岡山大の津島キャンパス(岡山市)は実に広い。学生ガイドと巡るキャンパスツアーに参加し、あらためて実感した。
敷地は約六十三万平方メートル。旧陸軍施設の洋館や薬用植物園、馬場なども点在する。全国に誇る広大な用地が確保できた裏にはドラマがあった。功労者は岡山市出身の黒正巌である。母校の旧制六高校長を務めていた一九四七年秋のこと。
駐留軍の引き揚げに伴い、旧陸軍四十八部隊跡が大蔵省に返還される情報をキャッチした黒正は、六高生に大号令を発し、兵舎を“占拠”させた。「岡山大学二十年史」をみると、黒正が新制総合大学の用地確保を目指し、早くから駐留軍や財務局相手に苦心の交渉を重ねていたことが知れる。
黒正は社会経済史学者としても著名。大阪経済大の初代学長に就任したが、直後の四九年に急逝する。岡山大では黒正の功績をたたえるため、成績優秀な学生に授与する「黒正賞」を六二年に創設した。受賞者は五百人近くに及ぶ。
図書館前には胸像も建つが、黒正を知る人は少ない。「道理は天地を貫く」―黒正が残した言葉だ。創造精神を基調とする社会こそが道理にかなったものであり、それは必ず貫かれるという教育者の信念がこもる。
そんな黒正の生涯を紹介したDVDが先ごろ、大阪経済大と岡山大で製作された。埋もれた郷土の先人にもっと光を当てたい。