療機関が連携する周産期医療体制を整備している。ただ、この仕組みの搬送対象は、産婦人科を受診している妊婦だけ。かかりつけ医がいなければ、救急隊が受け入れ先を探すほかなく、その点では橿原市のケースと変わりない。 県の調査によると、妊婦の救急搬送で医療機関に六回以上受け入れを照会したケースは昨年一月から今年八月までに十六件。産婦人科を受診した妊婦はスムーズに受け入れ先が決まる一方、かかりつけ医がいない場合は見つかりにくい傾向を示した。ある産科医は「情報のない妊婦をいきなり診るのは無理。結果が悪ければ訴訟に発展することもあり、簡単に『はい、どうぞ』とはいかない」と明かす。 ■労働環境も悪化事態を深刻化させているのは医師不足だ。県内の産科医は約百五十人で、分娩施設は十年前から半減して五十カ所。石渡勇・県産婦人科医会長は「産科医はほとんど休みが取れず、出産の安全を確保できるとは言い切れないほど労働環境が悪化している」と焦りをのぞかせる。 県は一人でも多くの産科医を確保しようと、医学部生への奨学金制度を創設。「たらい回し」防止策としては、現行の周産期医療体制の搬送対象を拡大し、かかりつけ医がいない妊婦も含めるよう、医療関係者でつくる「救急医療対策検討会議」に提案したい考えだ。 しかし、医療関係者の間では、これ以上の負担に反対が根強く、実現性は不透明。県医療対策課は「現行の制度上、『たらい回し』の可能性は否定できない」と危機感を募らせている。 <メモ>県内の周産期医療体制 「県北・県央」「県南・鹿行」「つくば・県西」の3ブロックの総合周産期母子医療センターと、「県北・県央」内の「県北サブ」ブロックの地域周産期母子医療センターを中心に運営。高度医療を提供する4カ所のセンターは、ブロック内の診療所などが手に負えない場合の妊婦を引き受けるほか、病院をあっせんする役割を果たす。 県産婦人科医会によると、母体搬送の70%はブロック内で実施。不測の事態に対応するため、受け入れ先の病院までは原則、かかりつけ医や看護師らが付き添う。
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